宮藤官九郎脚本、小泉今日子主演の火曜ドラマ『監獄のお姫さま』。自分のことは「おばちゃん」と呼ぶけど他人に「おばさん」と言われるとキレる女たちが繰り広げるクライムエンターテイメントだ。
先週放送された第3話の視聴率は、日本シリーズの影響もあってか6.5%に大幅ダウン。11時30分スタートじゃ仕方ないよ。気にしない気にしない。

第3話では「自立と再生の女子刑務所」にやってきた“姫”こと江戸川しのぶ(夏帆)が起こした「爆笑ヨーグルト姫事件」の全貌と、“姫”をハメた男・板橋吾郎(伊勢谷友介)の悪どさが白日の下に晒された。
「監獄のお姫さま」3話「ケツで作ったケーキ」美味いか不味いか。人生は不可逆、ユーミンの意味は?
イラスト/まつもとりえこ

痴情のモツ煮!? わちゃわちゃするのがおばさんの醍醐味!


馬場カヨ「わちゃわちゃするのがおばさんの味? 醍醐味? です。わちゃわちゃしたぐらいで懲罰取られたら、私たち生きていけません~」

先週もおばさんたちはわちゃわちゃしていた。馬場カヨ(小泉今日子)、姐御(森下愛子)、女優(坂井真紀)、しゃぶ厨(猫背椿)、リン(江井エステファニー)らが食事どきにしていた、しのぶの噂話も以下のとおり。


姐御「夫の愛人殺してくれって依頼したの。沖縄に呼び出して」
女優「やだ~、それ、愛人役は小沢真珠で見た~い」
しゃぶ厨「うわ、ナイス」
馬場カヨ「そんなことする子には見えないけど……」
姐御「ちなみに、夫じゃなくて婚約者ね。ナントカ吾郎」
リン「山田五郎か?」
姐御「超イケメン! ニュース見た?」
女優「見てないよ~! 見たら妊娠するって姐御が言うから!」
しゃぶ厨「するする! 想像するだけで危険日!」
女優「あぁ~、ごめん! 私、一旦山田五郎を消去しないと無理かも」
リン「痴情の……モツ煮?」
女優「惜しい!」

何でも物事を効率よく、スマートに進めたい人には耐え難いおばさんたちのわちゃわちゃぶりだ。コラムニストの山田五郎氏はいいとばっちりだし、女優は誰に謝っているのか。「またケツに挟んでケーキ作るか? 姐御」「挟まない! ケツに敷く! 挟むはぜんぜん違うからね」というリンと姐御のやりとりもおかしい。キャスト陣のちょっとずつ過剰なテンションもわちゃわちゃ感に拍車をかけている。


しのぶは吾郎の恋人・ユキ(雛形あきこ)を旅行先の沖縄に呼び出し、殺人代行業の男に頼んでユキを殺害。しかし、男は逮捕され、しのぶとのメールのやり取りもすべて明るみになった。結局、しのぶは懲役12年の実刑判決を受け入れる。吾郎が自分を守るために弁護に立ってくれたからだ。しのぶは自分を待っているという吾郎の言葉を信じて刑に服していた。

しのぶ「私が犯人なんです。
裁判が終わって、すべてを受け入れたんです」

今夜も響き渡る菅野美穂の高笑い


ところは変わって2017年12月24日。囚われたままの吾郎は、馬場カヨたちの前で、苦しいときを支えてくれた恋人のユキと守るべき存在だった婚約者のしのぶ、どちらかを選ぶことができなかった優柔不断を悔いる。感動した馬場カヨは姐御のケツで作ったケーキを差し出し、吾郎は獄中のしのぶのことを思い「美味い」と泣きながら食べる。だが、それは馬場カヨたちの罠だった。

馬場カヨ「うっそだねー」
吾郎「……え?」
馬場カヨ「嘘つき。そんなもんが美味しいわけねーんだよ、バーカ!」

刑務所の中で薄味のものを食べ続けて、味覚がバカになっているからこそ、ケツで作ったケーキも美味しく感じられるというもの。シャバの味に慣れている人間が美味しいと思うはずがない。
それを「美味い」と言って食べる吾郎は嘘つきだという理屈だ。吾郎は自分の嘘に酔ってしまう男なのだろう。

刑務所の中で「そんなものが美味いわけねーだろ、バーカ!」と高笑いする勝田千夏(菅野美穂)。脚本の宮藤官九郎は自分の舞台を観に来てくれた菅野が客席で「正直ちょっと心配になるくらい笑ってらした」ので、「とにかく高笑いが似合う女を演じてもらいたくて」しょっちゅう高笑いしている千夏というキャラクターが生まれたという。梅小鉢・高田紗千子のモノマネは大げさじゃなかった。ちなみに今回、千夏は刑務所の中でハンバーガーを食べているが、実際に優遇措置という制度でハンバーガーを食べることもできるそう。


満島ひかり演じる元刑務官・若井ふたばのキャラクターも面白い。2012年には刑務所で「雑魚は雑居で雑魚寝しな!」とソリッドに叫んでいたのに、2017年には吾郎に「だって乳首立ってるから」と半笑いで指摘したり、千夏の「(吾郎と)寝た」という告白を聞いて口に手をあてて笑っていたりする。そもそも姫を助けるために今回の作戦を立案したのはふたば自身だ。5年の間に何が起こり、どう変わっていったのか? 所長の護摩はじめ(池田成志)が言っていた「欲求不満の鬼教官」というフレーズも気になるぞ。

ユーミン「卒業写真」の不可逆性


カリスマ経済アナリスト・千夏の“聞き出す力”に対しては心を閉ざしていたしのぶだが、銀行でトップセールスを誇った馬場カヨの“寄り添う力”によって徐々に心を開きはじめていく。

そしてある土曜の午後、所長がトシちゃんになり、千夏がド派手なメイクで「天城越え」を歌い上げる狂騒的なカラオケ大会の裏側で、しのぶはテレビのワイドショーによって吾郎の裏切りを知る。
「待っている」と言ってくれた吾郎が、新しい恋人を作っていたのだ。自分が騙されていたと悟ったしのぶがついに真実を語る。

しのぶ「やってない……私、殺してないし、殺してくれって頼んだ覚えもないんです!」

カラオケ大会の様子としのぶの様子がカットバックされる。喜劇と悲劇は裏表。禍福は糾える縄のごとし。まるで人生そのものだ。そういえばしのぶは沖縄で爆笑した直後も不幸のどん底に叩き落とされていた。絶望のあまり、吐き気を催すしのぶを見て、馬場カヨはしのぶの妊娠に気づく。

カラオケ大会で受刑者たちが涙を流しながら歌っていたのは、荒井(松任谷)由実の「卒業写真」。街で見かけた学生時代の大切な「あの人」は学生時代の面影そのままだったが、自分は「人ごみに流されて」変わってしまったので声をかけることができなかった――という歌詞だ。罪を犯してしまった自分は、もう元には戻れない。その不可逆性は第1話と第2話でも語られていた。

もう一つ、子どもの成長も不可逆だ。馬場カヨが刑務所にいる間に息子はすくすくと成長し、しのぶのお腹の中でも子どもが育っていく。「卒業写真」の「あの人」のように子どもは無垢なままであり、親である自分は汚れていく。吾郎の息子・勇介にかけた姐御(森下愛子)の言葉「はじめましてじゃないのよ~。前に会ったことあるの」から、勇介が姫の子である可能性も浮上している。2012年の春につわりのピークとなる妊娠2~3ヵ月なら秋には産まれているわけで、2017年12月に5歳になっている勇介とピタリと計算が合う。

次回予告ではしのぶが出産! 赤ちゃんをメイド姿(?)の姐御と女優があやすシーンもある。展開が早い! 千夏と姐御の悲しい過去も描かれる模様。姐御のヤクザの夫役は高田純次だ。第4話は今夜10時から。

なお、劇中ドラマ『この恋は幻なんかじゃないはず、だって私は生きているから、神様ありがとう』(略して「恋神」)もTVerで配信中。阿佐ヶ谷姉妹のお姉さんの婚約者・悠人を演じているのはミュージカル『刀剣乱舞』の黒羽麻璃央。脚本は『けものフレンズ』で脚本のサポートをしていた田辺茂範だ。

(大山くまお)