『ピューと吹く!ジャガー』。2000年から10年間に渡って少年ジャンプを支えた傑作ギャグ漫画である。

全20巻の単行本は、累計発行部数850万部突破と大記録を達成。うすた京介作品としては、初連載の『すごいよ!!マサルさん』(記事はこちら) に続いての大ヒットとなったのをご存知の方も多いはずだ。

では、この漫画に実写映画版があったことをご記憶だろうか?
タイトルは『ピューと吹く!ジャガー THE MOVIE』。赤く逆だった髪型からコスチュームまで、主人公「ジャガー」を完璧に再現した要潤の振り切れた演技が見ものである。

バラエティ番組のカリスマ、独自の世界観に挑んだ!?


原作者のうすた京介先生は実写化に当たって、「原作をあまり意識しないで、映画なりの『ジャガー』を作ってください」とお願いしたという。そして、「先生の世界観を借りて、自分の面白いことをやってみよう」との思いから実写化に踏み切ったのがマッコイ斉藤だ。
『極楽とんぼのとび蹴りゴッデス』『すれすれガレッジセール』など、深夜バラエティ番組のディレクターとして、「深夜のカリスマ」の異名を取ったマッコイ斉藤。現在では『とんねるずのみなさんのおかげでした』の総合演出としても有名である。

そもそもが、「原作をぶっ壊してしまうタイプ」と自認するだけあって、とんでもない方向に映画は展開して行く。

再ブレイク直前の有吉の怪演にも注目!


マッコイはドキュメントバラエティ番組的なノリで、役者のアドリブに任せる演出手法をとった。特に、ジャガー初登場となるオーディションシーンは完全にアドリブという。要潤による即興の歌とダンスが長尺で披露されるが、堂々やりきった要潤で笑えるか、そんな要潤を寒々しく思うかで、この映画の見方は大きく変わるはずである。
また、得意とする深夜番組的なノリの延長なのか、バイオレンスと下ネタ成分多めの展開なのが特徴。原作とはまた別の不条理な世界が淡々と繰り広げられていく。


特に、再ブレイク直前の有吉弘行と、デンジャラスの安田が演じる暗殺者コンビがエグい。凄惨な暴行シーンや、有吉の狂気染みた怪演は、完全に出る映画を間違えているレベル。物語の軸ではあるのだが、こんなに陰湿な描写にする必要性はあったのだろうか?ギャグ漫画なら次のコマでは何事もなくなってしまうのがセオリーなのに……。
ラストに唐突に繰り広げられるミュージカルを含め、ギャグ漫画実写化の難しさを痛感せずにはいられないのである。

小木の「ハマー」も…原作そのもののキャラクターが総出演!


内容はともかく、主人公のジャガーを始め、登場キャラの見た目は原作そのもの。ゲスでナルシストなダメ人間「ハマー」を演じたのは、おぎやはぎの小木博明。監督イチ押しのキャスティングだったそうで、ほぼ素の状態の小木のまま、リハーサルもなく演じてもらったという。にじみ出るウザさがリアル。まさにハマり役である。
また、「影千代先輩」役の板尾創路、「三太夫セガール」役のなぎら健壱などなど、これまた原作のイメージ通りのキャスティングが光る。

しかし、今作の敵となる、カルーセル麻紀が演じる「キングダム公平」だけは原作を完全無視。衣装も自前とあって、原作要素ゼロを貫いている。
何でも、マッコイは「カタカナに漢字」の組み合わせの直感のみで、カルーセルに決めたそうだ。……このセンスが面白い方なら、この映画が楽しめることは確実である。

原作とそっくりなキャラクターが登場しながらも、その世界観はまったく別物のこの映画。とりあえず、たて笛を偏愛する傍若無人な謎の男「ジャガージュン市」をやり遂げた、要潤の俳優としての幅が格段に広がったことだけは大いに評価したいのである。

※イメージ画像はamazonより日本版劇場オリジナルポスター(大きいサイズ)★『ピューと吹く!ジャガーThe movie』顔アップバージョン/要潤
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