極楽加藤氏の「くそババア」罵倒、『イジメバラエティ』は今すぐ廃止を

2018年6月21日に放送されたインターネット番組『極楽とんぼKAKERUTV』(AbemaTV)において、極楽とんぼの加藤浩次氏、カンニングの竹山氏、経済評論家で慶応大学大学院教授の岸博幸氏の3名が、女性出演者に対してハラスメントを行ったと指摘され、インターネット上で大きな問題となっています。

「“狂犬”加藤が酔ってます!本音スッキリ生暴露3時間SP」と題したこの日の放送回は、お酒を飲みながらゲストたちと“本音トーク”を繰り広げるという設定だったらしいのですが、ゲスト出演した女性のラブグッズコレクター桃子氏が、プライバシーを守るために装着している仮面に対して、彼等から「仮面取れよ」「取れないなら帰れ」と迫られたとのこと。


また、他の女性出演者にしても、加藤氏は「くそババア」「日本から去れ」などと発言し、竹山氏も「差別主義者」と罵ったとのことです。記録として残っているアーカイブ映像には、該当のシーンは削除されているようですが、本人が告発したnoteや彼女の証言をもとにしたBuzzFeedJapanの報道が事実であれば、間違いなくハラスメントだと言えるでしょう。削除して済む問題ではありません。

弱い者にしか噛みつかないのが「狂犬」ですか?


これに対して、「番組からのオファーを受けた本人の責任だ」という声もあるようですが、このような罵倒が飛び交い、プライバシーを侵害されそうな状態になるとは、一切彼女には伝えられていないようです。事前に桃子氏が危険を察知することは不可能に近いですから、自己責任論は成り立ちません。

桃子氏は「彼らがしたいことは“いじめ”だった」と解釈しているようです。確かに、もし加藤氏等は、相手が男性の評論家ならば、あのような発言を連発したでしょうか? 仮に女性でも、もし相手が白人の評論家ならばあのような発言を連発したでしょうか? 仮に日本人女性でも、男性は自分一人で、評論家が数十人いる場合だったらあのような発言を連発したでしょうか?

そのようなケースの場合、もちろんする可能性はゼロではないですが、明らかに確率は下がるはずです。権力のあるアラフィフの男性という同質性の高い集団で多数派を構成したことで、群集心理(集団心理)による「集団極性化(集団でいると個人でいるよりも極端な行動に走りやすくなる現象)」が生まれ、ミソジニー(女性嫌悪)や女性蔑視が爆発したのだと思われます。

性に主体的な女性が嫌いなおじさんはたくさんいる


また、「イジメの対象として格好の餌になりそうな、イジリ甲斐のある出演者」を番組制作側がチョイスしていた可能性も考えられます。実際は分かりませんが、もし本当にそうであれば、憤りを覚えざるを得ません。

桃子氏は、日本の女性たちがもっと主体的&ハッピーに性をたのしめるようにというミッションのもと、世界のラブグッズを紹介する活動をされている方です。これまでの「ヘテロ男性向けエロ」の文脈で性的な発言をする女性とは異なり、近年は性を主体的に楽しむことについて積極的に発信する性産業従事者ではない女性オピニオンリーダーが増えて来たと思うのですが、彼女はその口火を切った草分け的存在の一人だと私は認識しています。

その一方で、彼女のような活動をしている女性を小馬鹿にする男性(とりわけロスジェネ世代より上の男性)は、この社会にはまだたくさんいることでしょう。BuzzFeedJapanの報道でコメントをした林香里・東京大学教授は、「オヤジカルチャー」という表現をしていますが、偏見を強く有している人たちにとっては、彼女のような人物はイジメの格好のターゲットなのだと思います。


ですが、良識ある人間にとって、「イジリという名目のイジメ」は見ていて気持ちの良いものではありません。とりわけ、芸人ですらない素人相手に、大御所の芸人がイジりの矛先に向けることは、とても気分が悪くなります。地上波でもインターネットテレビでも、内輪だけしか楽しくない『イジメバラエティ』は今すぐやめて頂きたいものです。


規制のある地上波でも残るイジメバラエティー


次に、インターネットテレビの規制のあり方について考えたいと思います。BuzzFeedJapanの記事では、BPOのような自主規制機関が無いことが構造的要因という指摘がありました。確かにそれも遠因の一つであることは間違いないと思いますが、個人的にはどうもしっくり来ない部分があります。

というのも、これまで私もAbemaTVに何度か出演させていただきましたが、ある時、カメラが回っていないところで、出演されていた芸人さんが「AbemaはBPO的な規制はどうなっているのですか?」という質問をし、スタッフさんが、「地上波に準じますのでその範囲内でお願いします」という回答をしている場面に遭遇しました。

一方で、地上波のバラエティー番組でも「イジメエンターテインメント」は散見されます。たとえば、タレントのベッキー氏の腰を強打させるシーンを昨年2017年に放送した「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」に対して、大きな批判が起こりました。今回、批判の対象となっている加藤氏も度々顔面に蹴りを入れる等の行為で問題となっています。

このように、BPOの規制対象内にもかかわらず、明らかに人権を毀損している番組が、地上波でも平然と流れることがあるわけです。

メディア多様化の時代に即した自主規制を


確かにBPOのような自主規制機関の存在は大変重要ですが、地上波の現状を見てもまだまだ問題ある表現がたくさんあることから、ネットテレビの問題が自主規制機関の確立によって解決するとは思えないのです。

そもそも、テレビ、ラジオ、ケーブルテレビ、衛星放送、インターネットテレビ、動画配信サービス、Podcast、SNS、ブログ等、様々なメディアが登場し、その垣根が無くなって行く中で、チャネル毎に規制を用意すること自体に限界があるのだと思います。

今後は「大衆に対して発信する行為」そのものに対して自主的な規制を設けるべきであり、そのためにはメディア側だけではなく、芸能事務所側も業界内でルール作りをして、所属芸能人に対して人権教育やポリティカルコレクトネス教育を施すという方法が良いのではないかと思うのです。


日本のネットTVがガラパゴスオワコンにならないために


本来、インターネットテレビは「既得権益に縛られずに質を追求できる」という意味で、大変素晴らしいものだと思います。ですが、今回のケースはどうでしょうか? 完全に真逆です。業界内で権力を握っているアラフィフの男性大物芸能人を何人も並べて、女性へのイジメ・セクハラ・パワハラを連発しています。結局、「権力からの自由」ではなく「権力の自由」なのです。これではせっかくの「自由」を悪用しているに過ぎません。

そして、今回の一件で私が最も危惧しているのは、「ネットで告発した人物を起用するのは避けよう」と考える人がいるのではないかということです。ハラスメントを告発した人や、不正を内部告発した人が会社にいられなくなるという「村八分」現象は、日本の企業ではよくありがちですが、それがテレビでも適応されるのであれば、テレビ業界が今以上に既得権益と忖度の巣窟になり、ますます面白くないものになってしまうことでしょう。

さらに、ポリティカルコレクトネスを無視した人権侵害、権威主義、「エロ・グロ・ナンセンス」は、グローバル化のこの時代、世界では通用しません。Netflix等のコンテンツが世界のインターネットテレビ業界を席巻する中、日本で唯一気を吐いているとも言えるAbemaTVが、ガラパゴスJapanの「オワコン」にならないためにも、是非そのラインは守って欲しいと願うばかりです。

(勝部元気)
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