連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第18週「大丈夫、きっと」第108回 8月5日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中 正
「ひよっこ」108話。佐々木蔵之介「大丈夫です、私が覚えてます」オトコマエ!
イラスト/小西りえこ

連続朝ドラレビュー 「ひよっこ」108話はこんな話


みね子(有村架純)と実(沢村一樹)が、あかね荘で一緒に暮らしはじめた。

疑惑と忘却


みね子に連れられて、すずふり亭を訊ねた実を、鈴子(宮本信子)と省吾(佐々木蔵之介)は、多くを語らずあたたかく迎える。
とりわけ、省吾が手を差し出して「大丈夫です、私が覚えてます」と言うところには、グッと来た。


だが、すずふり亭母子が、実の前では口に出さないことがあった。
あとで、ふたりきりになると、「少し垢抜けてたね」と言う省吾。鈴子は、「辛くて苦しいことがあってもうやんなっちゃって、自分を捨てるってこともある」・・・んじゃと思っていたと言う。
でも「あの目は違った」と頷き合うふたり。

記憶喪失だったことで単純に解決させず、現実から逃げて、女優と豊かな生活を選んだ疑惑も、やっぱり捨てられないところを残しているところが、作劇のうまさだ。

108回では、この作劇のうまさが、もう2箇所、披露される。

ひとつは、あかね荘で行われた、「舎監の血が騒いじゃった」愛子(和久井映見)の仕切りによる、実の歓迎会での、大家・富(白石加代子)の台詞にまつわるところだ。

記憶を失った実を励ますために「年をとると、いろんなことをどんどん忘れてしまう」それは「悲しいことでもあるけど、それだけじゃない」それでも「毎日新しい出来事はあるから」と、そこだけ、倉本聰の「やすらぎの郷」みたいな世界になったかのように、言い、音楽が、さも名言かのように盛り上げる。
ふつうなら、このまま、視聴者は感動モードに巻き込まれるものだが(音楽って本当にこわいものですね)、登場人物たちは、「ん?」となり、早苗(シシド・カフカ)が「忘れたままでいいってことにならないか。それはそれでね・・・」と懐疑的な発言をする。
富は「私、なんて言った?」と誤魔化し、「もう忘れたんですか? 嘘でしょそれ」と早苗がツッコむ。

忘れ去られた者──みね子からしたら、記憶は戻ったほうがいい。

当事者──にしたら、あまりにいやなことがあったらそれを忘れたいと思っても仕方ないことだ。
お年寄りからしたら、たとえ記憶がなくたって新しい記憶をつくっていくこともできると前向きでいたい。
人生は、この道、1本! ではなくて、いろいろな道筋があることが、鈴子と省吾の会話と、あかね荘の人たちの、何気ない会話の中に潜んでいるように思う。

実のバッグの中には、世津子が用意したであろう、パジャマが入っていて、実はそれに感慨を抱きながらも
そっとしまう。
まだ、完全に、世津子との関係が絶たれたわけではない。つまり、世津子との思い出を実は忘れていない。
それこそ、世津子との記憶は、富が言うような、新しい記憶なのだ。
これ、深く語られないが、けっこう重い。
今はまだ、美代子(木村佳乃)が与えた、猶予期間に過ぎない。

人生はわからない


まだまだ先はわからないことを、新田(岡山天音)と坪内(浅香航大)を通して描く岡田惠和。ここも巧い。
彼らはさっそく、実を漫画のキャラに付け加えながら、
「僕らの漫画はいったいどこに向かっとるがやろうか」(新田)
「わからんけど 人生ちゅうもんはそういうもんやろ」(坪内)などと言って、「おおおお 今の良かったな」 と自画自賛。

でも、確かに、良かった。
人生、終わるまでわからない。
ドラマも、最終回までわからない。

例え、これが、作家が考え抜いた、視聴者を引っ張る釣り餌だとしても、気持ちよく引っ張られる。

「僕らのドラマはいったいどこに向かっとるがやろうか」
「わからんけど 人生ちゅうもんはそういうもんやろ」
(木俣冬)
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