『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日、AbemaTV)3rd Season Rec5。
きついバトルを勝ち抜いて来たチャレンジャー、TEAMニガマムシ(Rude-α、MC☆ニガリ、じょう)はスカパーの番組「BAZOOKA!!!」主催の高校生RAP選手権でバチバチやりあいながら切磋琢磨してきた仲間だ。
時には相手を打ち負かし、時には泣かされてきた。各々の個性をしっかり把握しているため、チームとしての一体感はバッチリだ。前回の3on3の言葉の乱舞は見事なものだった。

団体戦という新ルールはチャレンジャーが有利になるように導入されたらしく、番組に先駆けて配信された『漢たちとさんぽ』(Fresh!)でR-指定がモンスター側の心情を吐露していた。「モンスターは自分をふくめ個性派ばっかりだから、チーム戦はきっついわ~」。モンスター随一のテクニシャンにしてこれだ。
「フリースタイルダンジョン」ラスボス般若を引きずり出したニガマムシ、じょうで下克上なるか
フリースタイルイラスト/小西りえこ

さて、いよいよラスボスの登場である。試合スタイルは原点回帰の1on1。賞金100万円はデカいが金額の問題ではない。『フリースタイルダンジョン』が大きな現象となっている。いま若きチャレンジャーが勝ったら、世代交代として日本語ラップの歴史に記述されるだろう。それが東京ローカルのテレビ番組で行われることに異論はあるとは思うけど……。


ともかく両者ともに負けるわけにはいかない大一番だ。
最終決戦、TEAMニガマムシからじょうが選抜され般若に挑む。

憧れの人を倒さなければいけない


じょうは中学校でいじめられ不登校に。その困難をヒップホップと出会いで克服した。当然、般若の音源からも力を得ただろう。リスペクト、しかない。しかし、ラッパーとして表現の高みを目指す以上、憧れの人を倒さなければいけない場面がいつか訪れる。それが今だ。マジか、今か。じょうに感情移入すると体が震える。

ガウンを脱いで入場した般若はムエタイパンツにテーピング(骨折?)という格闘家スタイル。このステージに立つのは半年ぶりだが、体は鍛え抜かれている。上京したばかりのニガリと一緒に筋トレしたこともあった。


先攻、般若でバトルスタート。

般若は高圧的にくるかと思いきや意外なことにじょうに寄り添う。

般若「俺とお前はタメだ わかるか? ナメていちゃあダメだ」


般若のライムは文字に起こすと凡庸な感じがするが、短い単語で韻を整えながらリズムのケツにハメこんでいくルーズさがクセになる。また、平易な言葉使いについ流して聞いてしまうが、「俺とお前はタメだ」ってかなり無理矢理! 続く言葉も意味を追っていくと支離滅裂。不条理によって追求される真理が般若の世界だ。

さらに般若はじょうが語るべきストーリーを先取りし、たたみかけていく。

般若「でも 暗い話 俺も元々いじめられっ子 だけどもラップに会って変わったんだよ」

じょうは般若時空に捕まってしまったようだ。これまで変幻自在のフロウでモンスターたちを幻惑し、「Zeebraの飼い犬」などのエグいパンチラインで勝ち上がってきたが、どうも調子が出ない。

ラウンド1の判定はLiLyさん以外、全員般若。アブねー! クリティカル寸前。じょう、がんばれー。

嫌な記憶が資産に変わる


ラウンド2でじょうは体力回復を狙ってか後攻を選ぶ。
『フリースタイルダンジョン』は「Season」ごとに1日で「Rec」される。ラスボス対決に至ったチャレンジャーは長丁場だ。じょうの息はあがっている。

じょう「もうお前ら騙されんなよ 般若さんやからって言葉のあつさとかも気にせんでええねん」


いじめられっ子がマイクを持った。嫌な記憶が資産に変わる。ヒップホップは逆転の音楽だ。持たざる者のほうが持っている反転の音楽。

「もうお前ら騙されんなよ 般若さんやからって言葉のあつさとかも気にせんでええねん」
般若の圧を感じている者にしか言えない言葉だ。

ラウンド2、勝ったのは般若。
下剋上はならなかった。

今回は飯田和敏が全力でレビューさせていただきました!
(飯田和敏 イラスト・小西りえこ)
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