
今回のエピソードは池井戸潤の短編小説集『銀行狐』(講談社文庫)に収録されている「現金その場限り」が下敷きになっている。原作小説の舞台も銀行だが、相馬や舞は登場しない。現金紛失の事件の謎を追う役を担うのは係長の灰原という男性。「私たちを疑ってるんですか」「まだ、課長と係長の私物が済んでません」「新聞に載る銀行員の不正は女子行員だけじゃないと思います」と、舞を思わせる口調でくってかかるのは女子行員は、吉川恭子その人だ。
防犯カメラをチェックしているときに異変に気づくくだりは同じ。だが、その後の展開は原作小説とドラマで少々異なる。今回はその違いを振り返りたい。
上川隆也に双子疑惑が浮上
原作小説のタイトルで、ドラマ内にもたびたび登場する「現金その場限り」というフレーズ。「客に渡す現金の過不足はその場で確認しなければいけないという原則」を指す。
ドラマでは、恭子は自らも馬場社長に貯金を渡し、さらに1000万もの借金を重ねていた。馬場を恨むどころか、平凡な生活に色を添えてくれたと感謝し、ひとりで罪をかぶろうとする。一方、馬場はというと、恭子が勝手にやったことだと主張。舞を怒りに打ち震えさせる。しかし、じつは馬場はお金目的で恭子に近づいたことが発覚。相馬のリサーチによって、他にも多くの女性と交際し、お金をせびっていた結婚詐欺師だということが明らかにされる。
それにしても相馬さん、いつのまに証拠写真を撮りに行っていたのか。じつは双子だったりするのか、それとも舞のお父さんがひそかにサポートして……と、妄想をかきたてられる。
花咲舞、恋の不完全燃焼エピソードを振り返る
一方、原作小説では、取り押さえられた後の馬場社長は《蒼白な顔で立ち尽くしている》だけ。いたって地味なリアクションだ。そもそも、人柄も《発想は悪くないが商売下手な男》という設定で、結婚詐欺師とはほど遠い(ただし、深紅のベンツに乗っている)。
ドラマの吉川は、けなげなハイミス(死語)といった風情だった。しかし、原作小説のほうは別の要素も加わる。吉川が現金300万円を紛失した罪をなすりつけた相手もまた、馬場とつきあっていたという設定。つまり、恋人への貢ぎものをゲットするのと同時に、恋敵の足も引っ張るという一石二鳥を狙ったのだ。一粒でふたつおいしい、恋のブラック戦略である。
また、未処理の書類をきびきびと片づけ終えると、「行きましょう」と立ち尽くす馬場を促す。そこには男の甘言に振り回され、言いなりになるだけの女の姿はない。でも、彼女が凜と背筋を伸ばせば伸ばすほど、悲しくもなる。
さて、今夜放送の第4話のテーマは「女性行員のストーカー被害」。中越典子演じる融資課の女性の危機を救うべく、舞と相馬が奔走する。それにしても、成宮寛貴はいつ戻ってくるんでしょうか。舞と恋するんじゃなかったのか。
(島影真奈美)
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