フジテレビ系「刑事ゆがみ」(毎週木曜22時~)7話。導入部分で羽生(神木隆之介)は、風俗店で盛られた写真に騙される。
そんな羽生のSNSのプロフィールは、巡査部長と階級が盛られていた。それを指摘した弓神(浅野忠信)が読んでいた本は「偽りの代償」。これから偽りに関しての話を展開するぞ!っていう気概が感じられる。いつもながらわかりやすくて見やすい。
「刑事ゆがみ」ぐっちゃぐちゃの稲森いずみを、脇に回って助ける浅野、神木もカッコよくて7話
イラスト/Morimori no moRi

オトナ高校のあれ、オトナ高校側は知らなかったらしいよ


導入でいうと、弓神「オトナ高校に入学してこいよ」羽生「チェリートじゃねぇし!」というやりとりが話題になっている。“オトナ高校”とは現在放送中テレビ朝日系土曜ナイトドラマ「オトナ高校」に登場する性体験のない30歳以上の男女が入学する高校のこと。“チェリート”とは、エリートでありながらチェリーである男性のこと。

木俣冬さんの「オトナ高校」5話レビューによると、「オトナ高校」の宣伝スタッフですらこのやりとりが行われることは知らなかったらしい。二人のアドリブなのか、現場のノリでやったことなのかはわからないが、どちらのドラマも観ているファンには大変うれしいやりとりだ。こうなると「オトナ高校」最終回あたりに、友情出演する羽生をどうしても期待してしまう。

事件の概要


普段より髪型を盛った菅能(稲森いずみ)が大学の同窓会に行くと、一流デザイン会社の管理職を務める近江絵里子(りょう)と再会する。2人は飲みに行き、もう一度会う約束をする。別れ際に菅能は、「その色濃すぎ。絵里子のすっぴん姿好きなんだよね」と化粧という偽りについて触れている。


翌日、絵里子は自宅で亡くなっているところが発見される。死亡推定時刻は、菅能と会っていた時間の直後。状況からみて、青酸カリによる服毒自殺とみられた。失意のまま捜査を行う菅能ちゃんだったが、絵里子の華やかな私生活は全て偽りで、インスタ上の婚約者や部下たちは“リア充代行サービス”のアルバイトたちだった。

かわいそうな菅能ちゃん


前話で羽生に「事件関係者に恋心と同情を持ってはいけない」とビシっと決めていた菅能ちゃんだったが、「絵里子は自殺なんかしない!」と今回は思いっきり私情をはさみまくる。しかし、調べるほど出てくる絵里子の偽りの数々、容疑者・三枝優里(早見あかり)から聞かされる絵里子の愚痴、私情を挟んでいることで離れて行く部下の羽生と多々木(仁科貴)と町尾(橋本淳)、菅能ちゃんの心情は開始15分でぐっちゃぐちゃに。

その後、死亡解剖の結果と青酸カリの入手ルートが確定したことで、菅能ちゃんは大きな決断をする。

「状況証拠から判断して、近江絵里子の死因は自殺と断定。捜査をただちに打ち切る。みんなを付き合わせて、申し訳なかった。本当に悪かった」

犯人発覚やラストなど、今回の「刑事ゆがみ」もすごく良いシーンがたくさんあったのだが、僕はここが1番好きだ。状況証拠という現実を目の前に叩きつけられ、絵里子の友人としての自分ではなく、警部補としての自分を優先し、プライドの高い菅能ちゃんが頭を下げたのだ。

部下への申し訳ないという気持ち、絵里子を信じ切ることが出来ない悔しさ、それでもまだ信じたいという思い、様々な感情が入り交じりまくる。
部屋を出た菅能ちゃんは、屋上で煙草を咥え、絵里子を思い出す。そして捜査会議で使用したホワイトボードの文字を消すことで、事件を忘れようとする。

これを稲森いずみがたっぷり間を使い、稲森いずみのためにカメラが回るのだからめちゃくちゃ良い。めちゃくちゃ良いに決まっている。だが、ちょっとしか映っていない弓神と、引きの画でしか映っていない羽生と多々木と町尾がまたすごくいい。

「か、菅能さん・・・」がない


ショックを受けた菅能ちゃんを見て、同期の弓神が本気になるというのはよくありそうなパターンだ。実際に弓神は、この後も打ち切りになったはずの捜査を続けている。だが、何の感情描写も無かった羽生と多々木と町尾も、考えを改めてそれぞれ本気で捜査を始めたのは新鮮だ。

それぞれの活躍により、事件は一気に最終局面へ。美味しいところは弓神に持って行かれたが、7話にして初めて多々木と町尾が犯人を問い詰める場面に参加、それぞれが身体を張って調べた証拠の数々をまるで主人公のように犯人に叩きつける。少年漫画的でほんと最高。

いったん引きの画でしか映らない脇役として描いておきながら、一気にメインへと上り詰めさせるこの演出。謝罪した菅能ちゃんが部屋を出て行く時に、安易に「か、菅能さん・・・」などのセリフを言わせ、菅能ちゃんの感情を思い測る描写がなかったのが、この落差を生んだと思う。


好きなのにムカつくってよっぽど


それにしても容疑者に上がっていた優里が腹立つ。多少は辛いバックボーンを抱えているのだが、そんなことはどうでもよくなるほどにムカつく。軽薄で大したことを考えていないクセに、まるで悟ったような物言いで死んだ絵里子を語る姿は、「どっかで見たことあるような若者」を、ちょうどよく過剰にしていた。

演じていた早見あかりをもともと好きな僕が、途中から早見あかりであることを忘れるくらいムカついたのだから、完全にクズだったんだと思う。

シリーズ化を切に願っているが、「刑事ゆがみ」は7話で再び視聴率を下げてしまった。最終話までの残り3話、大切に見届けたい。

(沢野奈津夫)
編集部おすすめ