週刊や隔週刊で、毎号毎号少しずつ冊子が発行され、集めると大きな百科事典のようになる分冊百科方式の本。
今では、各分野の情報を集めた百科事典だけでなく、毎号CDやDVDが付いているもの、徐々にパーツを組み立てていくものなど、バラエティに富んだラインナップが刊行されている。
すっかり日本でもこの形式は定着し、いくつかの出版社がこの分野に参入して久しい。

分冊百科方式の先鞭をつけたデアゴスティーニ社


1990年代に、その先鞭をつけたのはデアゴスティーニ社である。
元はイタリアの会社で、世界中で同様方式の出版物を刊行していたが、1988年に満を持して日本進出。その後90年代に入り日本法人デアゴスティーニ・ジャパンを設立し、事業を拡大した。

初期は、毎号美術史上有名なアーティスト達を紹介した「週刊グレート・アーティスト」や、クラシック音楽の巨匠を紹介した「週刊グレート・コンポーザー」などのシリーズを発行。
第1号は通常価格より安い価格で提供し、テレビCMもバンバン流す手法で読者を食いつかせ、1号買ったら次も欲しくなる心理を巧みにつく戦略で見事に日本でもこの方式を定着させたのだった。

殺人事件の犯人を紹介 異色だったシリーズ


そんな初期デアゴスティーニで忘れられない異色のシリーズが「週刊マーダーケースブック」である。
1995年からスタートしたこのシリーズは、海外での有名な殺人事件の犯人たちを、事件の詳細な経緯だけでなく、生い立ちや社会背景などまで突っ込んで解説したもの。

最近人気のBSスカパー!「地下クイズ王決定戦」のジャンルでも「殺人鬼」というのがあるように、海外の殺人事件というのは常にカルト知識としての需要があるジャンル。とはいえ、当時はまさか芸術家や恐竜のシリーズの後に殺人鬼が来ると思っておらず、面食らった人が多かった。

たとえ題材が殺人鬼であっても、例外なく他のシリーズ同様にテレビCMは流されており、そこでは「殺人に至る動機は何か」「なぜ未然に防げなかったのか」「警察はどうやって追い詰めたのか」と冷静な男性ナレーションでこのシリーズの趣旨を紹介。興味本位だけで殺人事件を取り上げるわけではないことをしっかりとアピールしていた。
もちろん創刊号特別価格はこのシリーズでも健在で、本来1冊500円のところ、1、2号セットで500円の半額セールであった。

紹介された殺人鬼たち


第1号に選ばれたのは、「シャロン・テート殺人事件」。チャールズ・マンソンを教祖として集団生活を行うファミリーから、理不尽に襲撃され妊娠8ヶ月でありながら殺害された女優シャロン・テート。

マーダーケースブックではその事件の詳細とマンソンの生い立ちなどを、数多くの写真と有名作家たちの文章で丁寧に紹介していた。もともと英語を翻訳したものということもあり、その独特の文体も特徴であった。

そして第1号とセットの第2号は佐川一政の「パリ留学生人肉食事件」。日本人にも有名な事件ということもあり、第2号と最序盤で登場した佐川一政であったが、このシリーズに日本人で登場したのは彼ひとり。元々イギリスで出版されていたものの翻訳ということもあり、残りは欧米の殺人事件が大半を占めた。

その後も、"殺人ピエロ"ジョン・ゲイシー、弁護人をつけず自ら法廷に立った殺人鬼テッド・バンディ、"赤い切り裂き魔"ソ連のアンドレイ・チカチーロなどの有名殺人犯が次々と登場。ショッキングな大量殺人事件だけでなく、ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンや、「ケネディ大統領暗殺事件」などの有名事件についても取り上げるなど、毎号さまざまな事件が紹介された。

96号まで続いた「週刊マーダーケースブック」


シリーズは最終的に約2年間、96号まで続いて終了。96号は総索引号だったので、実質最後の95号は「危険な関係 倒錯と情欲の殺人 ジョー・パイカル/リー・オーシニ」であった。
現在まで約30年にわたって数々のシリーズを展開してきたデアゴスティーニだが、恐らくこのマーダーケースブックが内容的に最も異色と言ってもいいだろう。

ちなみに私はこのシリーズ、最終96号まではたどり着けずに挫折してしまったが、60号くらいまでは毎週買っていた。
地下クイズ王決定戦のジャンル「殺人鬼」だけ、かなり答えられるのは、このとき得た知識のおかげである。

(前川ヤスタカ)

※イメージ画像はamazonより週刊マーダー・ケースブック 5号 '95/10/31 史上最悪52人ロシア連続殺人
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