モリーにだけはどうしても勝てない


アメリカに別次元の胃袋を持つ女がいる。その名も異次元女王モリー。

今年もこの季節がやってきた。
第四回大食い世界一決定戦
日本とアメリカをふくむ4カ国(今年はイギリス・オーストラリア)が大食い世界一を決めるため、アメリカに集結する。

各国1チーム4人で
シングル戦
タッグ戦
シングル戦
トータルの3戦の勝ち負けで、勝敗が決まる。

実質、万年2位の日本がどうしても倒せない三連覇中のアメリカに挑みつづけるドラマが見どころとなっている。
「大食い世界一決定戦」異次元女王モリーを追い詰めた日本チームを襲った恐怖の結末
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いや、部分部分で日本がアメリカの選手に勝つことはあった。
1年前の第3回大会では、タッグ戦のクリームハンバーグ対決で、世界公式ルール30分で合計43皿を平らげ、合計36皿のアメリカの大男タッグを余裕で撃破している。

しかし、どうしても倒せない「女王」が、第1回大会から日本チームの前に立ちはだかっている。
それが、異次元女王モリー・スカイラー(37)だ。

タッグ戦では勝利した昨年。2つのシングル戦のうち、1つは敗れたものの、どちらが勝ってもおかしくないギリギリの接戦で、同じ「次元」と言っていい戦いだった。

だが、モリーにだけはどうしても勝てない。当時の日本代表最強2代目爆食女王・魔女・菅原初代(当時52)をもってしても歯が立たなかった。

前回、最初のシングル戦はニューヨークスタイルのドでかピザ対決だった。

はじめ、効率を重視してピザのピースを縦に折って食べていた菅原は、途中から折らずに、ピザの柔らかい部分はガツガツ食べ、硬い耳の部分は細かく丁寧に齧って咀嚼する方法に切り替えた。日本メンバーがセコンドのようにアドバイスをし、みんなで編み出した食べ方だ。
顎に負担の少ないこの方法で、魔女が女王を追い詰めたかのように見えた。
しかしモリーは、一貫して、ピザを外側に折って食べ続けた。司会の中村有志いわく、「チーズが喉を通りやすい」食べ方で、日本チーム一丸となり立ち向かった菅原を、撃破した。

折って食べる食べ方は、一口ごとの効率はいいが顎の力を必要とする。

菅原は日本最高の顎力をもっていた筈だった。その証拠にかつてモリーとここまで渡り合った選手はいない。だが、蓋を開けてみれば、折ったピザを食べ続けたモリーに29皿4.35キロ対26皿3.9キロで敗れ去ったのだ。
しかもこの時のモリーは体調が悪く本調子ではなかったという。

強い人間だから涙がでる


あれから1年。再びアメリカに挑戦する時がやってきた。しかし、魔女・菅原は今年は不参加だ。

総当たりリーグ戦の予選で、いきなりアメリカとぶつかる日本。

アメリカは最強のモリーをぶつけてきた。両耳にはもうあける隙間がないからか、鼻を貫通させるピアスが増えている。雷雨の中、黒いフードを被りうつむくその姿は、まるでシスの暗黒卿。
暗黒面の力でトリュフバーガーを貪り、14個5.6キロ対11個4.4キロで今年の新日本王者である檜山を下した。

しかし、つづく第二試合。

日本は実力ナンバーワンのMAX鈴木(鈴木隆将・36)と5代目爆食女王もえあず(もえのあずき・28)のタッグ戦で、スパゲティを掻き込み、同じ総量22皿ながらわずかに500g上回り、アメリカチームを撃破。勝負を1対1のイーブンに持ち込む。

そして、最後のシングル戦、昨年の代表落ちから、めきめきと力をつけ復活したスピードスター谷崎鷹人(28)がエビフライを74本3.7キロ貪り食って連勝。
世界大食い選手権4回目にして初めて、アメリカからのチーム勝利を手にいれたのだ。

思わず男泣きする谷崎に

「いいんだよ。強い人間だから涙がでるんだから」
と熱いコメントをする照英。
レジェンドMC中村有志から引き継いだばかりで、すでに、「らしさ」も兼ね備えている。

だが!
この1勝も、総当たりのリーグ戦では予選の1試合に過ぎない。
モリーに「決勝で待ってる」と告げるMAX鈴木。
「やれるものなら、やてみな」と返すモリー。

MAXの言葉通り、決勝にすすんだのは、やはり日本とアメリカ。
気合の入る両陣営。
しかしおそるべきはモリーだ。会場に向かう車中で、他のチームメイトが
「鉄槌を下してやる」
「今日はぶっ潰す」
「俺らの時間だ!」
とリベンジに燃える中、モリーだけは、

「わたしはピザを食べたい」

食欲を示して笑う。怖い。

迎えた初戦、メニューが美味そうなチキン&ワッフルだということがわかるなり、
「だったらわたしが行こうかな!」と志願するモリー。三試合連続初戦登板。
大将がいきなり先鋒。先手必勝、もしくはある種の「奇襲」なのかとその戦法を見守るが、単に「早くなんか食べたい」だけなのではないかという疑念が湧いてくる。

しかも日本側が慎重に選手を悩んでいるところに

「MAX! I Want You ! 」

エースMAX鈴木を指名。
まるで、「カーンチ、大食いしよう?」みたいに言う。

「ずっとあなたと戦うのを夢見ていました」
と熱い男MAX鈴木に
「4人目の旦那にしてあげるよ(はぁと)」
と、底知れぬ不気味さを醸し出す。

日本は、モリーには勝てる見込みの薄い選手を当ててエースのMAXを温存し、手堅く勝ちを狙うことも出来たはずだ。だが、誰よりも熱く勝負にこだわるMAXは、この誘いに飛びついた。
やはり、モリーを真正面から下していない予選の勝利だけでは納得できないのだろう。
昨年、アメリカ軍の鬼監督トッドから、その食いっぷりを「He is REAL DEAL」(あいつは本物だ)と評されたMAXは、今や確実に日本最強に育った。
モリーを倒せるとしたらMAXしかないはずだ。
だが、そのMAXをもってしても、モリーに3皿の差をつけて(21皿6.3キロ 対 17皿5.4キロ)破られてしまう。

モリー強し!
優勝の文字が遠のく。もはやこれまでと思われたが、つづくタッグ戦。
MAXの戦いぶりに火を点けられた谷やんこと谷崎が驚異の粘りをみせ(17皿4.25キロ)、調子の上がらない現日本王者檜山普嗣の分まで(12皿)スモークステーキを食らい尽くす大活躍で勝利。またしても試合をイーブンに持ち込んだ。

あっけない幕切れ


ラストのシングル戦、海鮮あんかけチャーハン対決。
紅一点の5代目爆食女王・もえのあずきに望みは託された。
こちらも昨年めきめきと実力を伸ばし、157センチ40キロという小柄な体で、アメリカの巨漢と互角以上に渡り合う日本の現役「女王」だ。
2016年1月放送の「私の何がイケないの?」の調査では、食べた後、胴体の半分が胃になっている事が判明。この時の胃の大きさは5.5メートルのキリンと同じサイズで、その際肋骨も開くのだという。ジョジョの第2部に
出てきそうな生き物だ。
一度諦めかけた優勝が再びちらつく。

しかし、ここで事件が起きた。
190センチの巨漢ボブとともに、最初の1皿を50秒で平らげる。だが、3皿目を食べている途中でもえあずの手がぱたりと止まった。顔色も悪い。
試合中断、病院で検査へ。

「国を背負って」の極度のプレッシャーによる、過呼吸症。
命に別状はなかったものの、あっけない幕切れで、アメリカの4連覇が決まった。

なんてリアルな結末だ。
どうみても、一度諦めたアメリカを下しての優勝がついに叶う瞬間に向かっている流れと思われた。
そう願った視聴者は多かっただろう。

しかし、画面いっぱいに映し出されたのは、鼻水を垂らしたまま固まるもえあずの姿。秋葉原のアイドルなのに。こんな終わり方があるなんて。

4連覇をまるで喜ばず、もえあずを気遣うアメリカチームは株を上げたかもしれない。
摩天楼の夜景をバックに「来年、リベンジしよう」と誓い、歩く4人の姿。それは寄せ集めの大食い集団ではない。立派なチームだ。
その前に立ちはだかる圧倒的な壁・モリー。
題材が題材だけに気づかなかったが、極上の青春ドラマ。しかも次回への期待を煽る、まるで上質な海外ドラマのようだった。
早く次週になって欲しい。いや、来年か。できたらこのメンバーで。

今回一番気になった言葉は、決勝の題材の紹介で登場した「競技用あんかけチャーハン」。
一度食べてみたい。
(アライユキコ)