居酒屋化するロンドンのラーメン屋に疑問 日本の味を追求する英国人シェフのこだわり
「ものほん」特製の油そば

ここ数年で瞬く間にヨーロッパのラーメン・キャピタルへと変貌を遂げたロンドン。今やロンドン中心部には日本のラーメン屋の進出も目立ち、何軒ものラーメン屋が点在するようになった。
最近では現地イギリス人シェフらによるラーメン屋も続々とオープンしている。その中でも際立っているのが、ラーメン愛好家のイギリス人イアン・ウィートリーさんが脱サラして開いた「ものほん」だ。
今回は、忙しいウィートリーさんに時間を割いてもらい、インタビューさせてもらった。
居酒屋化するロンドンのラーメン屋に疑問 日本の味を追求する英国人シェフのこだわり
厨房に立つウィートリーさん


居酒屋化するロンドンのラーメン屋に疑問


同店は、現地日本人も注目の今もっとも熱いラーメンスポットである、東ロンドンのオールドストリート地区に今年オープンしたばかり。ウィートリーさんは日本各地でラーメンを食べまわった後、ラーメン学校に通い、さらに帰国後には「一風堂」のロンドン支店で半年修行したという。
同店の一番人気は汁なしの「油そば」だ!

――今のロンドンのラーメンシーンをどう思いますか?
じつは疑問を感じています。なぜなら最近のロンドンのラーメン屋には、ラーメン専門店から居酒屋化していく傾向があるからです。ラーメン屋が刺身まで出したりするのは行き過ぎのような気もします。私の場合はただ、日本のような本場のラーメンを提供したいんです。

――「ものほん」はどのような客層ですか? 
昼は6~7割が日本人。夜はアジア人やイギリス人も多くいらっしゃいます。日本人にとっては、1杯日本円換算で1500〜2000円もするロンドンのラーメンは高く感じるかもしれませんが、「ロンドンプライスなのね」と日英間の物価の違いを考えて納得してくれます。
居酒屋化するロンドンのラーメン屋に疑問 日本の味を追求する英国人シェフのこだわり
ものほん店内の様子

――ものほんのメニューの冒頭を飾っているのが油そばで驚きました。
とんこつ味が人気のロンドンで、なぜ油そばが看板メニューに?

厳選した少ないメニューを取り扱う専門店を当初から目指していて、じつは最初は油そば一品から始めたんです。ラーメンになじみのないイギリス人にとって、汁なしの油そばなら、パスタっぽさもありますし、分かりやすいかと思いまして(笑)。 

――ウィートリーさんの油そばですが、自家製のコシある太麺、メリハリの効いた味付け、本当にたまりませんでした。メニューに名古屋めしの台湾まぜそばがあることにも驚きました!
製麺機は日本で買いました。到着までに船便で6カ月もかかりましたが……! 私の油そばには秘伝レシピがあって、厳密に言うと日本の油そば、そのものとは違うんですよ。ロンドンでは他ではやっていない、醤油とんこつも弊店の特製です。ただし、台湾まぜそばだけについては、具材などは名古屋の台湾まぜそば発祥の店「麺屋はなび」の元祖台湾そばを参考にして個人的に再現しました。

――ロンドンでは最近、イギリス人シェフらによる創作ラーメンも出現していますが、創作系メニューをやる予定はありますか? 
私は日本で人気のある、クラシックな定番メニューに専念したいです。「ものほん」という店名が意味する、正真正銘の日本のラーメンを食べていただきたいと思っています。今後も、ロンドンではまだ誰もやっていない本格的な塩ラーメン、しょうゆラーメン、みそラーメンなどの定番メニューを増やしていくつもりです。  


スープが冷めるまで待つイギリス人


――日本のラーメン文化をイギリスに取り入れることによる文化摩擦は何かありましたか?
熱いラーメンというのが、なかなかイギリス人には受け入れてもらえません。イギリス人のお客さまは、スープが冷めるまで待っています。
一方で、ぬるいラーメンを日本人のお客さまに出したら大変です。日本でラーメンはファストフードですが、イギリスではそうではなく、通常のレストランのような場所として、お客さまはラーメン屋にいらっしゃいます。そのため日本のラーメン屋のような回転率は望めません。またイギリス人のお客さまは、テーブルに空きがなくカウンターのみの場合、一緒に座れないと入店されません。「おひとりさま」のほとんどは日本人客ですね。

――日本のラーメンをイギリスで再現するにあたり、現地における日本食材の調達などで苦労したことはありましたか? 
かつおぶしの仕入れが大変です。 EU(欧州連合)の規制で日本から直輸入できないからです。今は第三国経由で加工されたもののみがイギリスに輸入可能です。 

――イギリスのEU離脱はラーメン業界にとっては好都合かもしれませんね(笑)。ウィートリーさんは最終的には独学でラーメンの味を追求されたそうですね。
正当な日本のラーメンをロンドンで再現しつつも、ルールにとらわれない自己流のラーメン作りに挑んできました。イギリスはパンク発祥の地です。
じつはロンドンのラーメン業界はパンク世代の現地経営者が多く、ラーメン作りもパンク音楽のように自由に表現するものという風潮が定着しています。

――新メニューも楽しみにしています。 
アリガトウゴザイマス! 太麺が好きなので今秋にはジャージャー麺を始めたいです。

(ケンディアナ・ジョーンズ)
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