帯ドラマ劇場『トットちゃん!』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第9週。

いよいよテレビデビューした黒柳徹子(清野菜名)の、後々にもつながる結婚観、仕事観が形成された週だった。

「トットちゃん!」第9週。森繁役のマッチやっぱりヤバかった…怪演過ぎてストーリーが頭に入ってこない
イラスト/北村ヂン

結婚をドタキャンする血筋


そもそも、トットちゃんがNHKの入社試験を受けたのは「子どもに絵本を上手に読んであげられるお母さんになりたい」と思ったのがきっかけ。

テレビの仕事に魅力は感じつつも、「結婚したら辞めるんだろうなー」くらいの感覚だったのだ。

そんな感じなので、「嫁にも行っていないのに人妻の役をやるなんて変だろ!」「噂が立つなんてあってはならない!」という父親の意向に従って(バイオリニストのくせに、相変わらず芸能に理解がない!)、三度もお見合いをし、そのうちひとりと結婚して仕事も辞めることを決めてしまう。

決め手となったのは、相手の頭がハゲていたこと。トモエ学園の小林先生(竹中直人)の頭がツルツルだったので「頭がツルツルな人に悪い人はいないって信じている」からだそうだ。

うーん、バカ! ……恋愛というのがまだまだ分かっていない、ピュアネスなトットちゃんなんでしょうな。

結局、仕事仲間たちから反対され、特にNHKの入社試験をトットちゃんと一緒に受けていたものの、落ちてしまったシャープさん(趣里)から「選ばれなかった者の思いも背負っていって欲しい」と言われて考えを変えたようで、ウェディングドレスの用意までしていたのにやっぱり結婚を断ることに。


七重の膝を八重に折ってまで嫁に来て欲しいと言っていた相手方の立場よ……。

母・朝さん(松下奈緒)も許嫁との結婚をぶっちぎって駆け落ちしていたけど、こういうところも血筋なんだろうか!?

「誰とも結婚はしない」って、極端すぎるよ!


それでも、「生まれたからには一度は結婚したいわ」と言っていたトットちゃん……というか徹子が、なぜ未だに結婚していないのか?

決定的だったのは、沢村貞子(浅野ゆう子)とその夫の夫婦関係を見たからだったようだ。

長門裕之、津川雅彦の叔母で、NHKの朝ドラ『おていちゃん』で半生がドラマ化もされている女優・沢村貞子。どっちかというとエッセイストとしてのイメージの方が強いが、当時は女優として活躍しまくっていた頃だ。

絶対に時間には遅れないし、セリフも完璧に覚えているし、NGも出さない、完璧なプロの女優として尊敬していた沢村が、それでも「家のこと7割、仕事3割」と、家庭生活の方を重視していることを知ってビビったトットちゃん。

『わたしの台所』『わたしの献立日記』などの料理エッセイでも知られる沢村だけに、女優業だけでなく、家事の方も完璧にこなしていたのだ。

しかし沢村から、

「女優はやめるかもしれないけど、妻であることはやめないと決めているから」

というステキな言葉を聞いて、感銘を受けていたのに、それがどうして、

「私、沢村の母さんみたいにはできないもの」
「誰とも結婚はしないって決めたの!」

になってしまうのか……。
トットちゃん、色々と極端すぎるよ!

まあ、完璧な夫婦に見える沢村貞子とその夫・大橋恭彦も、当時はまだ大橋と前妻との間に離婚が成立しておらず、事実婚……というか不倫状態。沢村貞子もそれ以前に2回も離婚してたりと色々あるんだけど。

結婚って難しいですね!

マッチの怪演が本当にヤバかった


家庭も仕事も完璧にこなしていた沢村貞子に対して、「セリフを覚えてこないでカンペを見る」ベテラン役者も沢山いたようだ。

そんな、カンペを見るタイプの役者のひとりとして登場していたのが森繁久彌(近藤真彦)。

リアル・森繁久彌もセリフをまったく覚えてこないので、あの手この手でカンペを用意していたという逸話が沢山あるのだが、それでも役の心はちゃんとつかんでいて、セリフを覚えていないくせに、観客を感動させる演技ができると評されていたようだ。

一方、マッチ演じる森繁久彌は、……ただの変なおじさんだったなー。

一応、口調をマネしようという意志は感じられるものの、クセが強すぎて、森繁久彌というよりはヘタな田中角栄のモノマネ。
もしくは、ただのとち狂ったマッチにしか見えないのだ。

カンペをガン見しながらもメチャクチャ感動的な演技をしている……はずなのに、その超絶演技っぷりがまったく伝わらない! ただ単に演技がヘタな人だよ。

当時の森繁久彌がホントにこんな感じだったのか、演出上の都合なのか、はたまたマッチの演技力がガチでヤバいのか……?

トットちゃんは向田邦子(山田真歩)から「あの色気が分からないの?」と言われていたが、向田先生スミマセン、ボクにもまったく分からないです!

このさい、ドラマ中のマッチも登場してもらいたい


そもそもマッチに森繁久彌役をやらせること自体、どう考えてもムチャぶりなのだが、どうしてこんなことになってしまったのか!?

……たぶん、リアル・徹子のリクエストだったんだろうなぁ。

福山雅治に主題歌「トモエ学園」を作らせたのも、野際陽子役を野際の実の娘・真瀬樹里にやらせたのも、徹子たっての希望だったという。

昔から徹子のお気に入りだったマッチだけに、森繁久彌役をキャスティングされるに当たっても徹子の意向が大きく働いたんじゃないかと。もしくはスタッフの忖度かな。


野際陽子役の真瀬樹里に関しては、清野菜名と同年代というには若干ムリがあるものの(真瀬樹里42歳、清野菜名23歳だもん……)、若き日の野際陽子というイメージには、さすがにハマッていた。

渥美清役の山崎樹範も、向田邦子役の山田真歩も、かなりそれっぽい雰囲気を出しているというのに、マッチは……。

この際、ドラマも「ザ・ベストテン」時代までキッチリ描いてもらって、清野菜名演じる徹子に対して「黒柳サーン! マッチでーっす!」とマッチ役の誰かが登場するところまで再現してもらいたい! 特殊メイクでマッチ自身が演じるのでもいいよ。
(イラストと文/北村ヂン)

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