美奈「ママがんばってる。ママ、がんばってる!」
帝王切開で産んだせいで、自分は第一子を十分に愛せていないのではないか。悩む母親が、第二子を自然分娩で産むリスクに挑んだ。
11月3日(金)放送の『コウノドリ』(TBS系列)第4話。陣痛に耐える母親に娘が声をかけたシーン、泣かずにいられなかった。

第4話 あらすじ
聞き分けのない長女・美奈(前田織音)への接し方に悩む母・秋野蓮(安めぐみ)。美奈を帝王切開で出産したことを気にしており、妊娠中の第二子は自然分娩で産みたいと願っている。産婦人科医・四宮(星野源)らが帝王切開後の自然分娩のリスクを心配する中、鴻鳥サクラ(綾野剛)は妊婦の意思を尊重したいと主張する。
一方、同じく産婦人科医・下屋(松岡茉優)は、研修医・赤西吾郎(宮沢氷魚)の勤務態度や患者に向き合う姿勢に苛立っていた。
知らなかった。帝王切開をした経産婦が自然分娩を選ぶリスク
冒頭、妊婦の血圧を報告しなかったために、研修医・吾郎が叱られていた。
下屋「帝王切開にならなくて本当に良かった。いい? 吾郎くんの報告漏れのせいで、切らなくてもいい妊婦のお腹を切るとこだったの。
切らなくてもいい妊婦のお腹を切るということは、再び妊娠した際のリスクを背負わせるということだ。
帝王切開で出産したことがある女性は、通常、その後の出産でも帝王切開を薦められる。しかし、帝王切開経験がある女性でも経膣分娩(自然分娩)を試みることができる「TOLAC(トーラック)」という方法がある。
病院によってはTOLACを選択することが可能だが、緊急帝王切開となる確率は30~50%と言われている。子宮破裂が起こったり赤ちゃんに脳性麻痺などの障害が残る可能性があったりと、危険がともなう方法だ。
吾郎は「どう考えても、次の出産も帝王切開のほうが安全じゃないですか」と、蓮の気持ちを理解できないでいた。
確かに、蓮の「陣痛を味わって産道をとおして産むと、こどもへの愛情、違うんですよね?」という意見は、思い込みや迷信に振り回されているように聞こえる。経産婦でない筆者も、なぜ安全な方法を取らないのだろうと疑問に感じた。
しかし、連の家族の言動を追うと、蓮がTOLACにこだわるに至った経緯が見えてくる。
家庭で無視される母親の孤独と赦し
蓮の夫・壮太(前野朋哉)は、仕事が忙しくて子育てにもあまり参加できず、妊娠中の蓮の不安についても関心が持てない。
壮太「リスクって何?」
蓮「子宮破裂」
壮太「えー?」「ちょっとよくわかんないなあ。まあ、俺は何でも良いよ。蓮の好きな(出産)方法でいいんじゃないかなあ」
壮太「ねえ、美奈って、毎朝幼稚園に行く前あんなにぐずるの?」
蓮「毎朝じゃないけど……。
壮太「そうなんだ。でもさあ、あんまりイライラしないで、もっと余裕持って接してあげたら?」
この短い2シーンだけで、壮太が普段から妻の様子をまったく気にかけていないとわかる。
挙句の果てに、陣痛に苦しむ蓮を病院に置いて、仲間と屋形船へ酒を飲みに行こうとする。助産師長・小松(吉田羊)が「屋形船えぇ!?」と止めたから良かった。本当に飲みに向かっていたら、蓮の退院後、発言小町や『だんなデス・ノート』に書き込まれてしまいかねない行動だ。
本当に酷いが、第一子が帝王切開で生まれたから自然分娩の勝手がわからなかったのだろう。「帝王切開は楽」という壮太の思い込みも、蓮を追い詰めたのかもしれない。蓮が勝手に暴走したわけではない。
話を聞かない夫、言うことをきかない娘
壮太と美奈に意見を聞いてもらえないことで、家庭内でじわじわと蓮の自己肯定感が削れていったのだと思う。悩みに対する壮太の「好きにすれば」という言葉は突き放しだし「余裕持て」は「あなたの様子に興味がない」というメッセージになってしまっている。実質無視だ。
自己肯定感が痩せ細った状況で「自然分娩をすればこどもを愛せる」という藁が見えたら、リスクがあっても掴みすがってしまう気持ちはわかる。良いお母さんになって自分にOKを出したい、と願う母親はきっと少なくない。
結局、蓮は自然分娩を途中で断念し、緊急帝王切開で第二子を産むことになる。
苦しむ蓮を最初に肯定したのは、娘の美奈だった。愛せていないと思い込んでいた娘からの「ママ、がんばってる」という肯定。蓮にとっては赦しだ。
美奈と壮太に「がんばった」と言われ、ほっとして泣き崩れた蓮の顔から一瞬で険しさがなくなった。緊張がゆるみ、安めぐみの頬がふわっと柔らかくなる瞬間にまた泣いてしまった。
サクラ「どう産んだかよりも、どう思って産もうとしたか。その思いはきっと、赤ちゃんに伝わっています。美奈ちゃんにとっても、そして赤ちゃんにとっても、秋野さんは世界一のお母さんなんです。おめでとうございます」
シリアス展開の合間、男性陣にキュン

蓮の帝王切開で前立ち(執刀医の向かい側に立つ第一助手)を経験し、産婦人科医として働く意義を体感した吾郎。
演じている宮沢氷魚の身長は184cmだが、168cmの星野源に「ジュニアくん」と呼ばれて叱られ、160cmの松岡茉優にビンタされる。星野や松岡が上目づかいで宮沢をにらむ。
怒られてもひょうひょうとしているタイプかと思いきや、その都度しょぼんとした顔を見せるのがチャーミングである。その場で一番大きな男が、眉毛をハの字にして口を尖らせているのが可愛らしい。
また、今回TOLACに反対する四宮に、サクラが「四宮、僕だってTOLACは怖いよ」と返事をしていた。四宮が反対していた理由は、合理的判断によるもののみだと思っていた。でもこのセリフのおかげで、サクラが四宮の恐怖心を汲み取っているようにも解釈できる。
舞台挨拶の際、シーズン2では四宮とサクラが寄り添っていく展開予定が語られていた。長い付き合いの2人が互いを理解している様子を垣間見ることができると、ちょっと嬉しい。
今夜11月10日(金)よる10時から放送予定の第5話は、切迫流産の可能性がある妊婦2人と、帝王切開に納得ができない夫婦のお話だ。
第4話は、TBSオンデマンドやAmazonビデオ、TVerで配信中です。見逃してしまった方はぜひ。
(むらたえりか)
金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
11月18日発売 TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)