鈴木砂羽さん舞台めぐる「土下座騒動」 芸事での“パワハラ”は仕方ないのか?
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女優の鈴木砂羽さんが、初めて演出を担当した舞台『結婚の条件』の稽古中に出演女優らに土下座を強要したとして騒ぎになっている。普通の会社なら間違いなくパワハラとされる行為だが、芸事は基本的に“やりたい人が手を挙げてする仕事”であり、演者は弱者ではないというのが議論を複雑化させているようだ。
舞台に近い立場の人間からは、鈴木さんを擁護する意見も上がっている。


「人道にもとる数々の行為」があったと主張


『結婚の条件』は、9月13日より東京・新宿シアターモリエールにて上演中の、鈴木さんの主演・初演出舞台。しかし、出演予定だった鳳恵弥さんと牧野美千子さんが降板することが初日直前の9月12日に発表された。鳳さんはブログにて、稽古中に鈴木さんから土下座を求められたことなどを暴露している。また、2人の所属事務所は、「鈴木氏から人道にもとる数々の行為を受けた」と降板理由を説明している。

しかし、鈴木さんは“土下座強要”を完全否定。他にも土下座強要はなかったとする証言が出て、どうも腑に落ちない展開に。“土下座はあったのか? なかったのか?”という部分が騒動の大きな争点になっている。

芸事での“パワハラ”は仕方ない?


しかし、土下座が事実としても鈴木さんを擁護するような声も上がっている。9月13日放送のフジテレビ系「直撃LIVE グッディ!」では、俳優の高橋克実さんが「稽古場では役者は床に座って台本を床に置いてダメ出しを聞いているのが普通。その姿勢で『すみません』って、それが土下座って言われても」「(パワハラは)普通です。人格否定で始まるからね。有名な俳優さんでも稽古場の隅で泣いたりしている」とコメント。また、お笑いタレントのカンニング竹山さんは、「我々の仕事は、普通の会社のセオリーとは別」「やりたい人が手を挙げてする仕事。
別に無理やりやらせてる仕事じゃない」と降板した女優側の非を指摘した。

また、俳優の坂上忍さんも14日放送の同局系「バイキング」で、「ひんしゅく買うかな」と前置きしつつも、「これでハラスメントなんて言ったら、いいもの作りにくくなっちゃいませんか?」とコメントした。業界には“追い込み系”の監督や演出家が存在するとして、「でもそういう人たちは、追い込んでも裏のところで女優さんや俳優さんのマネージャーさんとやり取りしている」と指摘。結局今回の肝はコミュニケーション不足にあるとの見方を示した。

こういった意見に対して、ネット上では、「ブラック企業が蔓延するわけだ」「パワハラを肯定している」「芸能界ではパワハラは当然なんておかしい」と批判する声も多い一方、「特殊な世界だと知って入ったはず」と同意する声も多い。


演劇関係者は降板騒動に首かしげる?


元劇団主宰者のOさんは、今回の問題に対して「ピンと来ない」と本音をもらす。

「他にいくらでも選択肢がある中から、自分がその脚本なり演出が好きで参加している芝居でパワハラと言われても、正直あまりピンと来ません。蜷川幸雄は稽古中に灰皿を投げることで有名でしたが、蜷川幸雄の指導に価値を見いだせない人から見たらそれも100%パワハラでしょう。でもみんな、そこにいることやその先に意味があるからそこにいる。意味がないならそこを出ればいいだけですから。結局は演出方法の結果としての“成果物”と、演出家と役者の“関係性”次第だと思うんです」

Oさんはまた、「演出家は作品における決定権を持っていますが、それは単なる役割であって、オーケストラの指揮者のようなもの。実際の権力があるわけではない。
演出家には“偉い”“偉そう”な人が多いだけで、演出家だから偉いわけではない」として、作品のディレクション以外の上下関係はないと説明する。

「もちろん演出家が劇団内で絶対的な権力を持っていて、演出家に気に入られないと芝居の役をもらえないため従わざるを得ない……という場合もあります。でも、集団内の権力者に逆らえないなんて原始時代からある話ですよね」

Oさんは、今回の主演・演出の鈴木砂羽さんにそこまで権力があるとは思えないとし、結局はカンパニー内での感情的な軋轢に過ぎないという見方を示した。

「鈴木砂羽と、彼女の事が気に食わない役者(と事務所)が、修復不能なほどこじれてしまった。鈴木砂羽が、今回演出家という役割であり、さらに相当気負っていたこともあって、“上からパワハラまがいのことをやった”という見え方にされてしまいました。でも、実際は降板した二人は弱者だから続けることができなかったわけではなく、嫌だから辞めただけですよね。それも最低のタイミングで。演出家と役者という役割を無視して、演出家を蔑ろにし、作品をダメにするというのは、逆に役者側からのハラスメント(嫌がらせ)なんじゃないでしょうか」

(HEW)
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