前略、大塚幸代様。

今どうしてますか。
今どうしてますかと言われても困るか。僕も途方に暮れています。
追悼文は書かないつもりでした。でも書いてしまった。ツイッターにも書いたしメルマガにも書いた。お名前は出してないけれどウェブ連載にも遠回しに書きました。
今また原稿依頼されて新たに書こうとしています。
通夜と葬儀の連絡をいただいたのが四月一日でした。最初は動揺し、次に四月馬鹿の可能性を考えました。大塚さんのパートナーからの連絡だったからです。大塚さんに共同生活者がいることも知りませんでした。お通夜という名目での結婚披露パーティなんじゃないかと疑いました。
それはちょっと洒落にならないんじゃないかと、会ったら文句を言おうと思いました。でも冗談とかではなかった。
通夜も葬儀も行かないかもしれないと思っていました。そこに行ったら大塚さんがいて、談笑できるなら行くけど、行っても行かなくても大塚さんには会えないのならつまらない。

葬式は生きる僕らのためにやる 君を片づけ生きていくため

という短歌を昔つくったことがあります。追悼文を書くのも生きている僕らが気持ちを整理するためです。
だから今はただ沈黙していようと最初は思いました。でもそのうち黙っていられないくらい気持ちが混乱し、詩を書いていました。

死ぬのはいつも他人ばかり
昔読んだ本に書いてあった
他人のことは忘れていく
いつか不意に思いだしては
好きだった人の好きだったところ
それくらいしか私を生かす力はない
好きだった人の好きだったところ
好きだった人の好きだったところ
「さよなら他人」

大塚さんに返していないものがありました。電子書籍『初恋と座間のヒマワリ』(リイド社)のディスクを十枚、枡野書店で販売する名目で預かったままでした。数えたら七枚になっていたから三枚は売れたのです。でも売上も大塚さんに渡さないまま一年経っていた。

発売記念イベントにゲスト参加したあと、「またイベントしましょう」と約束していました。本当にやろうと思っていたし、大塚さんが紙の本を出す手助けをできると驕っていました。小説を書いたらいいのにと僕は事あるごとにすすめていて、それはもしかしたら大塚さんにとってはストレスだったかもしれない。題材も力量も大塚さんにはもう備わっていて、あとはちょっとしたきっかけだけだと思っていました。僕は三十九冊も紙の本を出したけど出版界に疲れてしまって、四十半ばを過ぎてからお笑い芸人をめざし始め、あしたも昼から浅草で漫才をします。

大塚さん。
『初恋と座間のヒマワリ』の編集担当者・木本隆樹さんに会いましたよ。通夜も葬儀も行き、大塚さんを偲ぶ会も行ったし、大塚さんのパートナーを囲んで中華料理を食べる会にも行きました。こんなに近所に住んでいたならもっと会って話せばよかった。

大塚さんは孤独なイメージがあり、僕は大塚さんの数少ない親友の一人ではないかと勝手に思っていたけれど、そんなこと全然なくて、僕以上に思い出を持つ人とたくさん話しました。大塚さんは僕より友達、多いと思う。
パートナーの彼がどんなに大塚さんを大切に思っていたかは少し話しただけでわかりました。
SNSを通して毎日それが伝わってきます。そういえば大塚さんのお兄様が葬儀で、幸代本人も自分がうっかり死んだことに気づいてないんじゃないか、みたいな意味あいのことを話していて、私もそんな気がしています。

何度か『初恋と座間のヒマワリ』を読み返しました。もともと横組だったものを縦組にしただけでも印象が全然ちがう。判型は「クイック・ジャパン」をイメージしてるんですね。というか、紙の本にする前提で文字が組まれている電子書籍なんですね。デイリーポータルZに書かれた膨大な量の原稿の中から、ほんの一部を厳選したから続編を意識して《青春編》と書いてある。罫線の色は大塚さんの日記サイトの色を踏襲していると伺いました。

大塚さんが日記サイトになにかと食パンのことを書くのが本当に好きでした。大塚さんの初小説は食パンの話から語り始めるといいと思っていました。この本の12ページにも初恋の人が食パンを食べる話が出てきますね。
23ページに亀屋の話が出てくる。亀屋の息子と僕は飲み友達なんですが彼は最近やっと童貞を捨てました。その話も伝えてなかった。

36ページに書いてある「死」に関する言葉に胸が詰まります。51ページの授業に関する鋭い考察に唸ります。56ページの注釈の言葉、これを書名にして新書が書けると思いました。
74ページの文、大好き。これ小説ですよね。あとがきが遺書みたい。ごめんなさい。感想はもっともっと早く伝えなくちゃ駄目でした。

随所にある本秀康さんの似顔絵が大塚さんの可愛さをうまく捉えています。読み返して大塚さんのことが好きだと改めて思いました。大塚さんの友達と、これから大塚さんの話をしながら飲んだり食べたりしつつ、もう少しだけ生きてみます。草々。2015年4月21日。

枡野浩一(歌人)

大塚幸代『初恋と座間のヒマワリ』(リ イドカフェにて5/23まで無料公開)
同電子書籍に寄せた枡野浩一さんの追悼文を、枡野さんとリイド社編集担当者・木本隆樹さんの許可を得て、エキレビ!に同時掲載させていただきました。