過激でもなく、新しくもない、ゆるさが魅力の深夜ドラマ『居酒屋ふじ』。舞台は中目黒にある実在の居酒屋で、実際に店の常連だった有名俳優たちが実名で登場する。


先週放送の第4話は、大森南朋役の大森南朋以外は実名ゲストなしの回。昭和の風情を残した居酒屋を舞台にしたドラマらしく、どことなく昭和な感じのお話だった。
「居酒屋ふじ」4話。大森南朋の金の哲学にシビれる「金なんか持ってる奴が払えばいい」(言ってみたい)
イラスト/小西りえこ

『居酒屋ふじ』はダメは人に優しいドラマ


売れない役者・西尾(永山絢斗)のバイト先で3万円が盗まれた。社長(阿南健治)に真っ先に疑われて困惑する西尾は居酒屋「ふじ」でグチをこぼすが、常連たちは刑事ドラマ風の取り調べごっこに興じる。玲子さん役の平田敦子がさりげなく平泉成のモノマネをしているのがおかしい(その後、『寺内貫太郎一家』の樹木希林のモノマネもしていた)。

その後も社長に疑われ続ける西尾。いじけて空き缶を蹴飛ばすのが昭和しぐさ。最近、空き缶蹴っ飛ばしてないなぁ。「このままじゃバイト先にいられなくなっちゃいますよ」と不安がる西尾に、大森南朋が3万円を差し出す。これをそっと返しておけば、たとえ盗んだのが西尾のバイト仲間であっても、事態は丸く収まるというのだ。なぜ関係のない人間が3万ものお金を払ってくれるのかといぶかしむ西尾に、大森南朋はこう答える。

「いいんだよ、金なんか持ってる奴が払えば」

何それカッコいい! そんなこと言ってみたい。


お金を盗んだのは西尾のバイトの先輩、工藤(村上淳)だった。しがないバイトの工藤だが、年に一度だけ会える別れた妻と幼い娘の前で精一杯見栄を張りたかったのだ。その見栄というのがUFOキャッチャーに3万丸ごと突っ込んでピカチュウのぬいぐるみを取ってあげるというものなのだが……。

その一部始終を目撃してしまった西尾に、いつもはワイルドな工藤が黙っていてくれと土下座する。この仕事を失ったら彼には行き場がない。それでも盗みは盗み。葛藤する西尾に大森南朋はビールをあおりながら、こう答える。

「誰にでも魔が差すときがある。追い込んじゃいけないってことだよ」

結局、西尾は工藤のために3万円を用立てる。西尾から話を聞いた工藤は「いい先輩持ってるな」と微笑み、金を社長に返しに行った。社長に疑われたのは、実は西尾だけではなく、社員全員だったんだと言い残して――。居酒屋「ふじ」で事の次第を語る西尾に大森南朋はこう答える。


「金は天下のまわりものって言うだろ? いつかきっともっと大きくなって俺のところに帰ってくるから! 心配するな!」

これでハッピーエンド。つくづくダメな人に優しいドラマだ。脚本は山田あかね。『時効警察』『すいか』などで共同脚本を手がけるほか、先日放送された『ザ・ノンフィクション 会社と家族にサヨナラ ニートの先の幸せ』ではプロデューサー・構成・演出を務めた。金欠の人だってダメな人だってニートだって幸せになっていい。そんなメッセージがぬる燗のようにじんわり染みる。

工藤がお金をそのまま持ち逃げしてしまい、西尾が友情と信頼のはかなさと世の無情さを知る――という展開にもできたかもしれない。一昔前の刑事ドラマや青春ドラマではそういう展開がよくあった。でも、『居酒屋ふじ』の世界では、ちょっとビターすぎる。ここで描かれているのは、あくまでも“昭和っぽい”だけの一種のファンタジー世界であって、本当に昭和の頃にあったコクが深すぎてなかなか飲み込めないビターさとは無縁である。深夜に見るのだから、あまり胃もたれしないほうがいいのだろう。

本日放送の第5話は椎名桔平が登場! ホントにゲストが豪華だなぁ……。


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(大山くまお)
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