北アメリカ大陸を市販車で横断する非公認レースをモチーフにしたこの作品は、アメリカと香港の合作映画であり、ジャッキー・チェンも出演したことでも大いに話題を呼びました。配給収入は21億円。
この『キャノンボール』を、筋書きのある物語ではなく、何が起こるか分からないガチンコ勝負で、それも日本の公道を舞台に展開したら面白いのではないか……。
そんな奇想天外な発想から誕生した特番が、1991年の正月に放送された『所さんのオールスターキャノンボール大会』です。
高田純次やヒロミ、三原じゅん子が愛車で参戦
レースの舞台となったのは、東京都・船の科学館から茨城県つくば市の霞ヶ浦国際ゴルフコースまで。正真正銘、れっきとした公道です。
集められたのは当時をときめく各界の著名人であり、自慢のマシンと共に推参しました。
■高田純次⇒日産・スカイラインGT-R NISMO
■ヒロミ⇒メルセデス・ベンツ・560SEL
■岡安由美子⇒三菱・ミラージュサイボーグ
■三原じゅん子⇒シボレー・コルベット
B級ライセンス保持者の三原、A級ライセンス保持者の岡安など、運転技術に覚えのあるタレントたちがズラリ。エキサイティングな画が撮れるのはまず間違いないといっていい、盤石の布陣です。
しかし、それ以上に心配なのは事故。それも、公道で何かしらのアクシデントが発生した場合、最悪、一般人まで巻き添えにしてしまいます。
プロデューサーはテリー伊藤だった
まさに、ハイリスク・ハイリターンな企画……。いったい、誰がこんな無鉄砲なプロジェクトを立ち上げたのかといえば、ご存じ鬼才・テリー伊藤です。
何気ない日常空間の中に、極端な非日常をブチ込んでカオスを生じさせるこの演出手法は、『元気が出るテレビ』の「早朝ヘビメタ」や、後に原案・総合演出を務める映画『あゝ!一軒家プロレス』でもやって見せた彼の十八番。
もっといえば「作品を撮るためには、起こりうる惨事に対してあえて鈍感を装うべし」という、テリー流演出理論の真骨頂が垣間見えるのであり、この男の剛腕なくしては実現しえなかった企画であるのは間違いないでしょう。
スピード違反者が続出! 事故を起こしそうになる者も…
かくして、あらゆる危険をはらみながらも、オールスターキャノンボール大会は開催されました。
案の定、ヒートアップしたドライバーの中には、制限速度をオーバーする者が続出。この事態を受け、中継地点の守谷サービスエリアで「法定速度を守って走りましょう」とスタッフが呼びかけるも、その後もスピード違反する出演者は減らず、さらには危うく事故を起こしそうになった者もいました。
大会自体は、三原じゅん子が1位となり、大盛り上がりのうちに終了。もちろん、これにてめでたしとはいきません。各局のニュース・新聞紙面で取り上げられ、責任者のテリー伊藤は茨城県警から出頭要請を受けたといいます。
この後日談含めて、無茶苦茶だったころのテレビ業界を象徴するような、なんとも、破天荒すぎる番組ではないでしょうか。
(こじへい)