全ブロックを振り返る
今年のR-1ぐらんぷりは、フリップや漫談といった技巧派より、体一つでぶつかっていく芸人に勢いがあった。ネタ時間3分という短さが、インパクト勝負に有利に働いたのかもしれない。ここで全ブロックをふりかえってみたい。

イラスト/小西りえこ
■Aブロック:エハラマサヒロ、小島よしお、シャンプーハットこいで、サンシャイン池崎
キャラコント、フリップ、イエーイ!と、それぞれ別次元のネタが揃ったAブロック。「こじこじマリオネット」で登場した小島よしおは、TBS『水曜日のダウンタウン』(2月24日放送)の「この3人のやつ誰がやっても面白い説」を、図らずもフジテレビで実証する形に。事務所は今大会唯一のサンミュージック。いま大変でもそんなの関係ねぇ、だそう。

イラスト/小西りえこ
■Bブロック:ハリウッドザコシショウ、おいでやす小田、横澤夏子、ルシファー吉岡
「このあとでけへんで!誰ができるこれ!?(間寛平)」「ちょっと来週にせぇへんか?(板尾創路)」
なんといってもザコシショウの爆発力。ネタ後も客席含め笑いが止まらない。審査結果の発表を待たず、ネタ後に審査員がコメントをしたのはザコシショウのみだ。また、長くモノマネを続けている関根勤や清水ミチコが、ザコシショウのモノマネに持ち点3点すべてを入れていたのも印象的。「似てないのになお破壊するというのが、やったこと誰もないと思うんですよね。よく今まで売れなかったなと(清水ミチコ)」

イラスト/小西りえこ
■Cブロック:厚切りジェイソン、ゆりやんレトリィバァ、とにかく明るい安村、マツモトクラブ
厚切り&とに安という昨年のR-1ブレイク組を含むブロック。
■ファイナル:小島よしお、ハリウッドザコシショウ、ゆりやんレトリィバァ
こんなストロングスタイルな3人が揃うなんて、誰が予想しただろう。全員「1本目にアレやって、2本目は何やるんだろう」と思われながら、蓋を開けたら2本目も同じ展開を続けるという強肩ぶり。小島よしおが人形と共に回りだし、ゆりやんが巨体を揺らし歌い上げ、ザコシショウの最後のフリップ「古畑任三郎」が出た瞬間に客席が「待ってました」と沸く。こんなに力技で押し続けるR-1は記憶に無い。これまでからすると明らかに異色な、それでいて明らかに盛り上がった年だったと思う。
ザコシショウが破った「線」
似ている似ていないはもう関係無い、狂気すれすれのモノマネ。
ただ、ひたすら笑い終わったあと、頭に浮かぶんだのは「これテレビで大丈夫かな」「ゴールデンだぞ」という不安だった。だって、その日一番受けていたのが“狂気”と“下ネタ”だったのだ。
「コンプライアンス」という言葉はすっかりお馴染みになった。この線をはみ出したらいけない、という「この線」を考えるようになってしまった。テレビを作る側が「この線」を意識するあまり冒険を控え、それを感じた人々はテレビはつまらなくなったと言うようになった。
でも「この線」を意識していたのは視聴者だって同じなのだ。「線からはみ出しそう」とヒヤヒヤし、はみ出したあとの揉め事を想像し、はみ出した顛末をSNSでシェアするようになった。それを繰り返した結果、線の位置がどんどん手前に移動してしまった。本来線に引っかからない物まで「引っかかるのでは」と思うようになってしまった。
今回のザコシショウの優勝は「この線」の場所を本来の位置へぐっと押し戻した。
「そのお前の嫌悪感を、バカバカしさが越えてくるだろう?」
テレビのバカバカしさが常識やしがらみを吹っ飛ばすのを観てきたし、これからも観せてほしいと願っている。
ハランバンデンデヘンマハンマーカンマー!
(井上マサキ イラスト/小西りえこ)