03年の大晦日に行われた曙vsボブ・サップのスーパーファイト(記事はこちら)をご記憶の方は多いではないか?
TBS系で放送された中継は、最高視聴率43%を記録。民放としては史上初めてNHKの紅白歌合戦を瞬間最高視聴率で上回るという快挙を成し遂げた世紀の一戦だ。


多方面に影響を与えたこの試合は、ある外国人タレントの運命も大きく変えている。そう、インチキ日本語で軽妙にボケまくるボビー・オロゴンだ。

柔道金メダリストも舌を巻くボビーのパワー


この試合に触発されたボビーは、自身がブレイクしたTBS系『さんまのSUPERからくりTV』で柔道を体験する企画に挑戦する。

バルセロナオリンピック柔道金メダリストの古賀稔彦に稽古を付けてもらう流れが、ボビーの指名により、古賀との試合形式の乱取りに突入。これが、ボケを連発していた稽古とはうって変わっての本気モード。
気合の力押しで前進を続けるボビーに、古賀が「力強い」「結構強い」とたじろぐ場面も。上手く力をいなされ巴投げで一本負けはしたが、ポテンシャルの高さを見せる形となった。


ちなみに、ボビーの決めフレーズというか口ぐせの「もす」は、このとき「押忍」の間違った解釈から生まれたもの。
思った以上にウケたので、気に入って愛用しているようである。

本格的に総合格闘技修行スタート


このVTRを見た番組司会者の明石家さんまが、「年末の格闘技イベント出場も夢じゃない」と冗談半分で言ったことから、2004年末の『K-1 PREMIUM 2004 Dynamite!!』の出場を目指す企画にシフト。

同年2月には格闘チーム「GRABAKA(グラバカ)」に入門し、日本屈指の寝技のスペシャリスト、菊田早苗の下で本格的に総合格闘技を学び、ボビーはその恐るべき潜在能力をさらに発揮して行くことになる。

いきなり、プロも驚くほどのパンチ力を見せつけ、押さえ込みもパワーのみで跳ね返す。
ベンチプレス(ボビーいわくボンチプロス)では一般成人男性が40kgなのに対して、ボビーは106kgに挑戦し、軽々と反復運動を繰り返してしまうのだから、圧倒的フィジカルだ。

あのホイス・グレイシーを流血に追い込んだ!?


番組では、年末の大一番に向けたステップとして、あのホイス・グレイシーとの対戦を企画。世界的格闘技イベント『UFC』創世記を支えた(記事はこちら)超一流格闘家だ。


前日の記者会見では「あいつ(明石家さんま)のせいでこうなった」とボヤき、「ほんのきむち(気持ち)うれしかったらどうぞ」とホイスに手土産を渡すなど、いつものスタンスを崩さないボビー。ホイスを困惑させる作戦だとしたら、相当にしたたかである。

春の特番のための目玉企画であり、あくまでスパーリングマッチ(3分3R)。だが、リング上は真剣勝負そのもの。持ち前のパワーでホイスを圧倒する場面もあったが、さすがにホイスの守りは堅かった。
結果でいえば、2ラウンド1分40秒、腕ひしぎ逆十字固めで無念の敗北。
しかし、ホイスが目尻から流血し、明らかに疲労の顔を浮かべるなど、ボビーの大健闘ぶりが光る好勝負だった。

試合後、「彼は本物だ」と健闘を称えるホイスに、「今回の借りは働いて返すヨ」と応えるボビー。雑誌インタビューでは「次やったら、絶対に殺されてみせマス!」と断言するなど、お笑い芸人真っ青のボケを連発していたが、本気で悔しかったのも事実。

「悔しくて一週間眠れなかった」と、偽らざる本音も語っている。この敗戦はボビーの闘志にさらに火を点けたようだ。

ちなみに、試合翌日、ホイスはボビーに稽古を付けている。

テレビの企画上、2時間ほどではあったが、グレイシー柔術の秘伝の技を学んだことは大きな財産になったに違いない。

K-1屈指のケンカファイター、シリル・アビディに勝利!


年末のビッグイベントはK-1戦士のマイク・ベルナルドとの対戦が決定。11月26日の参戦発表記者会見でもボビー節は全開だ。

「K-1の試合は見たことがあるか?」との問いには「競輪は初めてデス」、「指導を受けている菊田選手からのアドバイスは?」との問いには「月謝が遅れないようにと言われマシタ」と期待に応えるボケっぷり。
「相手は人間だったら象でも亀でも戦いマス!」と最後まで意味不明なまま締め、試合前日の会見でも「リングの上で、10ヶ月習ったことすべてを出しそびれたいと思いマス」とコメントするから完璧だ。

対戦相手はベルナルドの負傷から急遽、“ケンカ屋”シリル・アビディに変更となったが、ボビーは臆することなく猪突猛進。相手の打撃を怖がらないのは、格闘技の試合で大きな強みだろう。

パンチで突進してダウンを奪い、マウントポジションを奪って上からパンチを連打。寝技を知らないアビディを攻め立てる。

そして、終始アグレッシブに攻め続けたボビーが判定で見事勝利!
大舞台のプレッシャーをものともせず、涙のマイクアピールも含め、最高の盛り上がりで締めくくっている。

元横綱・曙も撃破した!


その勢いから、翌年末の『K-1 PREMIUM 2005 Dynamite!!』にもボビーは参戦。
05年11月8日にはvs曙が正式発表されたが、ここでも安定のボビー節炸裂。
「すごく、カンチョウしてマス」「本物を見るとデカいから、断ろうかなと思っていマス」と、爆笑を誘っている。


圧倒的な素質、最高の練習環境があった上で、トレーニングは週6ペースだったともいわれるボビー。リングで対峙した時点で、格闘家としてまとうオーラ、たたずまいはボビーの圧勝である。
曙の巨体に圧殺されそうな場面もあったが、鋭いローキックで反撃。明らかにスタミナ切れになった曙を追い込んで行く。

2ラウンドには転倒した曙にパンチ、ヒザを叩き込むなど攻め続け、再びの判定勝利!
大晦日視聴率戦争の目玉企画に恥じぬ25.8%の高視聴率を獲得し、ボビー人気も最高潮。テレビで見ない日はないほどの人気者となって行くのであった。

06年1月、当時の所属事務所との金銭トラブルでケチが付いたか、以降の格闘技戦は黒星続きのままフェードアウト。しかし、騒動鎮火以降は人気外国人タレントとして白星街道爆進中といったところか。

現在、テレビ東京系『YOUは何しに日本へ?』でナレーターを務めるボビー。ホイス戦後のインタビューでは、自身が日本に来た理由を「小銭稼ぎ」と答えていたが、その目標は早々にクリアできたようである。

※文中の画像はamazonよりボビー・オロゴンの日本文化講座 美しい国,ニッポン。 [DVD]