テレビで何度も見かけたことはあっても、しっかり1本を通して観賞したことはない。

恐らく、そんな人も多いだろう。
日本に住んでいたらタイトルは聞いたことがあるけど、実際は観たことがない映画第1位、それこそ『釣りバカ日誌』シリーズである。すいません、正直ジブンもちゃんと観賞したことないっす。
あの『男はつらいよ』の同時上映作品として、88年(昭和63年)12月末に劇場1作目が公開され、09年(平成21年)12月公開の『釣りバカ日誌20 ファイナル』まで、なんとシリーズ全22作が制作されたモンスタームービー。脚本は今も現役映画監督して作品を発表し続ける山田洋次。正月映画の定番として90年代に10作、00年代にも10作公開。もはや狂気すら感じさせるハイペースである。

国民的映画「釣りバカ日誌」


原作は1979年から小学館『ビッグコミックオリジナル』で連載されている作・やまさき十三、画・北見けんいちによる釣り漫画。ある意味、最近の邦画界で流行りのマンガ原作映画の先駆け的な作品だ。

うん、まあそれはなんとなく知ってる。主人公はハマちゃん、そしてスーさん。それもなぜか知ってる。長嶋監督風に言うと、さすが国民的映画。観た事なくても、ポスターは子どもの頃から街中で何度も見て刷り込まれているあの感じ。

『笑っていいとも!』や『SMAP×SMAP』の何が凄いかって、それがもはや我々の日常の風景と化しているからである。いつの時代も長寿シリーズほど「マンネリ」とディスられるけど、世の中にマンネリするまで続けられる作品はほとんどない。

意外と常識人な浜崎伝助ことハマちゃん


というわけで、正月明けに記念すべき劇場1作目を観てみると、いきなり驚かされるのが、当時41歳の西田敏行扮する浜崎伝助ことハマちゃんが意外と常識人なことだ。

そのビジュアルから豪快な風来坊を想像していたら、釣りに出かけ海辺でタバコをふかす時も携帯用灰皿をしっかり持参。一度帰宅してスーツ姿に着替え、愛車スーパーカブにまたがりフェリーに乗り込み出勤。
すると、いきなり鈴木建設の東京本社栄転を命じられ、「困りますよ~。僕いきませんよ。この街気にっとるのね。気候はいいし、人情は厚いし、なにより魚が釣れるんですわ。ここを一生の都市と決めて、みち子さんとも相談して。家まで買ったんですわ」と断るハマちゃん。

凄い、開始数分でハマちゃんがどんなキャラでどういう生活をしているのか一発で説明してみせる。そして、家で美人妻みち子さんから「東京にも海はあるわよ」なんて軽く説得され、エロい雰囲気になり「合体!」という画面一杯のテロップドーン。
次のシーンは東京へ向かう新幹線の車中へ。す、すげぇ、なんたる軽快なリズム。好調時の前田健太のピッチングのようなテンポの良さだ。

スーさんとの初対面は定食屋


東京本社に行っても、遅刻しまくり昼休みにパチンコにいって景品を社内に配るハマちゃん。かと思えば、パチンコ店で知り合った人からウン億円の仕事を受注してくる。まるで『こち亀』の両津勘吉である。

そんなある日、会社の近所の定食屋で暗い顔をした初老の男と出会う。いつもの調子で魚定食を食べながら「こいつだって元々海で元気に泳いでいたんだからねぇ。それを無理に連れてきて塩ふってさ、きちんと食べてやらなきゃ可哀相じゃないか」と話しかけるハマちゃん。
意気投合して釣り仲間になる2人だったが、この故・三國連太郎演ずる初老の男こそ、ハマちゃんが勤める鈴木建設社長のスーさんだった。果たして、2人の関係はどうなっていくのか……。

登場人物のキャラ立ちが素晴らしい『釣りバカ日誌』


シリーズ1作目公開から29年。熱心なファンの方には何を今さらと突っ込まれそうだが、この映画はとにかく登場人物のキャラ立ちが素晴らしい。

ハマちゃんとスーさんはもちろん、嫌みだけどなぜかキュートな佐々木課長に扮した故・谷啓、「釣りが好きになるには2つ資格がいる。ひとつは気が短いこと。もうひとつはねぇスケベなこと」なんつってやたらとエロいみち子さん役の石田えり(『釣りバカ日誌7』以降のみち子さん役は浅田美代子)、軽すぎるOL山瀬まみ。タバコを吸いまくり、コンプライアンスなんて適当。

1988年というバブル真っ只中の時代性もあり、みんなどこかお気楽で楽しそうに会社生活を送る面々。出世だけが人生じゃない。ちなみに、その後のシリーズでスーさんから「社長になりたいと思ったことはないのか?」と聞かれたハマちゃんが「まったくない」と即答したシーンで、映画館の観客がドッと沸いたという。
「24時間戦えますか」って別にそんなに働かなくてもいいじゃない。そこにはある種の余裕と希望がある。このテンポのいい心地良いユルさこそ、『釣りバカ日誌』が正月映画として長く君臨し続けた要因ではないだろうか。

「今さら」じゃなく「今こそ」。2017年、年末年始の休み明けで疲れているあなたにこそ、『釣りバカ日誌』デビューをオススメしたい。



『釣りバカ日誌』
公開日:1988年12月24日
監督:栗山富夫 出演:西田敏行、三國連太郎、石田えり、谷啓
キネマ懺悔ポイント:71点(100点満点)
記念すべき劇場1作目。見所のひとつはみち子さん役の当時28歳石田えりの圧倒的な色気だろう。その伝説的巨乳にはあの格闘王・前田日明も秒殺KOされたという逸話を持つ。石田えり最強説はガチである。
(死亡遊戯)


(参考資料)
WOWOW動画 山田洋次監督が語る!釣りバカの“魅ドコロ”

※イメージ画像はamazonより釣りバカ日誌 [DVD]
編集部おすすめ