「ロックの核心は反体制、反権力だ」

かつて、伝説的ロックバンド『ニルバーナ』のフロントマン、カート・コバーンはこう言いました。自らの商業的成功を嫌悪し、ついには人気絶頂期にショットガン自殺してしまった彼らしい、アウトローで、どこか破壊的な一言ではないでしょうか。


しかし、「ロック=反体制・反権力」というのは、ずいぶん時代遅れの価値観。今は、商業ロック・タイアップロックが、世に氾濫する時代です。優等生バンドマンたちがヒットチャートを賑わせるようになり、アウトローな生き様のロックスターは、ほぼ絶滅したといっていいでしょう。

プロレスラーの前田日明・高田延彦とも喧嘩した吉川晃司


吉川晃司は、いまや絶滅危惧種となった、古き時代のロックスターの一人。何といってもこの男、血の気が多いのです。ある時などは、格闘家の前田日明と高田延彦に挑みかかり、返りうちにされたこともあったとかないとか。

強大な相手にも躊躇なく特攻するその勇気・心意気は、まさしく反体制・反権力的。
この粗野な無鉄砲さこそ、現代においてより一際、吉川が“輝く異端”であり続けられる理由の一つではあるのですが、時にその気性の荒さは、周囲の人を傷つけてしまうこともあったようです。

何発殴ったのか?⇒「ワン、ツー、スリー?」と回答


事件は1998年。吉川の自宅で、彼と彼の友人が酒を飲んでいるときに起こりました。酔っ払った勢いからか、ちょっとしたことで口論になり、いつしか殴り合いに発展。182cmの長身、かつ、水球で鍛え上げた屈強な肉体を持つ吉川の打撃は破壊力バツグンだったようで、鼻骨と肋骨を骨折させるなど、友人に全治1ヶ月の重症を負わせてしまいます。

その友人が警察に被害届を出し、吉川が書類送検されたことでこの一件はマスコミの知るところに。すぐに記者会見が開かれます。
その席で吉川は「一方的に殴ったわけじゃない。相手もボクシングの経験があった」と弁明。
記者が何発殴ったのか?と質問すると「ワン、ツー、スリー?」「こう、こう、こう、うん、3発殴った」と、パンチをする身振りを交えて説明して見せます。さらに「僕はちょっと人より力が強いみたいで…」とも発言していました。

尾崎豊の形見のギターを蹴られたことが原因だった


この喧嘩騒動。後の調べで、友人が吉川の大切にしていた尾崎豊の形見のギターを、足蹴りしたことが発端だったと判明します。吉川と尾崎は親友ともいえる間柄。その友が大事にしていた宝物を蹴るなど、吉川にとっては許せない行為だったのでしょう。
もちろん、だからといって暴力をふるうのは良くありません。しかし、亡き友を想い、手を出してしまうほど熱くなれるというのは、なんとも吉川らしい、彼の生まれ故郷・広島名物「男気」溢れるエピソードではないでしょうか。

この一件、殴られた友人に非があったこともあり、大問題には発展しませんでした。むしろ、吉川が情に厚く、喧嘩にも強いというイメージ通りの人物だと改めて証明されたため、ファンからは支持する意見も多かったといいます。

ロックをやるミュージシャン、全員が吉川のように喧嘩っ早くてはかないません。けれども、こうした計算高さとは無縁の男臭いアウトローも、古い時代のロックの体現者として、今の音楽業界に存在していても良いのではないでしょうか。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりウインター・グリーティング
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