2002年11月17日に横浜アリーナで開催された『WRESTLE-1(レッスル・ワン)』。これはプロレスの新しい形を体現した斬新なイベントだった。

K-1の石井和義館長と全日本プロレス社長就任直後のプロレスラー武藤敬司による共同プロデュースで、PRIDEの母体、ドリームステージエンターテインメント(DSE)も運営に協力。超一流のプロレスラーや格闘家が参戦し、K-1&PRIDEを放送しているフジテレビのバックアップによりゴールデンタイムで放送と、鳴り物入りでスタートしたのだが……。

お茶の間の人気者! ボブ・サップを全面フィーチャー


フジテレビ的には、キックボクシングをK-1にしたのと同じように、プロレスの新しい見せ方をしたかったそう。
当時のプロレス界は格闘技人気に押され低迷期に入りつつあった。しかし、プロレスそのものには、格闘技以上に間口の広いエンターテインメントとしての可能性がある。そして何より、ゴールデンタイムのコンテンツとするには、プロレスや格闘技に興味のない一般視聴者をターゲットにしなければならない。

そこで、プロレスではなく「ファンタジーファイト」と名付け、人気・知名度抜群の格闘家たちがイベントに参戦。主役にボブ・サップを据える形をとった。
当時のサップは「サップが出ると3%は視聴率が上がる」と言われたほどの人気者。視聴者層の拡大には最適とあって、テレビ番組タイトルにも「ボブ・サップのバトル・エンターテイメント」と冠を付けての放送となっている。

プロレスの試合の途中でクイズを出題!?


この番組が、従来のプロレス・格闘技ファンの度肝を抜く構成となっていたのはもはや伝説。
例えば、K-1の日本人エースとして一時代を築いた佐竹雅昭vs伝説の悪役レスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーの一戦。フジテレビの中継では、ブッチャーに追い込まれた佐竹がリング下にエスケープしたところで、突然クイズをインサート。

「佐竹がリング下から取り出した凶器は何でしょう?」
「a.おろし金 b.布団たたき c.金ダライ d.剣山」と、ご丁寧にも生活用品を使用している画像を流しながらの4択クイズを出題したのだ。
しかも、正解はCMの後でという徹底ぶりの上、試合中継もその回答を発表して終了なのだから、斬新にも程がありすぎた。
ちなみに、正解はc.金ダライ。ドリフのコントでよく見るアレである。

時代の先端を行く斬新な演出の数々


会場の演出もエンターテイメント性あふれる華やかなものだった。
巨大なオーロラビジョンの他に電光掲示板も設置。選手の決めフレーズを同タイミングで流したり、入場テーマに合わせて点滅させるなどの仕掛けで会場を盛り上げた。
リングサイドの客席にスティックバルーンを無料配布し、これをバチバチと叩いて応援するよう電光掲示板から指示を出して煽ったりもしたが、これは当時、メジャーリーグで火が付いたばかりの応援方法。そういった意味でも時代の先端を行く斬新なイベントだったのである。

「格闘家たちのプロレスごっこ」だったのだろうか?


03年1月19日、東京ドームにおいて、より豪華メンバーが集結する形で第2回大会が開催された。しかし、熱心なプロレスファンたちが、格闘家たちの「ファンタジーファイト」に対してNoを突きつける。要は、試合内容が「格闘家たちのプロレスごっこ」に映ってしまったのだ。そして、オピニオン・リーダー『週刊プロレス』を始め、バッシングが加熱する事態となってしまう。
そこには明白な理由があった。テレビを含めたイベントプロデューサー側は格闘家たちを「出演者」ぐらいにしか見ていなかったようで、プロレスの稽古を付けたのは試合わずか2日前だったというのだ。

格闘家たちは皆真摯に「ファンタジーファイト」に取り組んでいたし、元々ポテンシャルは高いのだから、下準備さえ整っていれば、かなり面白いイベントになったはずなのだが……。

消滅した『WRESTLE-1』


しかも、第2回大会直前にPRIDE(DSE)の森下直人社長が急死。さらに、2月にはK-1の石井館長が脱税により逮捕される事態に。これにより、PRIDEとK-1、双方の体制が変更になってしまう。続いて、ミルコ・クロコップ引き抜きをめぐってPRIDEとK-1の関係も悪化。結局、『WRESTLE-1』はそのまま消滅してしまった。

壮大な実験のまま終わってしまった『WRESTLE-1』。試みが面白かっただけに、夢の続きが見たかったイベントである……。
(バーグマン田形)


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