「更生するぞー!」
「(声を揃えて)更生!」

宮藤官九郎脚本、小泉今日子主演の火曜ドラマ『監獄のお姫さま』。先週放送の第6話の視聴率は7.9%だったけど、面白いんだから気にしない。
きっとみんなTVerの見逃し配信で観ているんだろう。

第5話は、姫(夏帆)の息子、勇介が刑務所から板橋吾郎(伊勢谷友介)に連れ去られてしまうという衝撃のラストだったが、第6話では勇介ロスから立ち直った馬場カヨ(小泉)たちが反撃に転じるまでが描かれた。彼女たちの合言葉「更生するぞー!」が誕生する瞬間も明らかに!
「監獄のお姫さま」6話。刑務所は「帰ってくる場所」じゃない。居場所を失った女たちの反撃が始まる
イラスト/まつもとりえこ

“タモロス”と“勇介ロス”


勇介を奪われたしのぶからは笑顔が消え失せ、カヨ、財テク(菅野美穂)、姐御(森下愛子)、女優(坂井真紀)、そして先生(満島ひかり)まで一様に“勇介ロス”に苛まれていた。

ここで時系列を整理すると、勇介が産まれたのが2012年7月で、吾郎に連れ去られたのが13年のクリスマスイブの後。カヨと先生が“勇介ロス”について語り合っていたのは14年の春である。『笑っていいとも!』が14年の3月末に終了したばかりで、ちょうど世間では“タモロス”が流行語になっていた頃だ。こういった当時の風俗や流行を取り入れるのがクドカンは絶妙に上手い。


「私もロスでさぁ。妊活始めちゃったよ」と急に言い始めてカヨを焦らせる先生。

「これからはときどき女を出していくから。でないと、心が角刈りになっちゃうよ」

これはクドカンお気に入りのセリフらしい(『週刊文春』11月30日号より)。これまで受刑者たちに厳しかった先生の微妙な変化を表している。性格の振り幅が大きそうな先生の今後にも要注目だ。


「ここは帰ってくる場所じゃないの! 出ていく場所!」


勇介を奪った吾郎は晴海(乙葉)と入籍、勇介を晴海との子として、姫の存在を抹殺してしまっていた。それはカヨたちと勇介の「かけがえのない時間」をなかったことにする行為でもある。高い塀の中にいる自分たちの無力さを嘆くカヨ。そこへ出所したはずの小しゃぶ(猫背椿)が再び罪を犯して刑務所に戻ってきた。

「私、再犯するやつ、勝手に携帯見る男よりムカつくんです!」。面談で先生が小しゃぶをビンタして叫ぶ。

「ここは帰ってくる場所じゃないの! 出ていく場所! “ただいま“も聞きたくないし、“おかえり“も言いたくないの! わかる?」

満島ひかりの怒声が腹の底から響きわたる。
本物の刑務官に叱咤されているような気分になる。すさまじいの一言だ。

先生の「ここは帰ってくる場所じゃない」という言葉が重い。離婚届にサインしてカヨは戻る家を失った。姐御は戻る組を失い(高田純次の非道っぷりがすごい)、財テク姉さんのメルマガもとうの昔に更新停止していた。女優が心の支えにしているドラマ『恋神』も打ち切りが決定した。


話を聞いてくれる相手も、戻る場所も、心の拠りどころも失った彼女たちにとって、女たちで連帯して楽しい時間をおくることができる刑務所は安心できる“居場所”のよう。離婚して旧姓の「榎木」に戻ったカヨを「猪木なのー?」と笑ってくれる仲間は刑務所にしかいない。だけど、ここは帰ってくる場所じゃない。安住することは許されない。

刑務所映画の傑作中の傑作『ショーシャンクの空に』には、50年も服役している老囚人ブルックスが登場する(以下ネタバレあります)。仮釈放されたブルックスは、彼なりに精一杯努力するも社会に馴染むことができず、孤独のまま自分の部屋で首を吊る。
もう一人、モーガン・フリーマン演じる調達屋・レッドも仮釈放の後、ブルックスと同じような危機に陥るが、彼を救ったのは獄中で出会った親友・アンディと交わした約束だった。

たとえ居場所を失っても、形のない仲間とのつながりが人を生かすことがある。だが、刑務所で育まれる友情ははかない。出所すれば連絡を取り合うことは容易ではないからだ。だから、目的と約束が必要になる。カヨたちにとって、それは吾郎への復讐だった。


「板橋吾郎さんに復讐します。お仕置きします。月に代わってお仕置きします」

カヨの宣言を聞いて、失うものも待っている者もない女たちが手を重ね合う。「復讐するぞー!」と言いかけるカヨを制して、財テクが「更生」と言い直すよう提案する。彼女たちがいつも言っている「更生するぞー!」は「復讐するぞー!」という意味だったのだ。こっわ!

「三股! 三又又三!」「さかりのついた、メスババアーッ!」


第6話もキレキレのフレーズが続出した。

「ぼくと性欲、どっちが強い?」(勇介)
「あ、熱愛」(先生)
「そんな人に見えない人は、だいたいそんな人なんです!」(刑事・池畑)
「三股! 三又又三!」(女優)
「ため息は天使のオナラだよ」(リン)
「姫が戻ってきたらメスゴリラの真似して」(姐御)
「勇介がグッチ? グッチ勇介!」(カヨ)
「さかりのついた、メスババアーッ!」(先生)

これだけ読むと、いったい何のドラマかまったくわからない。こんなおかしなセリフの間に、急にドキッとする言葉が挿入されるところがクドカンドラマらしい。

小しゃぶは出所後、勤務先で一回り年下のさわやかなメンズ(伊勢谷友介)からプロポーズされる。彼女の過去を知らないメンズは、手を握ってこう言う。

「僕は過去など気にしない。たとえゆりりん(小しゃぶのこと)が、元ヤンでも、ギャルでも、企画もののAV女優でも単体もののAV女優でも、たとえ怪しげな壺や水を売っていても、あとは……劇団員でも!」

ギャグのように聞こえるが(特に最後の「劇団員」が大人計画所属の猫背やクドカンのことを言っているよう)、この言葉はカジュアルな差別意識が満載で聞いていて辛い。小しゃぶは安心して我が身を彼に委ねることはできず、再び薬物に手を染める。

「誰にも言えない。でも、忘れちゃいけない」という小しゃぶの言葉は、罪を犯したことのある者の辛い心境をものすごくタイトに言い表している。いつどんなセリフが飛び出すかわからないから、このドラマはながら見に適していない。

前川清登場! ドラマの本人役と演歌は相性がいい?


「女も果物も、腐りかけが一番美味いもんね」(前川清)

カヨたちの刑務所へ「母の日慰問コンサート」に前川清(本人)がやってきた。勇介を奪われたばかりのしのぶにとってはもちろん、母でいることを許されない女囚たちにとって、母の日は胸を押しつぶされるような思いでいるはずだ。そんな日に大物歌手を慰問に呼ぶのは、護摩はじめ所長(池田成志)の粋なはからいといったところだろうか。

前川清が歌う「花の時・愛の時」は彼がクールファイブを脱退した直後の87年に発表したシングル曲。出ていった女のことを想い続ける男のことを歌ったバラードだ。これを聴いたら、受刑者たちはシャバで自分を想い続けてくれる男のことを(実在するかしないかは置いておいて)想って涙するはず。古内東子が昨年発表したデュエットカバーアルバムでは、奥田民生や平井堅、槇原敬之らの曲が並ぶ中、この曲がチョイスされていた。

もう一曲、カヨとデュエットするのは島倉千代子のミリオンヒット曲「愛のさざなみ」。ドラマの中では1番しか歌っていないが、3番の歌い出しはこうだ。

「どんなに遠くに 離れていたって あなたのふるさとは 私ひとりなの」

遠く離れてしまった勇介を想う姫の気持ちにぴったり寄り添う歌詞じゃないだろうか。だから誰よりも先にスタンディングオベーションしたのだろう。カヨにとっての「あなた」とは一人息子・公太郎(神尾楓珠)のことだろう。

前川のようにドラマに有名人が本人役で出演する例は数多いが、個人的にとても印象に残っているのは朝ドラの傑作『ちりとてちん』に登場した五木ひろしだ。クドカン脚本の朝ドラ『あまちゃん』にも橋幸夫が本人役で出演して「いつでも夢を」を歌っていた。本人役と演歌歌手は相性がいいのかもしれない。

慰問公演の最後を飾るのは、幼稚園児たちによる童謡「おかあさん」の大合唱。護摩所長、完全に女囚たちを泣かせに来ている。思惑通り、滂沱の涙を流すカヨたち。女性と家事をダイレクトに紐づける歌詞を聞いて、刑務官の沙也加(大幡しえり)が「女性蔑視じゃないんですか?」と言うが、先生が「うっせーな、つまんないこと言わないの」と言い放つ。この言葉は、正しいか、正しくないかではなく、先生の心情が勇介を想うカヨたちの母性に寄り添っていることを示している。

さて、今夜放送の第7話。いろいろ気になることが多くてわちゃわちゃするのだが、一番わちゃわちゃしたのは、死んだ目をした検事・長谷川(塚本高史)のカヨへの突然の愛の告白! 何あれ? 2.5次元ファンだったらしい女優の過去も気になるぞ。今夜10時から。TVerもいいけど、オンエアで見よう。
(大山くまお)