
文吾が突然の自白、それを知った家族は…
前回のラストで、佐野文吾(鈴木亮平)は自宅の裏庭から青酸カリが見つかり、みきおに対する殺人容疑で逮捕。当然無罪を主張するかと思いきや、一転して自白する。面会に訪ねてきた田村心(竹内涼真)と妻の和子(榮倉奈々)にも、「おまえらに父親はいない。そう思ってくれ」と冷たく言い放つ。
これもみきおと黒幕の差し金ではないかと思った心は、入院するみきおのもとを訪ねるも、彼の親代わりになろうとしていた担任教師のさつき(麻生祐未)に激しく拒まれ、追い帰される。
和子と心が帰宅すると、家には再びマスコミが集まり、文吾の自供について問いただした。そこへ村に住む井澤(六平直政)と徳本(今野浩喜)がやって来て、記者たちに殺虫剤をかけて追い払ってくれた。それでも井澤は、文吾が犯行を自供した以上、村から出て行ったほうがいいと、和子に勧める。
和子の心も揺らいでいた。娘の鈴(白鳥玉季)と息子の慎吾(番家天嵩)は元気に学校へ出かけたものの、ほかの児童にいじめられて帰ってきた。見かねた和子は、仙台の自分の実家へ戻ろうと子供たちに告げるも、鈴には「お父さんが悪いことなんてするわけないよ」「逃げたくない!」ときっぱりと断られる。鈴は一度は文吾を疑ったが、疑念が晴れて以来、父への信頼は固いものとなっていた。鈴の決意に弟の慎吾も同調、和子も折れざるをえなかった。
この様子を見ていた心は、以前、庭に家族みんなで埋めたタイムカプセルに、文吾が手紙を入れていたのを思い出す。そこには何か手がかりになるようなことが書かれているのではないか。そう考え、さっそく掘り返して読んでみる。そこには、当初カプセルを開く予定だった30年後の子供たちに向けた文吾のメッセージが書かれていた。そのうち鈴に対しては、「怒ったときは10数えて、それでも収まらない場合は怒っていい。自分を裏切ってまで気持ちを押さえつける必要はない。なぜなら鈴は正しいことを正しいと言える人間だとお父さんは思うからだ」と説いていたのがいかにも正義漢の文吾らしい。事件の手がかりになるようなことはとくに書かれていなかったが、心は手紙を読んで、この家族を守らねばという思いをますます強めた。
このあと、みきおが病院から失踪したと知った心は、病室に忍び込むと、ベッドの下に置かれた紙を見つける。その中身を見るや、今度は音臼小学校に走った。教室で待っていたのはもちろんみきおだ。さっきの紙には「THE END」という文字とナイフの絵と、みきおと心にしかわからないメッセージが書かれていた。
ここでみきおは、これまでの犯行はすべて鈴を守るためだったと嬉々として話し始める。発端は、音臼小に転向してきたばかりのころ、いじめられていたみきおを鈴がかばってくれたことだった。以来、みきおは鈴のそばにずっといたいと思ったという。心はそれを聞いて、31年後、成長した鈴(貫地谷しほり)と一緒に暮らすみきお(安藤政信)を思い出す。
少年みきおは、鈴が父・文吾を正義の味方として尊敬していることを知り、文吾を邪魔に感じた。そこで文吾を消すべく、毒物による殺人事件を計画したというのだ。三島医院の幼い次女・千夏と元県会議員の田中良雄(仲本工事)は実験台として殺され、千夏の姉の明音は鈴をいじめたので、村の青年・翼(竜星涼)に殺させようとしたが、失敗して自殺した。みきおはこうしてすべてを洗いざらい心に打ち明けたかと思うと、「でも、作戦変更。いま鈴ちゃんが一番喜ぶのは、佐野文吾を無罪にしてあげることだよね」と言って、以前心から奪ったレコーダーを机に置いた。そしていきなり隠し持っていた瓶を口にする。毒をあおろうとしていると気づいた心は、すぐに瓶を払いのけたが、みきおはそのまま倒れて苦しみ出し、そのまま病院へと運ばれていった。
レコーダーには先ほどの告白がすべて録音されていた。
文吾は自宅に帰るや家族を前に土下座し、罪をかぶろうとしたのは、差し入れの本(事件の2年前、1987年にベストセラーになった俵万智の歌集『サラダ記念日』)に、家族を皆殺しにするという犯人からのメッセージが差し込まれていたからだと明かした。それを知って、和子もたまらず「ごめんなさい! 一瞬でもお父さんを疑って」と土下座し返す(日曜劇場の次回作「半沢直樹」への布石か?)。そこへ慎吾が何を思ったのか「元気ですか!」とアントニオ猪木のモノマネをしてみせると、一気に場がなごみ、佐野夫妻は和解にいたった。
石坂校長と息子に疑惑が浮上
一瞬、みきおの黒幕は文吾だったのかと思わせながら、結局は当然というべきか、単に犯人から脅されて自供したにすぎなかった。では、本当の黒幕は誰なのか? 文吾と心はあらためて話し合うなかで、12年前の村祭りの話が再び思い出される。このとき振る舞われたキノコ鍋に毒キノコが入っており、それを食べた徳本の母親が死んでいた。当時県会議員選に出馬していた田中良雄は、村に不安を残さないよう警官の文吾に徹底調査を命じたものの、皮肉にも毒キノコを誤って入れたのは田中の妻だったことが判明する。田中はそれをもみ消すため県警にも掛け合ったが、うまくいかなかったらしい。しかしこの一件から、果たして文吾に恨みを抱いて、みきおを動かした者がいるのだろうか。話はまたふりだしに戻る。
翌日、文吾が過去の駐在日誌を読み返したところ、音臼小の石坂校長(笹野高史)の息子が、例の村祭りでけんかに巻き込まれて軽いけがを負っていたことを思い出す。文吾は食中毒事件でそれどころではなく、駆けつけるのが遅れたという。そんなことで石坂が文吾に恨みを抱くとはにわかには信じがたいが、それでも文吾と心は、石坂と息子について調べ始める。
そのころ、石坂はみきおを看病するさつきと一緒にいた。さつきは高校時代に妊娠し、担任だった石坂に相談していた。当時を振り返りながら石坂が口にした「さっちゃんが教師になったのは、生まれてこれなかった子供のためにも、教え子をしっかりと育てていきたいと思ったからだねえ」という言葉からは、さつきがなぜみきおを自分の子供にしようと考えたのかがはっきりとわかった。
文吾と心は井澤から、石坂の息子はもう10年以上も消息不明だと訊き出した。さらに校長室に赴くが、当然ながら石坂は不在。机には、石坂と描いたと思しき絵が何枚か、いずれも真っ黒に塗りつぶされて並べられていた。文吾が机の引き出しを調べたところ、石坂が鉛筆を削るためいつも使っているナイフもない! ここへ来て石坂校長への疑惑がどんどん強まっていく。
その後、文吾と一旦別れた心は先に帰宅、このとき駐在所の玄関の扉に文吾宛ての手紙が挟みこまれているのを見つける。だが、帰ってきた文吾には手紙のことを話さなかった。
真犯人の正体、そして犯行の理由にも意表を突かれる
翌朝、心は置手紙を残して神社に向かった。それに文吾が気づいたところへ、音臼村内で男性が倒れているのが発見されたとの通報があったと本署から無線が入る。文吾はあわててパトカーで心を追いかけようとするも、ご丁寧にもタイヤがパンクされていた。それでも走って村を探し始める。
文吾が出て行ったあと、石坂が駐在所に現れる。とうとう佐野家の人たちを襲いに来たのかと思いきや、石坂は和子を相手に、きのう息子と東京で会ってきたと話し始める。ほとんど親子の縁を切っていた息子だが、最近子供ができたという。石坂はそこでふいに文吾と心が本当の親子に見えると言い出すと、「変な話だが、あの二人を見ていたら、息子ともう一度家族になりたいと、あのとき信じてやれなかったことを謝りたいと思っちまって。それで……孫にやろうと思って、ヘタクソな絵を持って行ってやったんです」と打ち明けた。校長室にあった何枚もの絵は、そのための下描きだったのだろう。結局、石坂は息子と和解したという。
こうして石坂の疑惑は晴れた。となれば、真犯人は手紙にあったとおり神社に現れるのだろう……という予想も覆される。犯人が現れたのは神社ではなく、文吾が無線による指示で山小屋(以前、明音が監禁された小屋)を調べているときだった。文吾はいきなりナイフで刺されると、相手が田中良雄の息子・正志(せいや)だと知る。
それから正志の口から語られた話は壮絶なものだった。あの村祭りで、文吾が捜査した結果、食中毒を起こした罪で捕まった正志の母親は、父から捨てられ、さんざん苦労したあげく体を壊して死んだ。残された正志と妹は、母親のためにも二人で生き延びようとする。だが、まだ小学生だった妹は、どこへ行っても殺人犯の妹といじめられ、それを苦にして自殺してしまった。
しかし正志が文吾を狙ったのはそれが理由ではないという。正志の復讐心に火がついたのは、最近になって父親の看病のため、しかたなしに音臼村に戻ってきたときだった。このとき、駐在所の前を通りかかった正志に、文吾は「家族は大事にしないとな」と声をかけたという。それを聞いて正志は「許せない。俺の家族をぶっ壊したあんたとあんたの家族に同じ地獄を見せてやる。あのとき俺はそう決めたんだ」と、文吾に殺人の罪をかぶせようと思い立ったのだ。そのためにみきおを使ったのは、文吾が邪魔という目的がたまたま一緒だったからにすぎなかった。
正志は、文吾を殺し、さらに彼の家族も殺して、母親と妹の味わった苦しみをじっくりと味わわせてやると叫び、ナイフを振り回す。さらに心はすでに殺したとウソをついた。怒った文吾は正志からナイフを奪うと、形勢は逆転、彼を刺そうと構える。だが、ナイフを振り上げたまま、一瞬間を置くと(おそらく鈴への手紙で「怒ったときは10数える」と書いたのを思い出したのではないか)、「おまえ殺したら、俺を信じて必死で戦ってくれた心さんを裏切ることになる。それだけはできねえっ!」と思いとどまった。そのうえで「正志、大事な家族を救えなかったって、おまえはずっと苦しんできたんだな」「すまねえ、気づいてやれなくて。本当にすまねえ」とあらためて謝るのだった。
考えてみれば、心を殺したとウソをついたのも、そもそも警察への通報で文吾を小屋に向かわせたのも、すべては正志が文吾に自分を殺させる(つまり文吾を殺人犯に仕立てる)ための罠だったのだろう。
しかしその思惑は外れ、意外な結末を迎える。神社にいたはずの心がそこへ駆けつけたからだ。文吾が心に気づいて振り返ったすきに、正志はナイフを奪い返す。心は文吾を助けるため正志と揉み合いになるが、気づくと自分の胸にナイフが突き刺さっていた。文吾に抱きかかえながら心は最後の力を振り絞り、「俺、家族の未来を守るためにここに来たんです……父さんと、母さんと、姉ちゃん、兄ちゃんに出会えたから、俺、強くなれた……ありがとう」と伝える。文吾は「死ぬなよ、ばかやろー! いいか、よく聞け、おまえは俺の子だ。俺の息子だ」と励ました。だが、心はそれを聞いて微笑むと、「死ぬなよ、死ぬな、心!」と文吾が叫ぶなか息絶える──。
場面はそれから一気に31年後に飛ぶ。未来から来た心が死んだあとに生まれた文吾と和子の次男は、「心」と名づけられ、無事に成長、以前の世界と同じく由紀(上野樹里)と結婚、まもなく子供も生まれようとしていた。心はそのことを久々に集まった佐野家の人たち……文吾と和子、そして大人になった長女の鈴、長男の慎吾(澤部佑)に伝える。文吾は生まれくる自分の孫に「未来(みく)」という名前を提案、それは心が考えていた名前と同じだった。
かつての心は、その後生まれた子供へと生まれ変わり、そしてかつての世界では死んだ由紀と再びめぐり会って結婚し、また子供を儲けようとしている。まさに朽ちた船が違う部材で再建され生まれ変わった「テセウスの船」の神話を思い起こさせるラストであった。
犯人視線で事件が語られるスピンオフも公開!
真犯人は事前の告知どおり、原作とはまったく違う人物だった。それを演じる霜降り明星のせいやも、正体を現した際には迫真の演技を披露し、俳優としての才能を十分にうかがわせた。笑芸作家の香川登枝緒はかつて、漫才師には「漫才人間」と「役者人間」がいると喝破したが、この分類を霜降り明星に当てはめると、漫才人間の粗品、そして役者人間のせいやによるコンビということになるのではないか。
それにしても、最終回は通常より25分延長されたとはいえ、真犯人を最後まで明かさないためか、急展開に次ぐ急展開となり、見ているほうはやや混乱してしまった。せめて正志が犯人とわかったあとで、これまでの一連の事件の過程を、正志とみきおの視点から描いてくれればよかったのだが……と思っていたら、放送終了とともに動画配信サービスのParaviで「完全ネタバレ! 犯人の日記大公開」と題して、みきおの日記を通して事件を振り返るスピンオフドラマが公開された(3月22日公開の前編に続き、29日には後編も公開予定)。さらに4月には未放送の場面を含むディレクターズカット版も同じくParaviで配信予定だという。
まったく商売上手ともいえるが、考えてみれば、働き方改革によって各テレビ局で番組の制作時間が削減されつつあるなか(何しろこの4月からはNHKの朝ドラも土曜の放送がなくなる)、本編のみならず配信用に犯人側の視点からスピンオフをつくろうという「テセウスの船」の制作チームの心意気は賞賛されるべきだろう。放送と配信のメディアミックスという形で、ドラマを補完するというのも、現代ならではといえる。ただ、ドラマ本編で一点だけ気になったのだが、心が2度目のタイムスリップをしたとき、その直前まで一緒にいたはずの大人のみきおはどこに行ったのだろうか? スピンオフの後編、あるいはディレクターズカット版ではこの謎もぜひ解明されていてほしい。(近藤正高)