公開からもうすぐ2ヶ月、いまだに盛り上がる「シン・ゴジラ」。
公開前も公開後も厳重な情報統制が行われていて本丸・庵野秀明監督はほぼ沈黙している状態。
すべては公式記録集のロングインタビューで語られるらしいと期待していたら、9月20日に発売される予定だったものが11月に延びてしまい、真実はまた遠のいた。がくり。

となると、謎多き庵野監督と伴走し、「シン・ゴジラ」のスポークスマンのような存在になっている東宝の山内章弘プロデューサーを頼るしかない。物腰柔らかで人当たりのいい山内は、「トリック」シリーズで奇才・堤幸彦監督ともいい関係性を築きヒットに導いてきた重要人物だ。

とかく奇才の考えることは規格外。だからこそ実現したらサプライズがある。「シン・ゴジラ」も奇才も奇才の庵野秀明を招くことで、タイトルをはじめスタッフやキャスト選び、宣伝方法に関して掟破りを次々行うことになった。
そうしてでも「ゴジラ」を生き延びさせたプロデューサーの思いを聞く。

と、その前に、取材の内容を補完するため、撮影現場見学したもようを紹介したい。
庵野秀明対樋口真嗣「シン・ゴジラ」撮影現場ルポ&山内章弘プロデューサーインタビュー
(C)2016 TOHO CO.,LTD.

ルポ「シン・ゴジラ」の撮影現場に感動した!


撮影現場を見学に来た自衛官の方がマスコミの取材に応えたとき「シャツの袖のまくり方がくしゃっとたくしあげず、きちんとした感じに見える(いわゆるミラノまくり)になっているところなど、よく調べている」と感心していた。そうか、自衛官ってミラノまくりしてるのか、おしゃれだな。

現場を見学させてもらったのは、災害特別室場面など。緊張感あふれるこの場面では、あらゆる場所からカメラをまわし、起っていることをすべて抑えたい欲望と物理的なものが追いついていかない葛藤に現場が熱気を帯び、テンションがあがって激しく動き回る庵野秀明に対して、モニターを観ながら樋口真嗣が「何が足りないんだろう。
足りないものがある気がしない?」と冷静につぶやいている姿が印象的だった。庵野と樋口、ふたりのバランスは絶妙だし、なにより画を撮ることに取り憑かれたかのような姿は魅力的だ。

カメラの画角を決めるとき、庵野監督が何度も何度もモニターに定規を当ててミリ単位のズレも修正しながら決めていたことには驚いた。

現場のふたりのことを俳優たちはこのように語っている(シネマスクエア85号より引用)。

“――庵野さんが総監督で、樋口さんが監督で…ある意味、ふたり監督がいる現場の感じはどんな風なのですか?
長谷川博己(矢口蘭堂役)「最初、僕もそういう状況がよく分からなかったのですが(笑)、いざやってみたら、樋口監督が前に出て指示している時もあれば、庵野監督が前に出て指示している時もあって。ふたりの間では、今日はどっちがメインでいくのか、暗黙で決まっているみたいに見えました。今日はどうする? 的な会話は一切ないですし、もう長年の付き合いによる阿吽の呼吸で全部分かっているんだなという感じで」
竹野内豊(赤坂秀樹役)「(笑)。おふたりはお付き合いが長いですし、絶対なる信頼感がおありでしょうから。現場で見る限りは、凸凹コンビというか…(笑)。庵野監督がナイーブになると樋口監督が大胆さを発揮したり、樋口監督が豪快過ぎると、庵野監督の繊細さがセーブしたりと、お互いが補い合っていて、ものすごくいいバランスだった気がします。似ているのは、どちらも少年みたいに純粋で可愛らしいところですよね」“

里見総理(平泉成)がラーメンを前にしている場面では、庵野たちは、袋麺にこだわり、器も赤いのがいいとかなんとか、俳優の顔とラーメンをどう撮るか嬉々として時間をかけているように見えた。ナルトの位置はこれでいいのかなどと迷った結果、庵野が「正面とラーメン」と決めて、樋口「正面とラーメン」と復唱する状況はなんだかシュール。


とにかく、庵野を中心に画をどう撮るか話し合っている様はほんとうに楽しそう。50代を超えた大人たちが多いににもかかわらず、ザッツ青春! という雰囲気。庵野組常連の摩砂雪と轟木一騎も現場に参加していて、そんなところからも撮る? みたいな場所から被写体を狙っていた。摩砂雪のカメラは一番小回りが利くのを使っていたそうだ。

竹野内は「樋口が豪快で庵野が繊細」と語ったが、前述のように現場で庵野が熱く樋口が冷静に見えたときもあり、まるでふたりは陰陽のマークのように出たり引っ込んだりしながら完璧を成しているようだ。
指揮官である監督たちがそういうふうに一方向に決め込まず現場で変化していくことによって、俳優たちは、刻一刻と状況が変化する未曾有の危機に立たされた登場人物たちのおいそれと決断できない思いを疑似体験しているかのようにも思えた。ふたりのリーダーがどう出て来るか常に神経を研ぎすませていないとならないのだから、俳優にとってその緊張感たるや相当だろう。徹底的に虚構を演じていながら、極めてアクチュアル。それが「シン・ゴジラ」の面白さのひとつだ。

まず、山内プロデューサーに基本的なことを聞く


──ま、興収どれくらいまでいったんですか。
山内「(取材の時点では)45億、309万人(9月21日時点で70億を突破)。びっくりしましたね」
──最初からいけると思っていたんですか。

山内「公開2日間では最終的に40億円の見込みで、予想を大幅に上回りました」
−−勝因は。
山内「公開から時間が経つにつれ、客層の幅が広くなりました。最初は、元々ゴジラが好きだった40〜50歳代の男性が中心でしたが、どうやら面白いらしいと聞きつけて、エヴァンゲリオンを楽しんでいる層の20〜30歳代のお客様もかなり来ていただけたのが良かったと思います。リピーターのお客様も多いのが今までのゴジラ映画との違いと思います」
──発声可能映会の女性限定も人気でした(9月15日には全国区で開催された)。
山内「女性限定の上映会は3分で完売しました」
──庵野さんが最初の発声可能上映会のチケットが3分以内に完売しなかったことを悔しがっていて、次は3分以内にと東宝さんが必死なのが感じられました。もともと庵野さんと仕事したいと思ったのが山内さんですか?
山内「私の上司で取締役の市川(南)と僕です。まず、ある席で市川が声をかけて断られ、でもまた行って・・・みたいなことを繰り返してようやくかないました」
──ゴジラを新しく作るなら庵野さんが最適と思ったのはなぜですか? 庵野さんはアニメ界ではカリスマですが実写ではまだ大ヒット作がなかったからよく思い切りましたね。
山内「順番で言うと、12年前に『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)で一度幕を閉じたとはいえ、東宝にとっては唯一無二のキャラクターなので、どこかで復活させたい気持ちがありながら、大事がゆえになかなか手が出せなかった。それが2012年に、レジェンダリーによるハリウッド版ゴジラの企画発表があって。それはそれで楽しみだが本家本元が観たいというお客さんの声が大きくなったので、東宝的にもそろそろ重い腰をあげなくてならないなと(笑)。では監督は誰? という話になったとき、特撮に対する造詣の深さと、実写のキャリアもある庵野さんだとなった。エヴァの監督ということで海外に対してジャパンメイドのゴジラとして引きがあるとも思いました。
残念ながら当時はエヴァがあるからいまの僕にはできないというお答えでしたが、それでも特撮に対する愛情があったのと、ちょうど特撮博物館の作業をしていた頃で、ゴジラ制作はまさにその延長戦というか特撮文化や映画に対する恩返しになるのなら・・・という最終的な決断を頂いたと記憶します。タイミング的に良かったんじゃないでしょうか」
──特撮博物館ってことは、「巨神兵東京に現わる」(12年)をつくっていた頃?
山内「その直後くらいと思います」
──いま思えば、あれはゴジラの試作だったのかとも思えてしまいますよね。
山内「それはどうかわからないですが」
──樋口真嗣さんを監督にして、庵野秀明さんを総監督にしたのはどういう理由ですか。
山内「最初にお話したとき、なんらかの形で参加すると言ってくださったものの、基本はエヴァがあるから、コンセプトや仕上げなどの面倒を見るくらいで、監修的なスタンス話だったんですよ。そのとき、監督は自分の意思を反映してくれる人として、盟友である樋口さんにお願いして、こちらも古くからお付き合いのある仲間の尾上克郎さんに最初から参加してもらって打ち合わせを繰り返していきました」
──東宝側から庵野さんにもっとかかわってくださいってプッシュしました?
山内「そういうわけではないですが、やっぱり庵野さんの世界観は唯一無二で、今回の『ゴジラ』にはそれが必要だとは思っていました」

後編は庵野秀明とゴジラをつくることによって行われた数々の掟破りについて伺います。続く。
(木俣冬)


[プロフィール]
やまうち・あきひろ
東宝株式会社映画企画部部長。近年、エグゼクティブ・プロデューサーとして携わった作品に、「進撃の巨人」、「バクマン。」「orange」「アイアムアヒーロー」「世界から猫が消えたなら」「怒り」「何者」など。


[作品情報]
脚本・総監督:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
准監督・特技統括:尾上克郎
音楽:鷺巣詩郎
出演:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ
製作・配給:東宝株式会社

(C)2016 TOHO CO.,LTD.

全国東宝系にてロードショー中
公式サイト

「ゴジラ FINAL WARS」以来約12年ぶりの日本が製作したゴジラシリーズで、第29作にあたる。海から現れた謎の巨大生物から日本を救うため、官僚、政治家、研究者たちが立ち向かう。2016年7月29日公開するやいなや口コミで評判が拡散され大ヒット、まだまだ上映が続く。総監督:庵野秀明、監督:樋口真嗣、出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみほか総数329人。
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