日本人にとってカニのパンといえば、カニの形はすれどもカニは入っていない、あの「かにぱん」だ。成分表を見てカニのカの字もないことにズコーッとなった人は多いだろうが、こちら韓国では、パンの中に本当にカニが入っているカニパンが発売され、話題を集めている。
そのお店の名は「蔚珍(ウルジン)テゲパン」。ずわいがに(韓国語でテゲ)の名産地・蔚珍の名を冠しているが、本店は仁川(インチョン)の漁港、蘇莱浦口(ソレポグ)に位置する。噂のカニパンを求め、ソウルから地下鉄を乗り継ぎ1時間半かけて出かけてみた。
カニパン発祥の地へ
その小さなパン屋は、観光客であふれる魚市場の向かいにある、真新しいビルに入店していた。店先にはひっきりなしにお客が訪れ、人気のほどがうかがえる。記者も負けじと列に並んでみる。
店頭に並ぶのは、リアルなカニの形が目を引く「ずわいがにパン」。クルミ味、ブルーベリー味、シュークリーム味(カスタードクリームが入っている)、サンドイッチ味(ハムやチーズが挟まれている)の4種類がある。
説明によるとパン生地にカニ肉が混ざっているらしい。ブルーベリーやクリームとの未知なるハーモニーは期待させるものがあるが、というかそんなちっぽけな期待をぶっとばす大物がその隣に!
本物の甲羅の中にパン生地が詰まった、その名も「ずわいがにマフィン」。リアルなカニの形とか以前に、ほとんど本物のカニだから反則だ。もちろんこちらもパン生地の中にカニ肉が入っている。
カニの香りがすごい
ずっしり、かつひんやりとしたマフィンを受け取るも、さすがに寒空の下のベンチで食べる気はしないので、再び地下鉄に乗ってソウルの家に戻り、試食タイムに入る。
開封前からうっすら気づいていたのだが、袋を開けると豊満なカニの香りがぷ~んと香る。
付属のスプーンで、パンをほじってみる。さらに溢れ出すカニの香り。パン生地をよく観察すると赤い点々が見えるが、これこそがカニ肉を茹でて急速冷凍し粉にしたものだろう。
緊張しながらひとくちほおばると……おお、予想以上に普通のマフィンの味である、と思ったのもつかの間、数秒後に遅れてやってくる、ふわっとざらっとした後味がまさにカニ。そう、これぞカニパンだ! それ以外の言葉では表現できそうにない、まさに奇跡の味であった。
日本にやってくる……かも
どうしてこんな奇抜な商品を開発することになったのか、ずわいがにマフィンで特許も申請している蔚珍テゲパンに直接聞いてみた。
カニの形をした「ずわいがにパン」でお店を創業し、「ずわいがにマフィン」を開発したのは2年前。もともと蔚珍で獲れたカニの甲羅を、日本で消費されるカニグラタン用に輸出していたが、ウォン円レートの激変で収益が減り、国内向けの商品として甲羅を使えないかと試行錯誤したのがきっかけだ。
現在は全国に18の店舗を持つほどの人気となり、日本の企業からも問い合わせが来ているとか。
ちなみに夏場には「ずわいがにアイスクリーム」も販売しているそう。お店に掲示された写真を見ると、ずわいがにの甲羅の中にアイスクリームがとぐろを巻いているこの商品。冬に訪れた記者は食べることができなかったが、きっと同様なカニの香りが待ち構えているのだろう。
今後もとんでもないカニスウィーツを続々生み出してくれるだろう、蔚珍テゲパン。このお店であなたも、一度足を踏み入れたら二度と抜け出せなさそうな、カニの奥深き世界を垣間見てはいかがだろう。
(清水2000)