1990年代といえば、ヴィジュアル系バンドの黄金期だ。「X JAPAN」や「LUNA SEA」、「MALICE MIZER」「SHAZNA」「PIERROT」「Dir en grey(現在はDIR EN GREY表記)」といったバンドが人気を博し、独特なメイクとファッションで音楽を楽しむ文化が広がっていった。


この時代、ヴィジュアル系バンドのファンがこぞって集った原宿・神宮橋を振り返ってみよう。

コスプレ文化が広まった90年代後半


ヴィジュアル系文化の広がりを受けて、「コスプレ族」と呼ばれる一部のファンが登場しはじめたのは1990年代後半ごろだった。

当時のヴィジュアル系といえば、ド派手なカラーのヘアスタイルに、奇抜で中性的なメイク、そしてバンドや楽曲の世界観を表現した個性的な衣装が目新しく、世間の注目を集めた。

もちろん、すぐれた音楽性があるバンドも多々あった。しかし、世の中が注目したのが「ヴィジュアル」のインパクトであったことは否めず、バンドの側もまたインパクト合戦のような様相を呈していたのだった。

こうした状況で、ファンの間ではメンバーを模倣してコスプレをする者が現れ、「コスプレ族」などと呼ばれて話題を呼んだ。コスプレをしてライブやイベントに参加したり、街中で交流をするファンが増えたことで、ファンの間でよく知られた有名コスプレイヤーも登場。コスプレの完成度の高さや、容姿の美しさなどがポイントだった。

ネットの代わりに実際に集ったファンたち


現在、ファン同士が交流するとなれば、すぐにインターネットの掲示板やSNSを利用するだろう。しかし、当時はまだインターネットがそれほど普及しておらず、ネットでファン同士が交流するということもあまりなかった時代だ。ファンが作ったテキストサイトなどは存在したが、基本的には雑誌の投稿欄で知り合ったファン同士が、文通で交流することなどが主だった。

そんな中、コスプレイヤーがこぞって集った場所といえば、東京・原宿にある神宮橋である。神宮橋とは、原宿駅の表参道口を出てすぐ、明治神宮へつながる橋のことだ。
下には山手線が走り、賑わう表参道がよく臨める。

コスプレ族たちは休日になると、自慢のコスプレで身を包み、この神宮橋に集ったのである。そして、この場所がヴィジュアル系ファンたちの“聖地”となり、「橋」と呼ばれて親しまれることとなった。

仲間同士でメンバーの担当を決めて、5人組で一つのバンドの真似をするファンもおり、通りすがったバンドのファンや外国人観光客が、物珍しそうに写真撮影をねだる場面も見られた。ファンはこうして疑似家族のような集団を形成していたのだ。

現在、ヴィジュアル系のコスプレ文化は90年代に比べるとかなり衰退した感がある。ライブ会場にも、当時ほど気合いを入れたコスプレイヤーはなかなか見られなくなった。バンド側のファッションの変化も影響しているのだろう。

今では休日に集うファンの姿はほぼ見られなくなったが、神宮橋を通るたびに、当時たむろしていたド派手なコスプレ集団の姿を思い出してしまうのだ。
(野中すふれ)
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