いわずもがな、2011年『キングオブコント』の王者、お笑いトリオ・ロバートのボケ担当であり、名実ともに現代のお笑い界を支えている“至宝”の一人だ。
2015年4月より「honto+」で連載されているこの企画は、YouTubeでの動画配信で一躍注目を浴びた。秋山の鋭い洞察力と演技力は、まさに憑依体質という言葉がしっくりくる。
そんな“なりきり”の才能はコンビ結成当初から炸裂していたが、その本領が発揮されるのは極めて“ギリギリ”な人間模写である。
無論、あらためて語ることすらおこがましく野暮であることは承知の上で、今回は『はねるのトびら』で放送されていた人気コント・『グローバルTPS物語』を振り返ってみたい。
アングラすぎる! この時代の深夜枠だから放送できたマルチ商法コント
『はねるのトびら』といえば、当時まだ“超若手”だったキングコング、ロバート、インパルス、ドランクドラゴン、北陽を起用して大ブームとなった、2000年代のフジテレビを代表する人気バラエティ番組である。
深夜枠だった当初は、今思い返しても“攻めてるな”と唸ってしまうような、かなりマニアックなコントを数多く生み出していた。
なかでももっとも印象的だったのが、2001年から放送された、マルチ商法のコント『グローバルTPS物語』だ。90年代後半にマルチ商法の被害が拡大したことを受けて、2001年には訪問販売法が改正されたが、グローバルTPS物語が放送されたのは、まさにその年だった。
ロバート秋山とアブちゃんのコンビが怖すぎる
「恋の虜 Boy meets Girl's Parents」と題された第1話。どこにでもいそうな“普通”のサラリーマン男性・博(ロバート・山本)は、婚約者であるさおり(北陽・伊藤さおり)の両親に挨拶へ訪れる。
「ははは、博くんだったっけ? なかなかいい青年じゃないか、さおり!なぁ、かあさん」
「逃げられないようにしないとね!」
秋山扮する父親と、虻川扮する母親は、不敵な笑みを浮かべている……。それもつかの間、「ちょっと着替えてくるね!」とさおりが席を外した瞬間、空気が一変。突如、父の声色が変わり甲高くいかがわしい声で、唐突に「商品」の説明を始めたのだ。
あまりにもリアル! コミカルだからこそ怖い秋山の七変化
「えーっと今回ね、ちょっとだけ耳の方傾けてくれたら嬉しいですッ!」
「えー、トップクラスのビジネスなんだけど、興味あるかな?」
「博くんの収入、頑張り次第で100万、200万になっちゃうワケッ!」
「オーストラリアのシステム、40億で、『グローバルTPS』っていううちの会社が買い取っちゃったの!」
「男だったら誰だって成功したいっていう願望あるよね! それを叶えるのために作っちゃったのが、グローバルストーンっていう石なのね!」
……え、えぇぇ? 動揺する博。その正体は、婚約者の両親の皮を被った、マルチ商法のメンバーだったのだ。
「ハンコ押しちゃお~よ! ハンコ押してお金持ちになっちゃおーよ! エンジョイしようよ!」
「ここにハンコ押すだけで200万入ってくるんだわ!」
「説明がわかんないんだったら、分かるまで説明するしぃ~!」
「分からないなら、説明するっつってんだろうがァ! タコがぁ!」
博はマルチのメンバーから逃れられなくなり、謎のストーンのほかにも「グローバルローン」「不老不死の薬グローバルカプセル」といった怪しげな商材まで売りつけられる始末。
最終的に博の両親まで丸め込まれ、博本人もマルチ商法の一員になってしまうのだった。『グローバルTPS物語』はシリーズ化して14話ほど続いたが、番組のゴールデン進出とともに終幕する。
秋山竜次の才能が発揮された『はねトび』
マルチ商法の勧誘手法があまりにもリアルなため、放送作家が作ったコントだと思いこんでいた。
しかし、のちのインタビューによれば、秋山が実際に喫茶店でマルチの勧誘を目撃したことがきっかけで日の目を見たというから驚きである。
『クリエイターズ・ファイル』以降、秋山の天才的なセンスと芸人としての底力は誰もが認めるところとなったが、『はねトび』時代からその才能は遺憾無く発揮されていたのだ。
現在、売れっ子として多忙を極める秋山だが、よしもとの劇場公演でも一切手を抜くことなく全身全霊でコントを行っている姿には感服せざるをえない。根っからの芸人とは、このことなのだろう。
次の休日にはぜひ、『はねトび』DVDを観ながら、あの時代と秋山竜次の歴史に想いを馳せていただきたい。
(ヤマグチユキコ)
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