連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第18週「大丈夫、きっと」第104回 8月1日(火)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中 正
「ひよっこ」104話。辛いことは、時子、鈴子、愛子で受け止める=最強
イラスト/小西りえこ

連続朝ドラレビュー 「ひよっこ」104話はこんな話


みね子(有村架純)は、父・実(沢村一樹)が見つかったことを、奥茨城の母・美代子(木村佳乃)に手紙で報告する。

受け止めてくれる人


「参った・・・」というみね子の言葉が真に迫った。
やっと会えた(ほぼ3年ぶり)お父さんが、自分たちのことを忘れてしまっているなんて、どうしていいかわからないのは無理もない。

だが、救いは、傷心のみね子を受け止めてくれる人がたくさんいることだ。
まず、時子(佐久間由衣)、鈴子(宮本信子)、愛子(和久井映見)が受け止める。この3人、最強である。

2年半もの間、お父さんを家に住まわせていた世津子(菅野美穂)のことは、やっぱり「なんで? 許せない」と思ったと吐露するみね子。そうだよね、うんうん。助けてくれたのだと思い直すが、そんなに簡単に納得はできない。
いろんな感情が渦巻くけれど、まずは「(お父さんが)生きて会えたということ。元気だったということ。そして、また会えるということ」と大事に噛みしめることだと鈴子が諭す。

「辛いことは後からでいい」 

そう、少女小説「少女パレアナ」(エレナ・ホグマン・ポーター作 村岡花子訳)の「喜びの遊び」(アニメ「愛少女ポリアンナ物語」〈86年〉だと「いいこと探し」)のように、まずは、良いこと、から。

世津子のマンションで土砂降りだった雨も、みね子があかね荘に帰って来た時には、あがっていた。

手紙の書き方


なにはともあれ、母に報告しないとならない。すぐに電話にしようか迷ったが、鈴子の助言で手紙を書くことに。

どう書こうか、みね子が考えあぐねていると、お姉さん気質の時子が「みね子の気持ちを書く必要はないんじゃないかな」とアドバイス。
みね子が、世津子に対して感じた思い、実の暮らしをどう思ったかは書く必要ないと。

「どう思うかは美代子さんが感じることだから」

これは、手紙の書き方のみならず、脚本や記事の書き方にも通じるものがある。さすが、時子。演劇の勉強をしているだけはある。
もちろん、自分の芯は大事なのだけれど、読む相手がいる場合、その人に何かを感じさせることが大事(脚本を書こうと思っている人は見倣って!)
少なくとも「ひよっこ」は、観る人が感じることに心を砕いていると感じる。

それにしても、みね子は字がきれいだ。そして、時子のアドバイスをもとに書いた手紙の構成は、状況を淡々と報告し、最後の最後に、世津子の名前を出すなど、じつに巧い。

甘納豆、五目チャーハン、あんみつ、サンドイッチ


時子、鈴子、愛子に限らず、みんな優しい。
富(白石加代子)は甘納豆、福翠楼夫婦(光石研、生田智子)はいつもは三目(なんと!)だが、特別に五目チャーハン、柏木堂父子(三宅裕司、古舘佑太郎)はあんみつ、省吾(佐々木蔵之介)はサンドイッチ、早苗(シシド・カフカ)は抱擁、漫画家コンビ(岡山天音、浅香航大)は、気持ちが伝わるだけ(不器用な彼ららしい)。

これまでさんざん、可哀そうに思われたくない、と言ってきたみね子だが、さすがにもう言えない感じで、こんな時は、みんなの優しさに思いきり身を委ねてしまっている。もう最大級のショックだもの。

ごちそうを目の前にして「すんごいことになってしまいました」というみね子。
その“すんごいこと”のレベルが、食べ物いっぱいってところが、悲しさの度合いの大きさの割に、ほのぼのする。それが「ひよっこ」の素敵さのひとつ。

愛子さんでも敵わない


鈴子がみね子に助言した数々のことを聞いて、愛子は、「ありがとうございます。私が思ったことは全部、鈴子さんがおっしゃってくださいました」と言う。ん? これでは、鈴子と愛子の役割がかぶってしまうではないか。いい人を物語に盛り込み過ぎではないでしょうか、岡田惠和さん、とも思ったものの、こんな時、負け惜しみに思われかねない台詞を、全くそう感じさせない和久井映見の人間力はさすがだ。
ほんとうに、「ひよっこ」には、いやな人がいない。日本人の情操教育のために、「ひよっこ」を「サザエさん」なみに続けるべき。そうしたら、10年後には日本には、炎上という言葉はなくなっているかもしれない。

あ、つい、私の気持ちが溢れてしまいました。それだけ「ひよっこ」が感情を揺さぶるということなのです。
(木俣冬)
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