唐沢寿明と窪田正孝の、新旧イケメン俳優によるW主演が話題を呼んだものの、平均視聴率 は8.3%。低調な結果に終わりましたが、パロディをふんだんに盛り込んだコメディタッチの作風に、熱心なファンも多かったようです。
グダグダだった『ラストコップ』の生放送
特に良くも悪くも評判だったのが、最終回。一部を生放送にして、リアルタイムの視聴者投票により、唐沢演じる主人公の生死が決まるという、かなり実験的な試みがなされていました。もちろん、生放送ならではのアクシデントも盛りだくさん。
食卓を囲むシーンでは、窪田が佐々木希に公開プロポーズをするのですが、その際、窪田が突然笑い出したのをきっかけに、場の空気が弛緩。すかさず、和久井映見や唐沢といったベテラン勢が老獪な芝居でフォローするも、調子を崩した佐々木が役名ではなく「唐沢さん」と呼んでしまったことで一気に決壊。キャスト全員が笑い出し、グダグダな空気のまま進行していました。
さて、こうしたドラマの生放送で思い出されるのが、2003年に放送された『ムコ殿2003』(フジテレビ系)です。
現代では異例となる生放送を実施
生放送のドラマといえば、他にも香里奈が主演した『私が恋愛できない理由』(2011年)、キムタク主演の『PRICELESS』(2012年)、福士蒼汰と本田翼が共演した『恋仲』(2015年)が最近フジテレビで放送されていましたが、おそらくその元祖となったのが『ムコ殿2003』です。
まず前提として、『ムコ殿2003』がどんな作品だったのかを紹介していきます。本作は2001年に放送された『ムコ殿』の第2弾。前作同様、長瀬智也演じる抱かれたい男NO.1のシンガーソングライター・桜庭裕一郎が大家族に婿入りするお話のニューバージョンです。
ヒロインに竹内結子を据えた元祖『ムコ殿』は、平均視聴率15.3%とまずまずのヒットを記録。フジテレビ的には、二匹目のドジョウを狙いたかったのでしょう。
桜庭裕一郎見たさに1000人以上の観衆が集まる
そんな『ムコ殿2003』の目玉企画だったのが、生放送です。実施されたのは第5話。冒頭、雨が降りしきるお台場のフジテレビ本社前で、左手に傘、右手にマイクをもつ福井謙二アナウンサーのワンショットからドラマは始まります。
「今夜大胆な試みが行われようとしております!」「なんと、ムコ殿2003を生放送で行うというのであります!」と、実況する福井アナ。彼の背後には1,000人以上の観衆がズラリ。どうやら、長瀬演じる桜庭裕一郎の登場を待ちわびているというのです。
生放送ならではのアクシデントが続出!
そこから映像は、桜庭が婿入りした家族「新井家」での朝食風景にスイッチ。別のスタジオで生放送しているというそれは、長瀬が突然咳き込んだり、長女役の岸本加世子がご飯を喉につまらせてむせたりと、『ラストコップ』同様、『NG大賞』でよく見るような絵面のオンパレード。
CM前には、新井家の食卓周囲を、カメラマンや音声さん他、多数のスタッフが取り囲んでいるのが分かる、引きのアングルにシフト。「しっかり生放送でやってます」。そんなアリバイを証明したいがために、挿入したのでしょうか。
ドラマ内で架空のバラエティ番組が放送される
ストーリー中盤では、久本雅美・中島知子・飯島愛がホストをつとめる架空のバラエティ番組に、桜庭が出演するというシーンを放送。
そしてラストは、福井謙二アナウンサーが再登場。彼の実況のもと、架空の番組出演のためにフジテレビ本社へやってきた桜庭を、観衆が取り囲む様子が放送され、ドラマはエンディングへと向かうのです。
事前にかなり番宣したこともあり、この第5話の視聴率は『ムコ殿2003』における全話最高の15.5%を記録。その後も味をしめて、第8話、最終話と生放送を実施したのですが、さすがに飽きられたのか、結果は振るわず。全話通しての視聴率も12.6%と、2001年度版には及びませんでした。
しかし、この13年前の実験的な試みがあったからこそ、ドラマの生放送は今なお受け継がれ、『ラストコップ』のように、連動データ放送による視聴者投票と紐付けられるという、デジタル時代に対応した進化を遂げるまでに、至ったのではないでしょうか。
惜しむらくは生放送を行った作品、ほぼ全ての視聴率が振るわない点。いつしか、生ならではの臨場感を効果的に活用したドラマから、視聴率とクオリティを両立させる“名作”が生まれて欲しいものです。
(こじへい)