1月8日放送 第1回「井伊谷の少女」 演出:渡辺一貴 視聴率16.9%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)

NHK出版
昨年の大河ドラマ「真田丸」のクライマックス大坂の陣で、真田信繁(堺雅人)の台詞にも出てきた井伊家。
今年の大河は、“徳川の四天王”のひとりだった井伊直政を養子として育てたと言われる女性・直虎(柴咲コウ)が主人公だ。
脚本の森下佳子は、現在再放送中の朝ドラ「ごちそうさん」(13年)で向田邦子賞を受賞、時代劇では日曜劇場「JIN-仁-」(09年)で最高25.3%の視聴率をとった作家。とりわけ「JIN」は主人公が過去にタイムスリップするSF仕立てでありながら、SFは視聴率がとれないと言われていたことを覆したこともあって、作家としての力量には信頼がある(ただし漫画原作がある)。
大河ドラマは女性が主人公だとあまり評判がよろしくないが、今回、その先入観のなかでどう戦うか期待して1話を見たら、土地の伝承をうまく盛り込んで、有名でない歴史上の人物の幼少期(メインの著名俳優が出てない部分)をドラマチックに仕立ててその世界観にぐっと引き込んでみせた。
まずは、主人公(直虎)が幼い頃(新井美羽)からはじまって、ドラマの設定が大まかにわかる、大河ドラマのおなじみの構成。ときは戦国、場所は遠州(いまの静岡県浜松)の井伊谷。そこの領主・直盛(杉本哲太)の娘・直虎(幼名おとわ)は、幼馴染の亀之丞(藤本哉汰)と結婚して井伊家を継ぐことを決意する。ところが、亀之丞の父・井伊直満(宇梶剛士)の謀反によって状況は激変、直虎と亀之丞は別れ別れになってしまう。
「親の謀反が子に報うは武門の常」 とは厳しい時代である。
生涯独身、男勝りに生きていくという触れ込みの直虎だが、幼少時から愛情深い人間として描かれていた。幼馴染で仲良かったとはいえ急に許婚にされた亀之丞に対する献身は尊敬に値する。
そんなおとわ(直虎)に亀之丞は「おれの竜宮小僧になってくれるのか」と感激する。
この竜宮小僧 が第1話のキーになっている。
「竜宮小僧」とは">「直虎」公式サイトでもさっそく紹介されていて、「静岡県浜松市や浜名湖周辺で語り継がれている伝説」に登場する人物。困った人を助けてくれる不思議な少年で、彼が亡くなった後、水が沸いて村を潤したという伝説が残っている。それと井伊家の初代・共安が「井戸に捨てられた赤子が成長して井伊家の開祖となった」(井伊家菩提寺龍潭寺サイトより)という伝説とがつなげて描かれる。
竜宮小僧と井伊家初代を繋ぐものは「水」だ。その「水」に導かれるように、ドラマの冒頭・直虎は川に飛び込む。それは彼女が高いところからおそれず川に飛び込む強さの表れでもあり、また、今後、濁流を泳いでいく暗示でもある。
実はこの水の洗礼、朝ドラではおなじみ。朝ドラにおけるヒロイン及び登場人物の通過儀礼としてまことしやかに伝説化されている。例えば、森下が書いた「ごちそうさん」では、主人公め以子(杏)はみごとなまでに派手に河に落ちる。
「おれの竜宮小僧になってくれるのか」という亀之丞の台詞のごとく、直虎は、水に護られた人物として(井戸の化身もしくは竜宮小僧)生きる宿命を課せられたと思える。運命のひと・亀之丞が「亀」という水に関わる名前であるのもうまくできている。
こんなふうに「おんな城主直虎」という大河の最初の一滴はとてもいい流れをつくり出した。
1月15日放送の第2回「崖っぷちの姫」でもおとわ(直虎)が亀之丞のために奮闘する。もうひとりの幼馴染鶴丸(小林颯)との関係は・・・
余談も余談だが、のちに井伊家に家老として仕えることになる木俣家も井戸と関係ある名前だ。歴史上、最初に木俣という名前が世に登場するのは古事記で、木俣は井戸(水)の神様になる。
(木俣冬)