
政府が旗振り役となり、働き方改革の一環として導入が進められているプレミアムフライデー。病欠すら周囲の目を気にしなければいけない会社もある日本の労働環境では即座に受け入れられるはずもなく、今のところ効果は限定的だ。
そんな中、ゴーゴーカレーでは1550円であらゆるメニューが食べ放題になる、という太っ腹なサービスを毎月の最終金曜日に一部店舗で実施している。ロースカツを10枚食べようが、カレーを10杯おかわりしようが、制限時間内なら1550円で済む。
トッピング無料券欲しさに1日で7店舗を渡り歩いたこともある元ファンとしては、こんな超お得サービスを見逃す訳にはいかない。さっそくゴーゴーカレーへと向かった。

カレーという名の揚げ物の山に挑む

椅子に座るまではいつものゴーゴーカレーと違わない。だが、机の上には「プレミアムフライデー注文票」と書かれた細長い注文票が、何十枚も束ねられていた。
店員にチケットを渡すと、メニューとボールペンを手渡され、食べ放題についての説明を受ける。制限時間は一皿目が到着してからカウントダウン、ラストオーダーは残り時間15分になったら、全ての料理を食べ終えてからおかわりが可能になる、などだ。

最初の注文はカレー1皿にトッピング5つまで可能なのだが、おかわりをしてからはカレー1杯とトッピング2品に限られる。節度を守って楽しく食べるのが、食べ放題の醍醐味だ。全てを理解した上で、注文票に希望するカレーとトッピングの量を書き込んでいく。
それにしても、気になったのは客の少なさだ。自分を含めてお客さんは4人しかいなかった。

注文票を渡してから2分も経たないうちに、注文したカレーが目の前に運ばれてきた。ロースカツ2枚とチキンカツ2枚が激しく主張する皿は、人によっては見るだけで胃もたれしてしまうかもしれない。そして、その横にコトンと音を立てて置かれたのは、ものすごくレトルト感のあるハンバーグだ。こちらにもゴーゴーカレー名物のキャベツが添えられている。

フォークを手に取り、肉と衣を金属で貫通させ、口に運ぶ。筆者とゴーゴーカレーの戦いは、こうして人知れず幕を開けた。
予想しなかったラスト
節度を持って楽しむのが醍醐味とはいえ、やはり根っからの貧乏人精神が染み付いてしまうと、コスパのことを考えてしまう。なので、できる限りの量を食べてみようと、この時までは思っていた。だが、3枚目のカツ(多分ロース)を口に運んでから、体に異変が起き始める。
胸のあたりに違和感が生まれ、3枚目を完食した頃には、目の焦点が合わなくなってしまう。なぜか気分転換のためにハンバーグを食べたが、今度は吐き気が襲い掛かってくる。

ふと横を見ると、大学生と思われる4人組のグループが、それぞれ食べ放題メニューを注文し、勢いよくカツにかじりついていた。だが、筆者がお店にいる間に食べ放題を注文していたのは、このグループだけ。というよりも、入店した客が7人くらいしか確認できなかった。
結局、50分かけて1皿だけを完食し、そそくさと店を後にした。この日平らげたのは最初に頼んだ品物だけという、非常に残念な結果になってしまった。完食時の写真も収めているが、撮影した記憶がないぐらい参っていた。
退店時に覚えているのは、大学生グループのうち、2人の食べるスピードが突然ストップし、苦しそうにしている表情。歴史は繰り返されてしまったのだ。
翌月に本気モードで再挑戦
挑戦するまでは「こんなメニューを作ってしまったらお店が損するだけなのではないか」と思っていた。だが、ゴーゴーカレーの食べ放題は、普通に注文したら恐らく2杯が限界であり、お店が損をするなんて現象とは程遠いチャレンジメニューだったのだ。

1カ月後、再びこの店に足を運んだ。注文するものも前回と同じ、食べ放題メニューだ。
今回は量を求めるのではなく、完璧に元の金額を取りに行く作戦を決行。新宿総本店で当時最も金額が高いトッピングである300円のチキン南蛮を注文し、余裕があったら別のメニューも頼むという計画である。
この日のために色々な努力をした。食べ放題のためだけに食生活を大きく変えたのは、後にも先にも人生でこの時だけだと思う。ちなみに体重は約6kg増えた。
あっけなかった再挑戦

1皿目。目の前に現れたのは、少量のカレールー、キャベツ、白米、カニクリームコロッケ、そしてチキン南蛮の山。これを完食してしまえば、チキン南蛮300円×4枚とカレー1杯380円、コロッケ100円で1680円。余裕で元は取れる。
チキン南蛮は思ったよりもチキンカツらしく、自分の味覚ではタルタルソースの付いたチキンカツとしか認識できなかった。空腹であることも忘れて無心で頬張り、一気に水で流し込むと、5分前後で鶏肉類を完食できた。この時点で目標を達成している。
チキン南蛮の下に埋もれていたのはゴーゴー元気米だけではない。

キャベツもコロッケもご飯も、全て胃袋に収まった。時間にしてわずか15分で、因縁の対決は圧勝に終わった。だが、ここで終わってしまってはもったいない。この段階では腹八分目にも到達していなかったので、余裕でおかわりを決行する。
注文したのはヘルシーサイズにロースカツとチキンカツを載せたシンプルな1品。だが、ゴーゴーカレーへ週3ペースで通っていた時には、これがデフォルトのメニューだった。慣れ親しんだ光景に安堵していると、ついついゆっくりと味わって食べてしまう。
再びの悪夢、そして…

体に変化が起き始めたのは、1/3も平らげていない時のことだった。何年か前であれば余裕だった一皿が、妙に重たく感じる。そして、言葉に代えがたい違和感が再び生じ、目を閉じた。
とはいえ、ここで中途半端に残すわけにはいかない。数十分が経過し、休憩によって少し余裕が生まれた。耳にイヤホンを刺し、Apple Musicでロッキーのテーマを探し、再びフォークを動かす。シルヴェスター・スタローンが生卵を飲み込む時を思い出しながら、白米を咀嚼せずに飲み込んでいく。
口パクとジェスチャーでラストオーダーの有無を告げられたが、両手でバツ印を作り、ラストスパートをかける。最後の一口を運び終え、2皿目もほぼ無事に完食した。帰り際、店員さんたちの「ありがとうございました」が、なぜか過去に経験したことがないほど嬉しかった。
地上へつながる階段を登り切り、勝利を余韻を感じることなく、ゆっくりと新宿駅を目指していたのだが、どうしても確認したいことがあったため、百貨店へ足を運ぶ筆者。日の入りはとうに過ぎている。
ヒイヒイ言いながら屋上に辿り着いた。
(倉田兼也)