2016年4月のエキレビ!に「聖飢魔IIはいいかげんな主題歌を手がけてこなかった。「荒涼たる新世界」へと至る長い長い迂回
を書いた縁で、デーモン閣下に謁見できることになり、映画『貞子vs伽椰子』公開イベント会場に、エキレビ!編集アライさんと駆けつけた。
(イベントレポ)
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
いよいよデーモン閣下に謁見! 内心ドキドキしているブルボン小林

閣下はイベントに出演されるのだが、空き時間にさまざまな取材やネットの動画撮影をこなしているそうだ。
我々の取材はイベントの前(もしかしたら後にも)に行えるということだったが、前の取材が押しているらしい。円筒形の建物のアールのついた廊下で、アライさんと所在なく待ち続ける。
インカムをつけたスタッフらしき女性が、足早に歩きながら「閣下、何とか室入りました」「閣下十分押しです」とか言うのが聞き取れて、やはり新鮮だ。
イベント開始時間の二十分前、ついに現れたデーモン閣下に気圧されつつ、取材開始!
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
「貞子vs伽椰子」
6月18日全国ロードショー
(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会

*本日6/18から 6/23まで毎日更新、全六回のミニ連載でお届けします

なかなか気づく人がいないんだよね


──こないだエキレビ!に記事を書いたんです。「聖飢魔IIはいいかげんなタイアップをしてこなかった」という。

デーモン閣下(以下、閣下) ほうほう。


──タイアップということに焦点を絞って、聖飢魔IIが今までどんなタイアップをやってきたかを。で、今度のシングルも楽しみだという記事を書いたんですよ。

閣下 そっかそっか。

──でも、記事をアップしながら内心ドキドキしてたんですよ(笑)。今度のタイアップもきっとすごいに違いないと書いといて、全っ然、内容と関係ないようなバラードなんかが出てきちゃたら。

閣下(微笑)

──そうしたら、僕が書いた通り、ばっちり内容にハマった曲で「ホッ!」と(補足・『テラフォーマーズ』の主題歌『荒涼たる新世界』はデーモン閣下ではなく、ダミアン浜田陛下の作詞・作曲。
だがこれもまた、作品内容をきちんと踏まえた名曲だ)。なにしろ勝手に請け合っちゃったんで。今度の新曲『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』、(シャ・ナ・ナ・ナは正式には半角表記)タイアップというもののお手本といっていい、ちゃんと原作の設定を歌詞に踏まえてて、曲調もおどろおどろしいホラー映画らしいもので。
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
小教典「荒涼たる新世界 / PLANET / THE HELL」

閣下 そんなに、おどろおどろしいわけでもないけど。

──にぎやかな、お祭り的な感じもありますね。で、記事にも書いたんですけど、閣下は曲作りに際してタイアップということを意識してると思うんです。
イメージだけ寄せたタイアップ曲もあるかもしれないですけど、ほとんどの曲で、タイアップ元のネタを歌詞に織り込むとか。閣下のソロのシングルに「FOREST OF ROCKS」がありますね。仮面ライダーフォーゼの映画版の、フォーゼと、えーとなんだっけ?

閣下 ウィザード……(二人、もとい一人と一名で宙をあおぎながら)アルティメイタム……
(補足・正式な題名は『仮面ライダー×仮面ライダーウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』2012年公開作)

──……なんとか大戦! そうです、そのエンディングテーマということで、最初はへぇくらいに思って聞いてたんだけども、突然題名に……

閣下 気がついたと。

──FOREST OF ROCKSで「石」「ノ」「森」!

閣下 なかなか気づく人がいないんだよね。

──気づかれなくてもいいっていう美意識がありますよね、閣下の言葉遊びは。よく読むと面白い仕掛けがあるのに、あまり声高にそのことをアナウンスしてないですね。


閣下 (うんうんと頷く)

──同時に、閣下の手がける曲は、タイアップ元を離れても独立して楽しめるようにもなってます。たとえばロックオペラ『ハムレット』の劇中曲だった『KIMIGAYOは千代に八千代の物語』は、亡くなったハムレットの父親がクローディアスの悪事を告白するという場面の曲、だから正しくハムレットの劇中曲ですよね。

閣下 うん、そうだね。

──でもそれが後に聖飢魔IIの曲になると、もはやハムレットを超えて、「君が代」って言葉を使ったハードロックになってて、しかもかっこいい曲になっている。

閣下 (笑)あれ単独で聞かされるとね、ハムレットという事情を知らずにね、何かすごく社会に問題を提起してる曲なのかと思われちゃうよね。

──僕は忌野清志郎が「パンク君が代」を歌ったのより過激って思いましたね、当時。
君が代って言葉をそんなストレートに織り込んで、すごいと。

閣下 ただ「君が代」というのは確かに今は日本の国歌のタイトルで、君が代という単語でどうしても1つのものだって思いがちだけど、語源があるわけでしょう。君が代というのはどういう意味なのか。「大王(おおきみ)の世は千代に八千代に永遠に続くものである」という歌なわけじゃない? そこに目をつけるわけよね。

──なるほど。

閣下 だから別に日本の国歌の君が代をはめ込もうとしてるのではなくて、たまたまハムレットという、デンマーク王国の中で起きている劇の、王様が殺されたという事件にその単語をはめ込んでいったと。


──なるほど。結果、表現としてスパークした感じがしますね。タイアップというか、元ネタへの律儀さが表現を長持ちさせているというか。

閣下 「律儀」っていうのかな?

──僕はそう思います。ここ数年、映画を観に行くと、なんでこの曲が主題なんだっていうような主題歌が流れてね、なにかのバーターで決まったんだろうみたいな……

閣下 そういうのも多いみたいね。
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
「地球デビュー30周年記念期間限定再集結 全席死刑」DVD

──邪推しちゃうような歌が多かったり。しかし、今になってタイアップが2つもきて、魔暦18(2016)年の「期間限定再集結」(「地球デビュー30周年記念期間限定再集結 全席死刑」)が終わってしまったというのは……(笑)
(補足・聖飢魔IIの世界においては西暦と別に「魔暦」がある。そのことを尊重して以下、特に聖飢魔IIの活動に関しては魔暦を記載していきます)

閣下 (再集結の活動が)終わる頃にね。(笑)

──非常にタイミング悪いですよね。(笑)
(補足・閣下の所属するバンド「聖飢魔II」は魔暦元(1999)年末に解散したが、その後も人気衰えず、いくどか再結成ならぬ「期間限定再集結」。デビュー三十年の魔暦17(2015)年にもツアーを敢行。極悪集大成盤大教典(ベストアルバムのようなもの)もリリースし、魔暦18(2016)年2月19、20日の武道館大黒ミサ(コンサートのようなもの)で再集結を終えたところでの、小教典(シングルCDのようなもの)の連続発売となった)。

閣下 悪いよね。(笑)「何で今」っていう。(笑)
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
小教典「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ / GOBLIN’S SCALE」

絶対に間に合わないわけ


──『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』は製作期間が20日しかなかったと聞きましたが、20日で曲って作れるものなんですか。

閣下 作れる作れないはアーティストによると思うんだけど、そのときのやっぱり、意気込みだったり、やる気だよね、エネルギーだよね。

──映画もその時点で出来てなかったし。概要を聞いて。

閣下 あらすじだけ。

──それで作ったとは思えない出来ですよ。

閣下 逆にそれしか時間がなかったからできたかもしれないよね。漫然と暇で暇でしょうがなくて、で、とりあえず20日あるよって言っても、ああいうエネルギーのある曲が2曲もね、できあがってこないと思うし。

──ええ。

閣下 壮絶だったもん。リハーサル。まあ聖飢魔IIは曲先(補足・作曲が先で作詞を後に行う)がほとんどなので、ルーク参謀とジェイル代官に1曲ずつ書いてもらおうと思うんだと、最初から我が輩が振ってね。
(補足・ルーク篁参謀とジェイル大橋代官は聖飢魔IIのギタリスト。今回の両A面小教典の作曲を担当している)。
本日公開「貞子vs伽椰子」主題歌衝撃の製作秘話!デーモン閣下をブルボン小林が質問攻め
「貞子vs伽椰子」
6月18日全国ロードショー
(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会

──それは『テラフォーマーズ』の企画が終わったあと?

閣下 全然あと。(感情をこめて)全っ然あと。『テラフォーマーズ』は聖飢魔IIの30周年の期間限定活動が始まるか始まらないかのころにほぼ決まりかけてた話で。でも『貞子vs伽椰子』は最後の武道館ミサのリハに入ってから話がきた。普通はそれどころじゃない。侍従がやってきて「ちょっと『また?』って思われると思うんだけど、話だけとりあえず聞いて貰えますか?」って。

──(本当にスタッフのことを、ちゃんと侍従って呼ぶんだ、と感心しながら、侍従の方を向いて)「断られるかもしれないな」って思いました?

侍従:まあ(閣下は)面白いなって思ってくれるだろうけど、流石に無理だよっていう状況でもあった。

閣下 結局、武道館のリハが毎日のように続いていて、本番が2月の19、20なんだけど、この曲は、とりあえずどんな曲ができたか映画会社に提示してくれというリミットが26日かなんかだった。だから武道館終わってから作り始めると絶対に間に合わないわけ。このリハーサルをやっている、映像の編集だなんだをやってる最中に曲の骨子ができあがり、その曲の骨子に一応仮でもいいから仮の歌詞がついたものを武道館が終了して5日目の日に提出しなきゃいけない状態だった。

──壮絶ですね。

閣下 だからたぶんこれ、ずっとパーマネントにやってるバンド、要するに、期間限定じゃなくて、これからもずっとしばらくは、誰かが「やーめた」って言うまでやりますよってグループだったらね、ちょっといくらなんでも無理だから武道館終わってからやろうよ、またいつかこういう良い話くるよ、と断る話だと思うんだけど。我々はもう活動しないことが決まってたから。

──この五名で合わせられるのも今だと。

閣下 まあ、物理的に合わせようと思えば合わせられるんだけど。(笑)

──まあ、高いテンションのときに。

閣下 この期間内でこういう話がきて、もう今しか作るタイミングがないけれどもとにかく大変であるということを、構成員に説明する必要はもう我々同士にはないわけよ、長年一緒にバンドやってるし。何がどう大変か、分かってるから。

──滑り込みセーフだったんだ、向こう側からすればね。

閣下 そう。とりあえず、我が輩は面白いと思うからやるでいいと思うんだけど、曲は流石に我が輩も急にちゃちゃちゃっと書けるものじゃないから。(バンドの)両ギタリストにこれこれこういう話なんだけど、締め切りはこうで、どうする? やりますか? 我が輩はとりあえず1曲ずつ作ってもらって、映画に採用されるのは1曲だけれども、恨みっこなしでどちらも完成を目指して作っていき、最終的に映画会社に選ばれるけれども、やりますか? ご両名ともやりますか? それともどちらかがやらなくてどちらかが最初から作るんでもいいですよみたいな、まあそんな言い方をして。

──それで二曲ともかっこいいのができて、これ、しかも『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』は英語バージョンもあるじゃないですか(小教典には英語バージョンも収録)。突貫で作ったのに、さらに「英語もやろーよ」?

閣下 「英語もやろーよ」(反芻して笑ってから)、英語版はもっと後になってから。最初から英語版のことなんて全然、全然でもなかったけど、日本だけじゃなくて外国でも数多くこの映画が配給されるらしいと、話をきいたときに、じゃあその外国で配給されるときは英語バージョンだったら面白いなってチョロっと思ったんだけど、そんな暇ねえな、どうしようかな……。

──自分で自分を追い込むタイプですね。

閣下 そうですそうです、うん。とりあえず日本語バージョンを完成させてから考えると、でも、どうやら間に合いそうだったので。英語バージョンはもっと後。3月に入ってから。

──本当にアイディアマンだし、エンターテイナーですね。

閣下 やっぱり限界というものを作ったら面白くないっていう考え方が根底にある。何にしても。

lその2に続く!
(ブルボン小林)
聖飢魔II オフィシャルWEBサイト