
かつてぎょう虫検査は、小学校三年生以下の全児童に検査が義務付けられていたが、2015年をもって九州の一部地域を除き廃止されている。ぎょう虫は、口から感染し、ヒトの盲腸部に宿り成長する寄生虫である。夜間になると腸内を進み、肛門からはい出し、周囲に大量の卵を産み付ける。その際、強烈なかゆみが生ずる。ぎょう虫は白い糸くず状であり、大きさはメスで最大13ミリとなるため、目で確認できる大きさだ。
ぎょう虫は感染力が非常に強く、卵がシャツや下着について他の人間に触れることで感染する。さらに地面に落ちた卵が、掃除や、人が動くことで舞い上がり口に入る塵芥(じんかい)感染も起こりうる。学校空間はもちろん、家庭内や銭湯など、人が密集している場所ならどこでも感染のリスクがある。検査が義務付けられていた子供だけでなく、大人も感染する。
ぎょう虫検査が廃止されたきっかけは感染率が著しく低下したためである。
かつては、ぎょう虫を媒介する原因の一つとして、汲み取り式のトイレがあげられていた。実は筆者も、30年ほど前の小学生時代にぎょう虫検査に引っかかったことがある。当時、我が家は汲み取り式の“ボットン便所”であった。医者にかかり、虫下しの真っ赤な錠剤が処方されたのだが、大きさが大人の親指の先くらいあり、なかなか飲み込めなかった記憶がある。
ぎょう虫検査でおなじみなのはセロファン式の検査キットだろう。起床直後にシールをはがし肛門にはりつける。ぎょう虫は肛門の卵の有無によって判別するため、検便で見つけることは難しい。感染していても一回の検査で結果が出ないこともあるため、数度に分けて行う必要もあった。ぎょう虫は実にやっかいな寄生虫であったのだ。
(下地直輝)