視聴率や自身のキャリア、ネットを騒がせた「クロちゃん救出企画」の裏話など、たっぷり語っていただきました。
(前編はこちら)

面白さと視聴率、どっちが先か
──著書の『悪意とこだわりの演出術』からは藤井さんの番組作りの姿勢というか「とにかく面白いものを作りたい」「面白くないものを出したくない」という信念を感じます。その一方で、ドライで客観的な印象もあるんです。「この業界でテッペン取ったる!」的な発想ってあまり無いのかなと。
藤井 全然無いですね。「日々が楽しけりゃいいじゃん」じゃないですけど、ちゃんと面白いものが出せてればいいかなっていう。多分「テッペン取ったる」的な発想だと、もうちょっと視聴率とか気にしないと業界内の評価がついてこないと思います。僕は数字的な成功は別にしていませんから。
──ビジネス的な考え方ってことでしょうか。
藤井 会社員としてはそれが一番正しいんです。会社に利益を生んでいるのが偉いのは当たり前で。もちろん100%それだけじゃないんでしょうけど、売れる商品を作っている人が一番偉いのは当然ですから。
──では高視聴率を狙って取りにいこうかというと……
藤井 もちろん視聴率は取りたいですけど、つまらなくていいから視聴率を取ろうとまでは思わないですね。面白くても視聴率もいいのが一番いいに決まってて、じゃぁどっちが先かといったら「面白い」が先です。

クロちゃん救出、最終的には「のろし」だった
──著書の中で「昔のテレビより今のテレビの方が面白い」という記載があったのですが、具体的にはどういうところが面白いと思いますか?
藤井 もちろん、いつの時代も面白いものとつまらないものがありますが、例えば編集ひとつとっても今のほうが圧倒的に細かいと思います。撮影した素材に対してディレクターが一枚一枚考えてカットをつなぐわけですが、カメラや収録デッキの台数も違うし、尺の調整も昔より細かくなっています。どの素材をどう使うかという選択肢が増えているので、それだけでも表現力が変わりますよね。
──ネットの存在もありますよね。『水曜日のダウンタウン』などは「分かる人には分かるネタ」をこっそり仕込んでいて、SNSで「これはあれだよね」と広がっているのをよく見かけます。
藤井 誰も気づかなくても別にいいんですけど(笑) SNSだと1人が気づけば1000人に伝わるってことでもありますから、細かいことをやっても拾ってもらえますよね。勝手に深読みして解釈されることもあって、まぁそれはそれでいいかと。
──ちなみに、『水曜日のダウンタウン』とSNSで思い出すのが、途中で中止になったクロちゃんの救出企画がありましたよね……
(※「クロちゃん、どこかに閉じ込められてもTwitterさえあれば助けてもらえる説」を検証するため、マンションの一室に閉じ込められたクロちゃんがTwitterで情報を発信。しかし「発見した」など偽情報を流すユーザが続出。居場所を勘違いした人が無関係なマンションに集まり、警察が出動する騒動となった)
藤井 こちらの詰めが甘かったですね。そんなに悪いことする人はいないだろうと思ったら意外とそんなことなくて。ネットの人たちを性善説でとらえ過ぎていたところがありました。
──あれはどういう展開をする予定だったんですか?
藤井 部屋にはペリカ(漫画『賭博破戒録カイジ』内の通貨)と「お品書き」が用意してあって脱出に役立つアイテムが買えたんですけど、3日くらい時間をかけて買えるアイテムを増やしていく予定でした。「窓の目張りの板を1個取れる」って商品があって、どの板を取るかで見える景色から得られるヒントも変わるように計算していたり。カレーを買ったらめちゃくちゃ辛いってトラップとか小ネタも結構あったんですけどね。最終的には狼煙(のろし)が発売されることになってました。
──あのペリカ札はまだあるんですか?
藤井 スタッフルームにいっぱい余ってますよ。マネー・オブ・兵藤が。

「藤井健太郎のキャリアのピーク、あと5年ぐらい説」
──著書のあとがきには「僕のキャリアのピークはおそらく長くて今から5年くらいでしょう」「演出業を退いたらきっぱり現場から離れたいともちょっと思っています」とも書かれていました。自分のキャリアをここまで冷静にとらえているのはなぜなんでしょう?
藤井 なんとなく過去の傾向からですね。今がピークに近い状態だとしたら、5年くらい経つと……って感じがするなぁと。年齢的なズレも出てくるし、世間とバチッとはまるのってそんなもんでしょうと。過去を見てもそうなんじゃないかと思ったんですよね。
──自分のキャリアとか、「これをやるまで」という目標ではなく、あくまで客観的に「こういうもんでしょう」という形で受け取られてるんですね。
藤井 そうですね。
──その5年のなかで「こういうところまで行きたい」とか「これをやっておきたい」というものはありますか?
藤井 いや、ただのいち会社員ですから、そんな大それたものは無いですよ。給料とかポジションとか大きく変わるわけでもないし、面白いことをやっていられればいいなってことでしかないですね。
──大型の特番とかも?
藤井 うーん。もし、27時間テレビみたいなものがあったら目標になるかもしれないですね。やっぱり2004年のめちゃイケ27時間テレビってすごかったじゃないですか。ああいう集大成みたいなものがあるならとはちょっと思いますかね……。今聞かれて初めて考えましたけど。別に現状で何かを目指しているわけじゃないので、まぁそういうのが訪れたらいいですね。
──とにかく目の前のことを。
藤井 テレビの未来みたいなこともちょっと考えたことはあるんですけど、役割分担でいったら僕が考えるべきはそこじゃないんじゃないかと。余計な時間があったら、中身を少しでも面白くしたほうがいいんだろうなとは思いますね。
(プロフィール)
藤井健太郎
1980年生まれ、東京都出身。立教大学卒業後、2003年にTBSに入社。『クイズ☆タレント名鑑』『テベ・コンヒーロ』等を演出・プロデュース。現在は『水曜日のダウンタウン』の演出を務め、2016年10月からは『クイズ☆スター名鑑』も手掛ける。趣味は音楽と格闘技。著書に『悪意とこだわりの演出術』
(井上マサキ)