日本勢のメダルラッシュに沸いたリオオリンピック。今大会でも様々な“超人”が登場し、その鍛え抜かれた身体能力や華麗な技に全世界が魅了されたわけだが、「強さ」「凄み」の点においては、この男を超える逸材は現れなかったと断言したい。

アレクサンドル・カレリン。90年代のレスリング界にその名を轟かせた“霊長類最強の男”である。

13年間無敗!公式試合300連勝!地位も名誉も兼ね備えたカレリン


カレリンはロシア連邦ノボシビルスク出身のグレコローマンレスリング選手で、国際大会13年間無敗、公式試合で300連勝という前人未到の大記録保持者。130kg級で88年のソウル、92年バルセロナ、96年アトランタと3大会連続金メダルを獲得した他、世界選手権9回優勝、ヨーロッパ選手権12回優勝などを誇る。
その輝かしい戦績は「古代オリンピックのレスリングを含めて2000年間の中でナンバーワンのレスラー」と評されるほどだ。

25歳で国内軍の少佐号を授与され、28歳で税務警察局の大佐となり、ロシア・レスリング協会の副会長も兼務。「カレリン基金社」の社長も務め、国会議員にもなった。財力でも「アラブの石油王」と遜色ないレベルと言われている。すべてを兼ね備えた、まさに“ロシアの英雄”なのだ。

カレリンに勝てるのはゴリラだけ!?


191cm、130kgの巨体は、「筋肉が凝縮して詰まっている感じ」と言われるほどの規格外ボディ。もちろん、パワーも規格外だ。その背筋力は400kgオーバー。日本人の20代男性平均が145kg。相撲界No.1の筋肉を誇った、先日亡くなった千代の富士が330kgだから、いかにズバ抜けていることか!
ちなみにゴリラの背筋力は一説には400kgとされている。
対戦相手に「彼に勝つにはゴリラにレスリングを教え込むしかない」とまで言わしめたエピソードも納得である。
ベンチプレスでも320kgを誇るが、これは85年時点の世界記録レベルに匹敵。なんとも、凄まじいフィジカルである。

130kgの冷蔵庫を8階まで一人で担いだエピソードも


その圧倒的パワーを物語るのが、130kg前後の冷蔵庫を一人で担いで8階まで運んだエピソード。なんでも、友人の引越しを手伝った際、エレベーターが故障で動かず、やむを得ず運んだそうだ。
この怪力、いわゆる「ベアハッグ」されると背骨が折れるという伝説も本当としか思えない。カレリンに投げられることを恐れて、自らフォール負けを選ぶ対戦相手が続出したのも当然である。

メンタル面も完璧でスキはなし!
脳しんとうを起こしていたにも関わらず優勝、肋骨が折れていたにも関わらず優勝、胸の筋肉が切れで片腕が使えなくても優勝。精神力もケタ外れなのだ。

“格闘王”前田日明に完勝したカレリン


そんなカレリンが一度だけ他流試合に挑んだのが、99年2月に行われた“格闘王”前田日明の引退試合だ。世間の関心度は高く、試合翌日のスポーツ紙はほぼ全紙が一面で紹介。一般朝刊紙でも取り上げ、テレビ報道や特集も加熱した。
ケガに悩まされていたとは言え、前田は「総合格闘技」というジャンルを切り開いた第一人者であり、一時代を築いたカリスマ。
その前田をまるで人形のようにたやすく投げ捨てるカレリン。5分2ラウンド制の特別ルールの中、終始カレリンが前田を圧倒する展開で判定勝ちを収めている。
前田は「首が折れる覚悟をすること3回」「ダンプカーが正面衝突してくるような力だった」と試合の戦慄を振り返っている。

もし、カレリンが総合格闘技の場に本格進出していたのならば……。そう思った格闘技ファンは多かったに違いない。筆者も夢見たひとりだ。
格闘マンガの名作『グラップラー刃牙』に登場したカレリンをモデルにしたキャラクター「アレクサンダー・ガーレン」のような“かませ犬”には決してならなかった、と断言できるのである。
(バーグマン田形)

※イメージ画像はamazonより前田日明VSカレリン 1999.2.21 横浜アリーナ [DVD]
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