そこで今回は、このライブを通して感じたメッセージや演出面での特徴について書いていきます。
【メッセージ性の強さ】
確かにいままでのライブでも、メッセージ性の強い曲、演出を披露することが多くありました。しかし、今回のライブでは、そのメッセージ性が特に強く感じられました。
象徴的だったシーンを紹介します。ライブ中盤、ヴォーカルの桜井さんは漫画にもなっている『ブッダ』のエピソードに触れ、「愛とはなにか。愛とは想像力ではないでしょうか。言葉ではうまく説明できないですが、音楽でなら伝えられると思い、この曲をお届けします。たくさんの想像力を使って聞いてください」と語った後、『and i love you』、『タガタメ』を続けて披露しました。
この2曲はメッセージ性が強い曲です。実際に『and i love you』は、反戦的メッセージを強く感じた日清カップヌードルのCM「NO BORDER」シリーズのテーマ曲でした。
そして、『タガタメ』は「子供らを被害者に 加害者にもせずに この街で暮らすため まず何をすべきだろう?」、「誰がため戦って 戦って誰勝った?」といった歌詞が特徴的な曲で、かつては『News23』で披露したこともありました。
そして演出面でも、『タガタメ』披露時、スクリーンには紛争の映像や子供たちの映像などが流れており、こちらもかなりメッセージ性が強かったです。
また、先述した桜井さんのMCで、愛の種類について触れていた部分があったのですが、会場によっては「地元愛や阪神愛、愛国心なども愛の種類なんです」などと「愛国心」について触れたことがありました。
普段は政治的発言をまったくせず、これをある意味で信条としている桜井さんにしては、若干踏み込んだ表現をしているなと印象に残りました。
ところで、ライブ前に発売された雑誌『MUSICA』のインタビューで、桜井さんは「みんなで歌える一体感だけが売りでないツアーで、鑑賞する部分もすごい作りこんでいる。ある世界に入り込んでもらえると思う」と語っていました。この演出では、特にそれを強く感じました。
【ネガティブからポジティブへ】
もうひとつ、ライブで印象的だったシーンがあります。それは17曲目の『ALIVE』での演出。
イントロが流れだすと、桜井さんがステージに設置されたルームランナー上を歩き、そのまま歌い出しました。ルームランナーなので、歩けども歩けども前には進みません。スクリーンでの演出も、「歩いても進まない」というもどかしさを表すかのような暗い、モノトーンな内容でした。
しかしその後、大サビに行く前くらいでルームランナーを外れ、実際に歩き始めます。これに合わせて演出も、モノクロから虹色のような色とりどりの明るい色へと変化します。
この演出はまさに、歌の中でネガティブからポジティブに変わる心の動きを表現する、ミスチル的応援歌の王道という印象を受けます。
実際に『ALIVE』披露前には、『REM』・『WALTZ』・『フェイク』とどちらかというと、ネガティブな要素が強い曲を続けて演奏していたことも、より『ALIVE』でのポジティブへの変化を際立てていました。
このようなライブでの見せ方は、かつて音楽雑誌『WHAT's IN?』で桜井さんが宇多田ヒカルと対談した際、「オセロみたいに最後に白を置くことで、黒を全部白に変えるような詞の乗せ方が好き」と語っていたことにも共通するように思えます。
また、ネガティブからポジティブということは、今のMr.Childrenの状況も表しているのではないでしょうか。というもの彼らは、昨年に小林武史プロデュースを外れたため、ライブでの演出などもメンバー達で決めなければならず、苦労したと振り返っています。
そんな苦労のなかで素晴らしいライブを見せ、結果的に"ポジティブ"へと変えたミスチル自身にも重なるものがありました。
【Mr.Childrenがライブで伝えたかったことは?】
では最後に、今回のライブ全体でMr.Childrenがなにを伝えたかったのかという部分です。彼らは今回のライブを通してファンになにを伝えたかったのでしょうか?
・私たちは「未完」であること
最後の曲となった『Starting over』の前の演出では、スクリーンにこんなメッセージが流されていました。
「私たちは何かをしっているようで、何もしらない。知らないからこそ、存在することもある。私たちはそれを可能性と呼んだり、希望と呼んだりするかもしれない。わたしたちはいつでも生まれ変われる」
ツアータイトル通り、人間は完成することなく「未完」であること。しかしこれは、必ずしも悪いことではなく、昨年のファンクラブ限定ライブで桜井さんが発言していたように「それは成長の余地があることでもある」と伝えたかったのではと感じます。
・だからこそ共に頑張ろうということ
可能性があり、成長できる余地があるからこそ、辛くても頑張っていこうよというメッセージも感じました。
実際にライブ終了後、ファンに向かって桜井さんは「みんなそれぞれの場所で頑張って!」と語っていましたし、ライブ序盤で『FIGHT CLUB』を演奏した際も、「一緒に戦おうぜ マイフレンド!」と言ってました。
また、雑誌『MUSICA』のインタビューで「アルバム『REFLECTION』でなにを証明できたか」と聞かれたとき、桜井さんは「俺らも色々あった、『みんなもそうだよね、頑張ろうよ』ということ」と答えていました。これらの言葉通り、ミスチルとファン、一緒に頑張っていこうという想いがライブにも強く表れていました。
・全身全霊で音楽をやっていること
今回のツアーパンフレットで、桜井さんはこんな風に語っています。
「今回のアルバム(『REFLECTION』)は23年間やっているが、今もなお死にものぐるいで全身全霊で音楽をやっていることを表現した。そんな意味でのバンド臭さや人間臭さを伝えてくことが、今回のツアー出来ることだと思っている」
確かにライブは3時間半、27曲もの楽曲を披露しており、まさに全身全霊という表現がふさわしいものでした。
一緒に戦っていこうと言った彼らだからこそ、まずは自分たちが今の地位に甘んじず、戦っていく姿勢を見せてくれたのではないでしょうか。
(さのゆう)