予定なんて立てるだけムダ!? 自由気ままなドイツ人の旅行スタイル

「日本人はものすごい勢いで写真を撮りながら、超短期間でヨーロッパ各地を旅行するって聞いたけど、本当?」

私が日本出身であることがわかると、かなりの確率で聞かれる質問だ。ちょっとした世間話の鉄板ネタである。
この日本人観、「カメラを首から提げて団体旅行をしている」という昔からのステレオタイプそのままの旅行者像だが、どうやら未だにドイツ人には強烈なインパクトを残しているようだ。

しかし、よく考えると不思議な話である。ものすごい勢いで写真を撮ることも、限られた時間で旅行をすることも、日本人の専売特許ではない。特にスマートフォンが普及してからは、観光地やレストランで写真を撮るドイツ人も珍しくない。それなのに、どうして日本人の旅行スタイルはこれほどまでに強い印象を与えるのだろうか。日本人の旅行は、ドイツ人のそれと何が違うのだろうか。

この疑問を探るため、ドイツ人の日本観光に参加して観察してみた。


計画? 何それ? 気の向くままに京都観光!

 
フジテレビ系列のバラエティ番組『テラスハウス』に感化された20代後半のドイツ人女性ハンナは、2週間の休暇を利用して、東京、京都、大阪、神戸を巡る予定で日本へやって来た。私はハンナと京都で落ち合ったのだが、会うなり彼女は「伏見稲荷は絶対に行きたいし、清水寺もはずせないよね。金閣寺も見たいし、嵐山の竹林も楽しみ!! 舞妓さんにも会いたい!」。日本でやりたいことがいっぱいだ。京都滞在時間の2日半で、すべて周りきれるのだろうか……。
予定なんて立てるだけムダ!? 自由気ままなドイツ人の旅行スタイル

この心配は杞憂であった。
そもそも彼女は計画通りにすべての目的地を制覇する気など、まったくなかったからだ。その日の起床時間や天気に合わせて、無理なく行ける範囲で存分に楽しむ。これが彼女のモットーなのである。結局、京都で巡った場所は清水寺とその近辺、嵐山の竹林のみだった。え、そんなのでいいの?

散策の仕方も、神社仏閣よりも、道ゆく人のファッションや道端の虫、水辺の鳥や魚に興味津々。「日本人は見た目に気を使う人が多いね! ドイツはジムで身体を鍛えることは流行っているけど、オシャレにはそこまで敏感じゃないんだよね」「こんな虫、ドイツにいない!」と名所めぐりにはそこまで固執していない。もちろん観光スポットも写真に収めるが、日本人からすれば「意外」と思えるものにも、次々とシャッターを切っていた。
予定なんて立てるだけムダ!? 自由気ままなドイツ人の旅行スタイル


己の欲望に従うべし! 計画のない日本横断


続いて付いていったのはドイツ人男子大学生4人組。マティアス、ペーター、シュテファン、アレックス、彼らはみんな20代後半である。アジア旅行の一環で、ベトナム、中国に続いて日本にも立ち寄った。

日本での滞在期間はハンナと同じく2週間だったが、その日の宿はその日に探すという奔放ぶり。気の赴くままに、行き先を決めていく。旅の内容も元気そのものだ。
北京から福岡に到着した彼らは、山登りをして温泉に浸かりたいという日本滞在の野望を叶えるべく、急きょ湯布院に向かった。持参したガイドブックも、たまにちらっと見る程度だ。

湯布院ではコンビニの袋をぶら下げて、余裕しゃくしゃくで標高1500メートルの山をヒョイヒョイ進む。彼らは「同じ道はつまらない」という理由で、別のルートを通って帰ることを決めた。ただこのルート、宿の主人が現地で教えてくれた迷いやすそうな道なき道……。付いていくこちらは、もう膝がガクガクである。

滞在中の彼らの行動で特に感心したのは、ドイツで知り合った日本人留学生から仕入れた情報だけを元に、湯布院の次に関西の片田舎にある陶芸教室まで、ろくろを回しに行ったことだ。観光地に飽きてしまい、とにかく自分の五感をフルに使いたかったらしい。彼らは、講師の陶芸家も驚くほどの集中力を発揮し、なかなかに素敵な器を作り上げていた。
予定なんて立てるだけムダ!? 自由気ままなドイツ人の旅行スタイル


日独旅行スタイルの違いは「旅程の組み立て」にあった!?

 
「旅程を立てる」「旅程に従う」という行動パターンが骨の髄まで染み込んでいる私としては、上述のドイツ人の旅行スタイルは少々ハラハラする。「あれ? あそこにも行きたかったのでは!?」と気になってしまうのだ。しかし、当の本人たちはこちらの心配なんてどこ吹く風である。
「計画通りに旅行する」という概念そのものが薄いようだ。

この旅程を重んじる姿勢の強さこそが、日本式とドイツ式の旅行スタイルの差なのではないだろうか。そして、日本式の旅行者の「計画通りに進めたい」という気持ちの表れに、ドイツ人は固定観念通りの「日本人旅行者像」を見ているのかもしれない。
(田中史一)
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