そばだけど麺じゃない山形ご当地グルメ
山形県の酒田に「むきそば」という、ちょっとユニークなご当地グルメがある。「そば」と名前こそつくが、あの細くて長いそばではない。そばの実をむいて茹でたものにダシ汁をかけて食べる郷土料理である。
そばの実は丸くてプチプチした食感。箸でなく、スプーンで食べるほうがラク。いわばスープ感覚だ。

このユニークなご当地料理のツールについて、「食の都庄内」親善大使で、日本料理研究家でもある土岐正富さんに話を聞いた。
「昔は関西の寺院で食べられていたものが、北前船で庄内に伝わり、料亭でだされるようになりました。最近でも小料理屋などでは食べられます。お酒を呑みながらでも、つるっと入っておいしいんですよ」(土岐さん)
通常のそばとは違い、一品でメインになるものではなく、会席料理などでは小鉢感覚で食事の途中に提供されるという。
作るときは、そばの実を強火にかけ、沸騰したら中火で約10分、好みのかたさになるまで茹でる。茹でたらお湯をすてて流水でよく洗い、水切りして丼に入れ、冷たいダシ汁をかけて食べる。ちょっと手間がかかるので、いまでは家庭ではあまり食べられていないそうだ。
むきそばに待望のレトルト登場

実は土岐さんはレトルトの「むきそば」を開発し、一昨年から販売している。それまでにも缶詰や瓶詰タイプのむきそばはあったが、レトルトというのは日本初。せっかくのユニークな郷土料理を、若い人たちにももっと手軽に味わってほしいと考えたそうだ。
「むきそばは食欲がないときにも食べやすく、夏バテ防止にもいい。そばの実は栄養価にすぐれていて、昔はこれを食べると医者いらずといわれたほど。医者がむきそばを嫌った、なんて話もあるんですよ」(土岐さん)
レトルトの開発にあたっては、むきそばがちょうどいいかたさになるように、事前に水につける時間を試行錯誤しながら調整。また、ダシの味を決めるのにも苦労したそうだ。
一般的にむきそばのダシは、鶏ガラか魚でとる。土岐さんのレトルトでは、透明感をだすためにトビウオと昆布、かつおぶしのダシを使用。鶏肉を具として入れている。

リピーター続出! 一度食べるとクセになる味
「レトルトは冷蔵庫で冷やして食べるのがおすすめ。ぜひ、めんどくさがらずに薬味も入れて楽しんでみてください」(土岐さん)
今回トッピングには、大葉、みょうが、ネギ、刻み海苔を用意。トッピングはお好みでOK。地元ではイクラやトロロ、天ぷらなど乗せることもあるそうだ。ちなみに土岐さんのお気に入りは「温泉卵」のトッピングだとか。

実際に食べてみると、ほんのり甘味があり、旨みの効いたダシにほっと落ち着く。プチッとやわらかいむきそばの食感も小気味よく、薬味の清涼感が味を引き締めている。リピーターが多いというのもうなずけるクセになる味だ。
商品は庄内空港や地元のスーパー、観光施設「山居倉庫・酒田夢の倶楽」などで販売中。とくに宣伝はしていないものの、最近は県外の人からの問い合わせも増えているとのこと。155グラム入り(お椀一杯分くらい)なので、小腹がすいたときのおやつにちょうどいいサイズ。これからの季節、冷蔵庫に常備しておきたくなる一品だ。
(古屋江美子)