
タレントのマツコ・デラックス氏が、MCをつとめる「マツコの知らない世界」(TBS系)の2017年10月10日放送回で、インスタ映えブーム非難を展開し、インターネット上で賛否が起こっています。
スイーツバイキングを紹介するコーナーで、様々なバイキングに足繁く通っているというゲストの桜井正人氏が、「食べ残す人がいるからバイキングの価格が上昇している」と訴えたことに対して、マツコ氏が激怒。
「ウエスティンのケーキバイキングに来てまーすっていうブスの女でしょ!?」
「そろそろ世間が制裁を加えるべきだと思います。このインスタ映えブームに」
「食べ物を粗末にしたりとかね、やりだしたらもうあいつら!もうブスにブスっていう時が来ましたよ」
「かわいいインスタやったってお前はブス!地に足つけて生きろブス!この野郎!」
そして、これらの発言に対して、Twitterを中心に賛同の声が上がっているというのです。
若い女性の容姿を罵りたいだけでは?
確かに写真を撮るだけのためにスイーツを取って残すのは、やってはいけないことです。それに対して非難の声が上がるのは当然でしょう。
ですが、マツコ氏の非難は常軌を逸しています。「ブス」と何度も罵っており、非難の矛先が食べ残しをしたことではなく、その容姿にまで及んでいます。これではもはや悪行に対する苦言ではなく、ルッキズム(外見至上主義)の押し付けであり、若い女性に対するただのヘイトでしかありません。もちろん彼女たちの容姿を実際に見たわけでもないのですから、ただ「ブス」と言いたいだけでしょう。
Twitterでもいくつかのアカウントが指摘していることですが、およそ30年前に「ビックリマンシール」が流行った時に、中身のお菓子は食べずに廃棄する少年がいたことが問題になったようですが、その時彼らに対して「ブサイクが!」という批判が起こったということは記憶にありません。女性にだけ「ブス!」という罵声を浴びせるのは、性差別以外の何者でもないのです。
歩きスマホ女性を殴る高齢者と似ている
ミソジニー(女性嫌悪)をこじらせた男性の高齢者が歩きスマホをしている若い女性に殴りかかるという事件が相次いでいますが、今回のケースもこれと構造が非常に近しいのではないでしょうか?
マツコ氏の執拗に容姿に言及する様を見ていると、ミソジニーの高齢者が憎き若い女性を殴りたいという歪んだ欲求を叶えるために歩きスマホを口実にしているように、憎き若い女性を「ブス」と罵って悦に浸るために食べ残しを口実にしているようにしか思えませんでした。
マツコ氏のタレントとしての才能はここで特筆する必要もないくらいだとは思いますが、以前にもカラコンをしている女性アナウンサーに対して年齢を理由にダメ出しをし、ネットで批判が起こった件もあったように、女性の容姿に対する差別的発言が多いように感じます。言っていることは若い女性に対する強い嫌悪感がある典型的な日本の「ミソジニーおじさん」と何ら変わりません。
ネットニュースで拾われたネットの声の中には、マツコ氏のセリフを聞いてスカッとした人もいるようなのですが、そういう人もおそらくミソジニーを抱えているのでしょう。他人がインスタ映えにハマっていようとも他人の自由でしかないのに、それに対していちいち目くじら立てるほうが、地に足をつけて生きていないのではないでしょうか? 「じゃああなたの生活、何か映えているの!?」と返したくなります。
制裁が必要なのは「ブス!」と罵る人でしょう!
また、マツコ氏の非難の良くない点は、容姿への侮辱だけではありません。「そろそろ世間が制裁を加えるべきだと思います。この映えブームに」と言っているように、食べ残しした人とは関係のない、単なるインスタ映えを追い求める人たちまでに非難の矛先を向けているのです。
他人に迷惑をかけている人ならまだしも、なぜ単に趣味でインスタ映えを求めている人たちに制裁を加えなければならないのでしょうか? 明らかに攻撃対象を勝手に拡大しています。私としてはそれよりも、「ブス!」と他人の容姿を罵っている人に制裁を加えて欲しいです。
ポケモンGOが登場した際、プレイしながら車の運転をするような危険行為や、他の歩行者に迷惑になるような行為をした一部のプレイヤーがいましたが、まるで「ポケモンGOのプレイヤー=マナーの悪い人々」と印象付けるような報道が散見されました。マツコ氏もそれに賛同する人も、勝手に主語を広げているわけで、やっていることはその偏向報道と何ら変わりません。
価格上昇の犯人はインスタ女子じゃない
そもそも、ゲストの桜井氏が指摘した、廃棄が原因で価格が上昇しているという説にも個人的には大いに疑問に感じます。
確かにそれも一因としてあるのかもしれませんが、近年、原材料の価格上昇や人件費の上昇等があって、価格転嫁を余儀なくされて値上げに踏み切る飲食店は少なくありません。おそらくバイキングの価格上昇も、それらの要素を合わせた複合的な要因ではないでしょうか?
ところが、番組の構成はまるで価格上昇の犯人はインスタ女子のせいだと言わんばかりの演出をしています。悪意があるとしか思えません。日経新聞や経済誌等を読んで、原材料の上昇や人件費の上昇について知らない人はあっさりと信じてしまうことでしょう。
キラキラ女子になれば分かるインスタの楽しさ
以前にもインスタ映えを狙ってナイトプールを楽しむ女性を見下す人に対して苦言を呈する記事を書きましたが、何かしら理由を見つけては若い女性を叩きたい人たちが本当にたくさんいることに、改めて驚かされます。
でも若い女性の間でInstagramが流行するのも、むしろミソジニーな彼らのせいだと思うのです。Twitterでは匿名アカウントから罵られ、Facebookでは上司や先輩から求めてもいないアドバイスやプライベートの監視をされる。だからそういうストレッサー(ストレスの原因になる人)が入ってこないInstagramが彼女たちの聖域になるのでしょう。
私も最近ようやくInstagramの「アンチのいない心地良さ」を覚えて、ちょっとずつ利用の頻度が増えています。同僚からは、「勝部さんのインスタ、フォロワーから「素敵―!」とか言われていてキラキラ女子みたいw」と言われるのですが、最近「インスタ好きキラキラ女子」になる楽しさがちょっとだけ分かってきたかもしれません。
カワイイものはカワイイ。美しい人は美しい。ただそれを楽しみ、自分もそう思ってくれるような投稿ができたら良いな。そう思ってインスタを触っていると、プラスの感情しか沸き起こりません。インスタ女子に対して醜い非難をしている人たちにも、「見苦しい非難なんてしていないで、インスタ好きキラキラ女子になる楽しさを自ら味わってみたはいかがでしょうか?」と言いたいです。
(勝部元気)