第22週「ツイッギーを探せ!」第129回 8月30日(水)放送より。
脚本:岡田惠和 演出:渡辺哲也

129話はこんな話
日本橋の米屋で、時子(佐久間由衣)とさおり(伊藤沙莉)が鉢合わせ。三男(泉澤祐希)をめぐって激しい口論に。
東京の人がみんな洗練されてるわけじゃない
129話のみね子(有村架純)は、すこぶる良い働きをした。
みね子「時子のファンだったんですか?」
さおり「そんなわけないでしょう」
まずは、ナイスおとぼけ。
さおりは以前、時子に、ファンだと言って近寄り、女優の夢を諦めないでと励ましたことがあった。すべては、三男に、自分のほうを見てもらうためだ。
真相を知った時子が怒るのは当然のこと。
さおりは、明らかに不利な状況をごまかすために、三男のことが、好きで好きで諦められないのだと、開き直るしかない。
そこで、いったん、時子に嘘をついたことを素直に謝罪するさおり。
時子も、謝られたら、赦す。なんて清々しい。
だが、それだけでは終わらない。さおりは、反撃に出る。
「結ばれるつもりもないのにさ 楽しんでたんじゃないの? 自分のことを好きだって言ってる男が常にいてさ そういう状況を楽しんでたんじゃないの 違うの?」と時子を責める。
無性の奉仕をしてくれる男性に頼りがちな(朝ドラに限らず多くの)ヒロイン批判のようである。
さらに、さおりの、物語におけるテンプレ批判は続く。
東京の人=洗練されている、田舎の人=素朴という、テンプレを覆し、東京の人間(しかも日本橋でかなり中心地だ)であるさおりが、奥茨城村の時子に圧倒的に負けているというふうに描くが、伊藤沙莉が、どんなに負けても、決して負けてないガッツで演じきるため、しめっぽくなく楽しく見られる。むしろ痛快だ。泉ピン子的なたくましさを担う俳優になれそうだ。
いつかは姑役をやってほしいと期待してしまう伊藤沙莉が、堕ちに堕ちていく女の子を演じた主演映画『獣道』の公開が、もうあまりされてないのが残念。DVD化されたら、さおりファンの方々は、ぜひチェックしてほしい(「ひよっこ」の世界とはまったく違うディープさだけれど、一途さみたいなところは共通している気もする)。
男の立場問題
さて、このさおりが説明するコンプレックスは、みね子(有村架純)のお父ちゃん実(沢村一樹)をめぐって、田舎の美代子(木村佳乃)が、都会の世津子(菅野美穂)に感じていた気持ちと重なっている。美代子と世津子の場合、本来の都会と田舎の偏見だったわけだ。
もうひとつ重なっているのは、106話のレビューでも書いた、男が蚊帳の外(オンナの戦いの賞品のような扱い)になっていることだ。そこには、男が、都会に出て、そこでの生活に慣れていくと、選ぶオンナも変わっていくというテンプレも含まれる。
男がオンナの賞品扱いなのは、朝ドラがオンナのドラマであるため、どうしてもそうなってしまいがちだが、これを男性視聴者はどう感じるのだろうか。
脚本家・岡田惠和は、オンナの戦いをドロドロなものにはしない。
さおりが、時子を攻めるワードは、語気は強いが、内容は、褒めだ。
さらに、ノドが乾いたさおりが、ジュースをふるまって、みんなで一緒に飲む流れにする。
その結果、傷つけ合うことなく、誰もワルモノになることなく、みんな抜きかけた刀を収めるのだ。
これもまた、朝ドラで、オンナのいがみ合いを見たくないと思う視聴者への配慮ではあろうが、そういうときのバランスのとり方や、きっかけの作り方が抜群にうまい。きっと岡田惠和は、揉め事の仲裁のうまい人だと思う。
しかも、結果的に、さおりと時子は「がんばるしかない」という一点において、共鳴し合うのだ。
さおりは恋を、時子は女優の道を、がんばるしかない。
「流れ弾」「復讐」意外と物騒
こんなときにも、みね子は役立つ。
さおりに、田舎の女の子の代表のように言われて「流れ弾に当たったみだいに」と憤慨することで、険悪な空気が変わる。ぼーっと客観視していた瞳を大きく剥いて怒る表情が最高。
「さっき言われたことがまだくすぶっていたんで、復讐してみました」も良かった。
溜め込まず、はやいうちにガス抜きしちゃったほうがいい。
だが、みね子の用いたワードは、なかなか物騒である。
これは神場面!
時子は、ツイッギーコンテストに応募すると三男に言い、もう自分を待たないでほしいという主旨のことを言う。
平静を装いながら、瞳から涙が、溢れてくる三男の芝居が胸を打つ。
時子はなんで三男じゃダメなんだろう、ほんとうにもったいない。
ここで、第1話、高校に向かうバスの中で、「高校3年生」を歌うみね子、時子、三男の回想。
あの頃、みね子は、「ぼくら〜〜」のあとのフレーズをいやがった。
でも、いまは、その歌が流れる。
「ぼくら 道はそれぞれ別れても 超えて歌おう、この歌を」
みね子たちは“別れを超えた”のだ。
これもひとつの解放だろう。
この歌のシーンは、名場面の収蔵庫に勝手に保存決定です!
時子が、コンテスト用の服を試着しているとき、みね子が、カーテンで画面をシャッターして、つづく。
この演出はいいなあ。
そして、129回も、鶏の声でした。
ジュースの思い出
みんなで飲んでいたジュースのモデルは、昭和30年代からお米屋さんで売っていた清涼飲料水プラッシー。我が家(明治生まれの祖父母の家)もプラッシーやサイダーをお米屋さんで定期購入していた。
昭和世代の皆さんのおうちはどうですか。
(木俣冬)