かれこれ25年前、そのティラミスに空前の大ブームがあったことを覚えているだろうか?
きっかけは流行をあおる雑誌『Hanako』から
すべては女性誌『Hanako』の90年4月12日号、「イタリアン・デザートの新しい女王、ティラミスの緊急大情報」という記事から始まった。
「いま都会的な女性は、おいしいティラミスを食べさせる店すべてを知らなければならない。」と、刺激的なキャッチコピーが読者をあおる。1988年創刊の『Hanako』は、首都圏のきめ細かな最新情報がびっしり詰まった雑誌としてすでに熱狂的な支持を集めていた。バイブルとあがめ、その情報を生活に取り入れる女性たちを指す「Hanako族」という言葉が生まれたほどである。
「スイーツ」という言葉も91年に『Hanako』が使い始めており、当時のトレンドへの影響力は絶大だったのだ。
「都会的な女性」はもちろんだが、デートの店選びに使う男性読者も多かった時代だ。その若者たちがティラミスを扱うイタリアンレストランに殺到した。その盛り上がりは一般週刊誌やテレビにも飛び火し、メデイアを席巻! 様々な業種が我先にとこの波に乗り始めたのだ。
洋菓子店がテイクアウトを始め、デニーズを筆頭にファミレスやファストフード店にも続々と登場。チョコレーなどのお菓子や菓子パンにもティラミス味が登場し、コンビニでも販売がスタートと、驚異的なスピードで日本全国にティラミス旋風が巻き起こることとなる。
ぽっと出の大型ルーキーのイメージも強いティラミスだが、実際はブーム以前から高級イタリア料理店では普通に取り扱われていたメニュー。なぜここまで急速に普及したのだろうか?
ティラミス人気大爆発の理由は?
まずは「イタ飯(めし)」ブームの流れに乗ったことが挙げられる。1980年代末のバブル景気の中、イタリアのファッション&インテリア&グルメが大人気であった。
そう、イタリア生まれのスイーツ、ティラミスを受け入れる土壌はすでに確立されていたのだ。しかも、70年代の大ヒット以降、常に人気の最前線にいたチーズケーキの仲間でもあるし、80年代後半から注目を集めていたムースの一種ともいえる。スイーツのジャンル的にも、ヒットは必然だったのかも知れない。
また、ティラミスに欠かせないマスカルポーネチーズは、本来非常に高価で日持ちもしないものだ。そこで安価・保存期間が長い・加工しやすい、と三拍子揃った純植物性クリームの代替品が登場する。これにより価格も下がり、供給も安定。一気に大衆化も進むことになる。
さらに、ティラミスというネーミングの妙。
イタリア語では「私を引っ張りあげて」「私を天に連れてって」という意味になる。そこで、当時の女性誌では「天使のお菓子」、男性誌では「昇天ケーキ」とも呼ばれていたそうだ。
その後もクレームブリュレ、ナタデココ、パンナコッタなどなど時代を彩るスイーツは生まれているが、ティラミスほどに世間を騒がしたスイーツは他にはない。最近はスイーツとスイーツを掛け合わせた「ハイブリッドスイーツ」が話題となっているが、ティラミスはパンケーキと合体した「ティラミスパンケーキ」として再び注目を集めている。
その姿、ブームが続くパンケーキに「私を引っ張りあげて」としがみつくティラミスといったところか。スイーツブームの火付け役は実にしぶといのである。
(バーグマン田形)