そのフレーズに大きく異存はないが、90年代にショートカットの代名詞だったのは「内田」と「ヒロスエ」だけではない。
私が思うに90年代は「元気印ショートカット」の一大全盛期でもあった。
元気印ショートカットとは、とにかく徹頭徹尾明るく、前向きで、いつも笑っていて、声がでかく、ボーイッシュで、色気にはかけるけど可愛いショートカット女性芸能人のイメージである。こういうキャラのポジションが、芸能界の中でしっかりと確立していたのが90年代であった。
元気印ショートカットを開拓した相原勇
まずその筆頭としてあげられるのは相原勇である。
80年代に秋元康にプロデュースされながら鳴かず飛ばずのアイドル時代(小原靖子名義)を経て、相原勇に改名。
「イカ天」こと『三宅裕司のいかすバンド天国』のサブ司会に抜擢されて以後、小さくて元気なショートカットキャラで人気を博した。
メイン司会の三宅裕司やシニアな審査員からは「親戚の色気のない姪っ子」みたいな扱いであったが、出場バンド・宮尾すすむと日本の社長の「2枚でどうだ!」という夜の営みの被り物についての曲を聴いて「あたしすぐわかったよ」と言うなど、時折みせるギャップもまた人気の要因であった。

ちなみに筆者は小原靖子時代の彼女をイベントで何度か見ているが、実はデビュー時からキャラ自体はそう変わっていない。しかしアイドル界から主戦場をバラエティに移したことでいっきに才能が開花。93年にはショートカット元気印女性芸能人なら誰もが憧れるミュージカル『ピーターパン』の主役にも抜擢されている。
その後の曙との騒動や離婚、過去の事務所倒産・ヌードなど、いろいろあった彼女だけに、近年では、その元気印キャラについて「むしろ痛々しい」というような評価がされることが多いが、90年代元気印ショートカット全盛期を切り開いた功労者として再評価してもいいだろう。
数々のバラエティ番組で活躍した鈴木蘭々
相原勇に続いてブレイクしたショートカット元気印が鈴木蘭々である。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコーナー「改造人間カスタムひかる」で美少女ぶりが注目され、その後は『ポンキッキーズ』における安室奈美恵とのうさぎ着ぐるみコンビ・シスターラビッツをはじめ、数々のバラエティ番組で活躍した。

鈴木蘭々は、先達の相原勇のような「元気だけど内心はめっちゃ周囲に気を使ってそうな感じ」ではなく、「小学生男子のように心底無邪気で全然気を使ってなさそうな感じ」だったところが新鮮であった。
ハーフのような顔立ちでありながらハーフでない、ハーフのような名前でありながらハーフではない(鈴木蘭々は芸名)、しかしハーフのようなフランクさがある。
そんな彼女の存在が現代にまで続くハーフタレント全盛につながっているという分析もあながち間違いではないだろう。繰り返すが彼女はハーフでは全然ないのだけれど。
エンクミこと遠藤久美子の登場
続いて出てきた元気印ショートカットが、エンクミこと遠藤久美子である。
広末涼子がポケベルCMでいっきに知名度を上げた1年前、エンクミもマクドナルドのCMがきっかけで一躍有名となった。
証明写真ボックスで写真をとっている間に、外で友人がシェイク、ポテト、最後はビッグマックまで食べてしまう(実は嘘)というCMで見せたショートカット困り顔で「あの娘は誰?」という声が殺到。その後はバラエティに主戦場を移し、ショートカット、太眉、でかい目、元気、天然キャラでひっぱりだことなった。

エンクミは本人自身がそうであったように女性バスケ部員の部活帰りのような明るさで、バラエティを席巻した。結果的に「部活少女」の席はヒロスエに奪われていったのだが、ヒロスエとは主戦場が違ったことで、しばらくの間バラエティでショートカットといえばエンクミの時代が続いた。
その後、エンクミは女優路線に転向、髪を伸ばしたり艶やかな役にも挑戦している。ショートカット元気印の人が、その後ロングヘアー艶やか路線に移行するのは、宝塚男役だった人の退団後みたいなもので、これはこれで必然なのかもしれない。
元気印ショートカットに復活の兆し? 佐藤栞里の登場
90年代後半からは「元気印」の代名詞はこずえ鈴(現フリーディア)、さらにはベッキーというハーフタレントが担うこととなり、そこでは必ずしもショートカットは必須アイテムでなくなっていった。
また、現在は当時と異なり、世の中的にも芸能界的にもショートカットは別に珍しくない。

そんな絶滅危惧種の元気印ショートカットだが、近時、バラエティ界に佐藤栞里が現れ、復活の兆しが見えている。
『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』の「朝までハシゴの旅」で注目された彼女。いつも笑顔で、明るく、感情表現が豊か、人見知りもしない様子に、往時のショートカットレジェンドたちが重なる。
元気印ハーフの女王が手負いの状況下、この後も佐藤栞里に続く元気印ショートカットが出て来るのか、静かに見守りたい。
(前川ヤスタカ)
※イメージ画像はamazonよりThank you
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