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月島に戻るのか、前に進むのか
沼ちゃんが悲しい思い出をもつ街、月島の物件を探して紹介すべきかどうか悩む伊達さん(高橋一生)ら、持井不動産の面々。そんななか月島に、沼ちゃんの理想にぴったりのものが見つかる。伊達さんは意を決して募集前の物件をいち早く案内し、沼ちゃんはその物件への申し込みをする。
いよいよマンションを買うかもしれない。そしてそれは月島かもしれない。一旦決断をしたものの迷いを捨てきれない沼ちゃんは、近所のスナックのホステス、ヨーコさん(高山のえみ)と出会う。彼女は「好きな街が多すぎる」という理由で、3ヶ月ほどの短い単位でいろんな街をさまよっていた。「同じ街には戻らない」という彼女と出会い、沼ちゃんは月島に戻るのではダメだと気づくーー。
寄る辺ない者たちのダンス
「東京砂漠」に「茜色の夕日」……。これまで、ドラマの中では「東京」に関する曲がいくつか歌われた。今回はその集大成のような、美しいシーンがあった。生まれた性別とは違う性を生きるヨーコ(ヨースケ)と、家族をなくし、居場所を探し続けてきた沼ちゃん。くるりの「東京」にのせて、さびれたスナックで誰に見せるわけでもなく踊られる、寄る辺ない二人のダンスの美しいこと。
そして今回は、「誰かに傘をさしかける」回でもあった。
伊達さんのライバル、密かに登場
月島に対する答えが出せないまま、「伊達さんのすすめる物件ならば、ぜひ」という沼ちゃんと、やがて自分の気持ちに気付き「戻るんじゃダメなんです」と強い口調で言う沼ちゃんに「前を向いていらっしゃるのがいちばんお似合いだと思います」と話す伊達さん。
お礼のクッキーを焼く沼ちゃんと、それを大事そうに、小動物のように少しずつ食べる伊達さん(この食べ方! そして「おいしゅうございました」という言葉!)。
淡くほのかな、伊達さんと沼ちゃんの関係。この、本人も恋とは認識していないが沼ちゃんに対して特別な思いを抱く伊達さんのライバルが、密かに登場していたのをご存知だろうか。しかも、第1話から!
その人こそ、「じんちゃん」の常連、ネイビーの作業服を着込んだ電気屋の男性だ。
彼は、本当に頻繁に「じんちゃん」を訪れ、沼ちゃんと接している。1話で沼ちゃん宅の洗濯機のようすを心配してアドバイス。2話で要さん(陽月華)らの沼ちゃんに関する話をしている隣のテーブルに密かにいたりもする。3話、4話には登場しないものの、5話では「じんちゃん」の照明を直して「いいよ、こんなのわけないよ」といいところを見せた。6話でも沼ちゃんと接することはないものの、後輩と飲んでいる姿は確認できた。
この役を演じているのは廣末哲万。脚本の高橋泉と映像ユニット「群青いろ」を結成し、ともに作品を作り続けてきた映画監督でもある。
私はこれまで、彼の思いを密かに見つめていた。伊達さんが沼ちゃんと距離を縮める一方で、いつまでも常連の枠から脱しない彼にやきもきさえしていた。しかし7話では、ヨーコさんのいたスナックのママやホステスさんに常連さんとしてちやほやされている……。沼ちゃんに一途だと思ってたのに! ちょっと残念だよ!
とはいえ、最終回にこのストーリーも進展するのかどうか、気になるところだ。
作品の空気をあらわすオープニング
最終回直前なので、触れられるところにはすべて触れておこう。
静かな音楽にのせて、女性が木の枠でできた家の中で移動する姿が印象的なオープニング映像。毎回、少しずつ変化するという手の込んだもの。これはマームとジプシーという劇団を率いる演劇界の俊英、藤田貴大が手がけたものだ。シンプルな木の枠をさまざまな形に変え、家を表現する手法は、彼が舞台でもよく用いているもの。そしてここに登場するのは成田亜佑美。
藤田は、これまで「失われたもの」についての作品をいくつもつくってきた。家が取り壊されるのを家族が見守る作品もある。本編とは関係ない数十秒の映像だが、このドラマに寄り添う、導入としてぴったりのオープニング。こんなところにも、製作陣の細やかな気遣いが感じられる。
さあ、いよいよ最終回。ちなみに演出の池田千尋は、映画監督でもある。08年、西島秀俊主演で撮った長編デビュー作のタイトルは『東南角部屋二階の女』。沼ちゃんにも、東南角部屋の、日当たりのいい部屋が見つかるだろうか。
(釣木文恵)