20代前半の頃に同じシチュエーションに出くわしたら、「おい、カメラ止めんなよ」とカメラマンに指示し、その声の主の素人に「お前、誰に向かって口きいとんねん!」と掴みかかっていたそうです。「カメラ止めろ」ではなく、「止めんなよ」です。本来映してはならない暴行の一部始終を撮影させるなど、普通ではありません。そう、昔の浜田はそれこそ「考えられへん」くらい気性が荒かったのです。
暴れん坊作家をスタジオに招いて…
その凶暴性が最も端的に発揮された出来事の一つが、今から20年以上前の『ガキの使いやあらへんで!』で起こりました。それは「チキチキ野坂昭如 たたいて さぁ何点!?」という企画でのこと。
野坂昭如は、言わずと知れたスタジオジブリ不朽の名作『火垂るの墓』の原作者。2015年の暮れに逝去し、ニュース番組に度々取り上げられていたのは記憶に新しいところでしょう。その訃報を伝える際、彼の人となり・実績を示す映像として『火垂るの墓』と共に多く放送されていたのが、映画監督の大島渚に殴りかかるシーン。あの一場面だけ切り取ってみても、この直木賞作家がキレるとなにをしでかすか分からない乱暴者だと、よく理解できるというものです。
浜田雅功と野坂昭如 乱暴者同士の化学反応
そんな彼を迎えて、実施された企画が「たたいて さぁ何点!?」です。これは普通のトーク番組だと思ってスタジオに来た野坂へ、ダウンタウンの2人が突っ込みを入れてポイントを稼いでいき(例えば、体をたたくは1点、マイクで頭をはたくは5万点など)、その合計点を浜田と松本が競うというゲームです。
こんな企画に野坂をぶつけること、そして浜田と合流させることなど、明らかなる確信犯。当然のように、ブチ切れた野坂と応戦する浜田の異種格闘技戦が勃発するわけですが、その様子は壮絶なものだったと、相方の松本から度々語られています。
壮絶! ノーガードの殴り合いが繰り広げられる
島田紳助と共演した深夜番組『松本紳助』、放送作家の高須光聖とのラジオ番組『放送室』、自身が司会を務める『ワイドナショー』と少なくとも計3回、松本はこの日の出来事についてメディアで述懐しています。彼の長い芸能生活において、それだけ強烈なインパクトを残す“すべらない話”ということなのでしょう。
松本の伝えるところでは、浜田がゲーム開始直後、いきなり野坂の頭をボーン!と叩いたそうです。野坂も瞬時に頭へ血が上り、浜田の腹に強烈な右ストレートを見舞ったとのこと。そこから「ジジイ!」「なんやー!!」と、怒声交じりの乱打戦が繰り広げられたのだとか。しかし、「はい!オッケ―!」とリングのセコンドのごとくスタッフが止めに入った後、浜田と野坂は一触即発の空気を残しながらも「お疲れ様でしたー」と言って、しっかり戦いをカメラの前だけで収めたそうです。
野生の本能が戦いをストップさせた?
ここで想起させられるのは、野生はリスクを冒さないという、自然界の不文律。百獣の王ライオンが同じ肉食獣ではなくガゼルやインパラを狙うのは、安易に獲物を仕留められるならそれに越したことはないという本能が働いているからです。
浜田雅功と野坂昭如。拳を交えている最中「こいつは危ないやつだ」と野生のDNAが語り掛け、それぞれの矛を収めさせたのでしょうか。浜田が大らかな人柄となり、野坂が節子の元へ旅立ってしまった今となっては、知る由もありません。
(こじへい)
※イメージ画像はamazonよりSWITCH Vol.30 No.12 ◆ 浜田雅功 ◆ 誰がためのツッコミか