10月17日にスタートしたフジテレビ系ドラマ「明日の約束」(カンテレ)。その設定から「丸子実業いじめ自殺事件」を想起せずにはいられない。


そこで1話を見る前に、事件の真相に迫った福田ますみの著書『モンスターマザー』を読んでみた。これがまた、まぁどんよりとしてしまう話だ。自分で息子を自殺させたモンスターマザーたった1人の身勝手な言動により、事件がドンドン複雑になり、日本中に拡がってしまう。
衝撃のどんよりドラマ「明日の約束」タイトルにも恐ろしい仕掛けが…だけど観る、逃げちゃいけない気がする

“保護者と学校”という絶対的な立場の違い、さらには“1つの命が失われている”という事実が、学校側の行動力を弱め、モンスターマザー側の勢いを強める。読んでいて「これ、どうしたらいいんだよ」と自然と溜め息が出てしまう事件だ。

けっこう違うじゃん!


しかし、公式ホームページを見た感じ、「明日の約束」と『モンスターマザー』はかなり違う。モンスターマザーが原因で1人の不登校の高校生(圭吾・遠藤健慎)が自殺してしまうという根幹は一緒だが、取り巻く環境、登場人物が全然違うのだ。

『モンスターマザー』には、スクールカウンセラーの日向(井上真央)なんて存在しない。日向には本庄(工藤阿須加)という恋人の存在までいて、恋愛要素まである。さらには、モンスターマザーの吉岡真紀子は、仲間由紀恵なので超美人。文章から想像させるモンスターマザーとはイメージがまるで違う。

メインの舞台は学校なので、若い美形の女優・俳優がたくさん出演する。これなら『モンスターマザー』ほどの重い話にはならなそう。
そりゃそうだ、“ノンストップホラーノンフィクション”という世にも恐ろしいアオリ文句が付いてしまうような実話を、そのまんまプライム帯で放送するわけがない。

モンスターマザーが2人もいる


だが、第1話を観てしまうと、「明日の約束」が『モンスターマザー』より重くないとは言い切れない。

日向の母親・尚子(手塚理美)は、日向の行動をきつく縛り続け、29歳の娘の恋愛を見守ることができない過干渉な毒親。なんと、モンスターマザーが2人もいるのだ。

モンスターマザーという稀有な存在が、2人もいることでリアリティは少し薄れるが、ストーリー性は、より複雑になっていくことが想像出来る。おそらく真紀子と尚子の対比、板挟みで日向が苦しめられていく展開になるのだろう。

3人いた


日向が、圭吾の不登校問題と真紀子の学校非難に頭を悩ませている中、圭吾が所属するバスケ部のマネージャー希美香(山口まゆ)が万引きで捕まってしまう。希美香に話を聞いてみると、母の麗美(青山倫子)は離婚後、男遊びに夢中で希美香の相手をしてくれない。そこで希美香は、自分の誕生日に母親の気を引くために万引きをしてしまったとのことだ。タイプは違うが、まさかの3人目のモンスターマザーの登場だ。

希美香は、日向の「思っている事を正直に伝えろ」というアドバイスを実行するも、母の麗美は逆ギレ。男に振られたことを希美香のせいにする。さらに衝撃の事実を知った希美香は、やり場のない感情が爆発してしまい、麗美を突き飛ばして重傷を負わせてしまう。最終的に希美香は、「母親を捨てる」という選択肢を選んで前を向くが、まぁ重い、暗い、どんよりした話だ。


この希美香問題の序章感、前置き感、前フリ感がスゴイ。つまり、「希美香は毒親問題を解決したが、日向は解決出来ない」という比較対象としての話に希美香問題が見えるのだ。そんな比較対象だけで、あんなに重い話を持ってくるのだから、これから物語がどんどん、重く、暗く、どんよりした話になっていくことは間違いない。

唯一の希望、タイトルの明るささえも……


日向が幼い頃、母・尚子毎日書いていた連絡帳のようなノートがある。その内容は、「ママがいいと言ったお友達以外とは遊ばない」「ママに口答えしない」「ママをイライラさせない」など、尚子が日向を縛る為に作られたノートだ。そのノートの名前が、「明日の約束」。

唯一明るい要素と思われたこのドラマのタイトルが、実は一番暗かった。たったの1時間で全ての希望を奪われた気分。

近年は、“考えさせるテーマ”を描く際、どこかに明るい要素を織り込んで、そのギャップで物語のインパクトをつけるものが多かったように感じる。フジテレビ系「僕たちがやりました」、TBS系「あなたのことはそれほど」、TBS系「逃げるは恥だが役に立つ」など、少なくとも僕が観たドラマは。

しかし、今作「明日の約束」は、それとは全く違う。出来る限り重厚にと、真っ向から勝負してくる。
1回観ちゃうと観ずには居られないし、なんだか逃げちゃいけない気がする。どんよりするけど。

(沢野奈津夫)
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