90年代を代表する映画を1本選ぶとしたら何だろうか?

1年4か月続いたこの『キネマ懺悔』もスマダンへの連載移行に従い今回が最終回だ。当初は前作で必死に助けた登場人物が全員死亡から始まる最も悲惨な続編として『エイリアン3』を紹介しようと思ったが、最後くらい誰もが納得する王道の1本を取り上げたい。


となると、もうあれしかないだろう。『もののけ姫』や『踊る大捜査線 THE MOVIE』でも敵わない、90年代最高の配給収入160億円という前人未到の大記録を叩き出した1本。『タイタニック』である。

どちらを選ぶ? 『タイタニック』と『北京原人』


日本公開日は1997年12月20日。この日、邦画界でも歴史的1本が公開されている。あのカルトムービー『北京原人 Who are you?』だ。

『タイタニック』と『北京原人』が公開された冬、俺はしがない浪人生をやっていた。というか芸大の映像学科の入試を目前にする受験生だった。さすがに試験直前に『北京原人』を観るなんて自殺行為はできない。いや金券ショップで投げ売りされていた100円のチケットで観たんだっけかな……。
記憶がいまいち曖昧だが、『タイタニック』と『北京原人』のどちらを選ぶかというのは、その後の人生に影響する重大な選択な気がする。

上映時間194分『タイタニック』の思い出


上映時間194分の『タイタニック』と言えば、あの2本組みのレンタルビデオを思い出す人も多いのではないだろうか? 
凄い時代だ。映画を見るためにTSUTAYAで弁当箱のようなデカさのレンタルビデオを借りて帰るわけだから。

ちなみに「5本借りたら1000円」キャンペーンとかでエロビデオを借りると、リュックの中をほとんどエロビデオが占めることになり、職質された時にマジで恥ずかしい思いをするハメになる。
あの頃、みんな若かった。
2000年代初頭、『タイタニック』のテレビ放映時にはあまりの長さに2日間に分けて放送されていた。今と比較したら、随分とのんびりとした時代である。

シンプルだったストーリー


いやいやエロビデオメモリーズは分かったから早く内容レビューしろよと突っ込まれそうだが、ストーリーはいたってシンプルだ。

1912年に実際に起きた英国客船タイタニック号沈没事故をベースに、貧しいが自由に生きる青年ジャック・ドーソン(レオナルド・ディカプリオ)と上流階級の美女ローズ(ケイト・ウィンスレット)の悲運の恋愛を描いた本作。
監督は『ターミネーター』で知られるジェームズ・キャメロン、主題歌は誰もが一度は耳にしたことがあるであろうセリーヌ・ディオンが歌う『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』。

全世界で記録的な大ヒット映画となり、98年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、撮影賞など全11部門を受賞。日本でもディカプリオはアイドル俳優として人気となり、公開後1年近くタイタニックがニュースになっていた記憶がある。
97年年末の大ヒットムービーとして、そして1年後の98年年末にはカップルで観るクリスマス映画として大量にレンタルビデオ屋に陳列されていた。

個人的に98年夏と言えば、この映画を思い出す。生まれて初めての海外ひとり旅でタイのバンコクへ向かう飛行機の中で観たのが『タイタニック』だった。
日本語字幕も吹き替え版もない英語版を観て、2歳児レベルの英会話しかできない自分でも素直に面白いと思えた。

要はそれだけ分かりやすい誰にでも楽しめる映画だったのだろう。
機内にあった日本の新聞では和歌山毒物カレー事件が報じられていたのをよく覚えている。

暗い事件が多発していた90年代後半


思えば、90年代後半の日本では暗い事件が多発していた。山一證券の経営破たん、猟奇的な少年犯罪、東電OL殺人事件……。
そんな混沌とした世紀末に、ド直球の王道エンターテインメント大作を人々は求めていたのかもしれない。

ケイト・ウィンスレットのハマり役ローズは非日常からやってきたひとりの男によって迷える人生の背中を押されるが、それはまるでキャメロンの代表作『ターミネーター』において、リンダ・ハミルトンが演じたサラ・コナーの人生が未来から来た男カイル・リースの出現によって一変する様と似ている。男たちを踏み台として彼女たちは人生の新たな扉を開けるのである。

まるで20世紀から21世紀へと進もうとしていた我々観客と同じように。

この連載コラムを書く際に多くの90年代映画を久々に観た。自分はあの時代に何を思いどうやって生きていたのか? 当時の映画を通じてそれを思い出す2017年12月。そう言えば『タイタニック』と『北京原人』が同日公開されたのは1997年12月だ。

あれから、20年が経ったのである。あの頃、あなたはどこで誰と『タイタニック』を観ていたのだろうか?


『タイタニック』
公開日:1997年12月20日
監督:ジェームズ・キャメロン 出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット
キネマ懺悔ポイント:91点(100点満点)

本連載で取り上げた48本の映画で100点満点を叩き出したのはわずか2本。
北野武監督の『ソナチネ』と、もう1本は『ターミネーター2』。まさに90年代のジェームズ・キャメロンは無敵だった。1年半、ご愛読ありがとうございました。それではまた『スマダン』新連載をお楽しみに、さよなら、さよなら、さよなら……


※文中の画像はamazonよりタイタニック 2枚組 [DVD]
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