来月、映画『何者』の公開を控えた朝井リョウ原作のアニメ『チア男子!!』。ちょっとワケわりの男子大学生たちが集まって、男子だけのチアリーディングに挑戦するという、きわめてまっとうな青春アニメだ。
さっそく、先週放送の第9話「太陽の涙」を振り返ってみよう。
お前は、お前が思っているほど一人じゃない「チア男子!!」9話
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物語はいよいよ終盤、全国チアリーディング選手権に向けて16人の男子たちの練習も熱が入ってきた……と思ったら、男子チア部BREAKERS創設者にして、キャプテンのカズ(演:岡本信彦)の様子がおかしい。

おかしいのはカズだけではなかった。陽気なイチロー(演:桑野晃輔)もヤンキーの銀(演:木村隼人)と銅(演:広瀬裕也)もなんだかソワソワしている。メガネ男の溝口(演:杉田智和)は「恋だ!」と断言するが、一番恋の経験が少なさそうなのは明らかに溝口だ。

結局、それぞれたいした話ではなく、本人の勘違いだったり、心配する側の思い違いだったりしたのだが、カズはついに練習を無断で休むようになってしまった。どうやらこちらは深刻な事情のようだ。幼馴染のハル(演:米内佑希)は事情を知るために、カズのもとへと出かけていく。

シリーズの前半では、物事すべてに対して消極的だったハル(主人公なのに!)が、人からの頼まれごとをすぐに聞いてあげたり、自発的に問題解決に向けて動いたりするところを見て、若者っていうのはわずか数ヶ月でものすごく成長するんだなぁ、という当たり前のことを感じる。と同時に『チア男子!!』はずっと変わらない“キャラクター”たちのお話ではなく、時間の経過とともに変化していく“人物”たちが織り成すお話だということがよくわかる。

カズの悩みは、幼い頃に両親を亡くしたカズにとって、唯一の肉親だった祖母のことだった。入院している祖母をとても大切にしていたカズだったが、祖母の認知症の症状は進んでおり、すでにカズのこともわからなくなってしまっていたのだ。


ハルに真実を話すカズ――。カズが男子チア部を作ったのは、「何か新しいことをやりたい」「誰かを応援したい」という理由ではなく、チアの映像を見て一瞬、チアをしていた母の名前を口走った祖母に、自分のことを思い出してもらいたいという極めて個人的な理由だった。だから、母がチアをしていた人数の7人にこだわり、母たちとまったく同じ演技を学園祭でやってみせたのだ。きっと、どこかのタイミングで祖母に7人でのチアを見せようと考えていたのだろう。しかし、祖母の病状は進み、カズは深い絶望を抱えていた。

「俺、チアをやる理由がなくなった……ごめん、俺、自分の都合で、“新しいことを始めよう”とか“お前の応援の力がすごい”とか、みんなまで巻き込んで……。ハル、俺、一人になっちゃったよ。俺の家族、俺を見てくれる人はいなくなった

涙を流すカズに、ハルは今まで聞いたことのないような力強い口調で言葉をかける。

「カズ、一人じゃねぇよ。お前は、お前が思っているほど一人じゃねぇんだよ。チアを始めたきっかけがばあちゃんでも、お前のまわりにはいっぱいメンバーが集まった。みんな、お前のことを見てるよ。
やっぱりお前は太陽なんだよ。すごいんだよ! だから……泣くなよ」

お互い涙を流して語り合うハルとカズ。相手が弱っているとき、こうやって支え合える関係を親友と言うのだろう。原作ではBREAKERSの仲間たちが同席していることになっているが、アニメでは二人きりのシーンに変更されている。たしかに、こちらのほうが二人の深い友情が際立つように見える。一方、原作では泣いているカズの背中をハルが撫でさするシーンがあるが、二人きりでそれをやるとちょっと変なムードになるので、肩に手を置くだけにとどめたのだろう。微妙なところまでよく考えられた演出だと思う。

チアリーディングとは、他人を励まし、自分に勝つスポーツ


カズの事情を話したBREAKERSの面々に伝えたハルは、カズのためにチアリーディングを披露したいと提案する。

「人は、悲しみを分かち合ってくれる友達さえいれば、悲しみをやわらげられる」とは、名言オタクの溝口の言葉。これはウィリアム・シェイクスピアによるもの。ちなみに出典は不明だったりする(こういうのをいちいち検証しないと気が済まないのが名言本を出している筆者の性格なのです)。

学園祭で披露したチアリーディングを病院で披露するBREAKERS。
看護師さんも好意的に見てくれているので、ちゃんと事前に話は通してあったようだ。これでカズの祖母が元気になるわけではないけれど、少なくともカズは元気になった。「お前らとチアやることが、チアやる理由になった」と笑顔で話すカズ。

「俺さ、勝つよ。みんなが応援してくれたからさ、もう負けない」

これは二人きりになった後、カズがハルに語った言葉だ。チアリーディングには全国大会があるが、野球やサッカーのように勝敗を決める試合が頻繁にあるわけではない。「GO! FIGHT! WIN!」っていう掛け声は、やっぱり誰かを励ます言葉だ。誰かを励ましながら、自分に打ち勝つ。これがチアリーディングというスポーツの根っこなんじゃないかと思う。

さて、本日放送の第10話は「君に伝えたかったこと」。ハルのほのかな恋愛に進歩が……?
(大山くまお)
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