年末ジャンボ宝くじの季節である。なんといっても1等の当せん金が7億円、前後賞を合わせると10億円にもなる。
目の色が変わる金額であるが、そんなに簡単に当たるものではない。宝くじ売り場にはたくさん預金してるはずなのに引き出せないんだよなぁ、とお嘆きの方も多いに違いない。

では実際に宝くじで高額当せんすると、人生はどうなってしまうのか。『ねほりんぱほりん ニンゲンだもの』『宝くじで1億円当たった人の末路』から、宝くじ当せんの「陰と陽」を見てみよう。
宝くじ当選者 その後の人生はどうなる?使い道、買い方、当たるコツを聞く
『ねほりんぱほりん ニンゲンだもの』(マガジンハウス)。パイロット版2回+シーズン1 16回の放送を文字起こし。人形操演の裏側、山里&YOUインタビューも収録。

1億円は「天からのプレゼント」当選者に聞いた使い道、買い方、当たるコツ


『ねほりんぱほりん ニンゲンだもの』は、Eテレで放送中の『ねほりんぱほりん』を書籍化したもの。顔出しNGゲストのトークを人形劇で再現するこの番組、書籍ではパイロット版+シーズン1の全18回分が文字起こしして収録されている。

「宝くじ1億円当せん者」の回(2016年11月30日放送)では、かつて宝くじで高額当せんを果たしたユキコさん(仮名)が登場。放送ではブタとモグラの人形劇になってしまうのに、トークのみの収録にもサングラス姿で現れたユキコさん。個人情報が漏洩せぬよう対策に余念が無い。

ユキコさんが宝くじにハマったのは中学1年のころ。それからコツコツ買い続け、1億円が当せんする前に1000万円が当たったこともある。くじの当せんはいつも宝くじ売り場で確かめてもらい、1億円が当たった時は店員が持つボールペンが小刻みに震えているのを見た。その日は土曜日。
もちろん銀行は営業していない。

ユキコ:手続きまで2日ありますから、とにかく券をなくさないようにとか、盗まれないようにということで頭がいっぱいでした(中略)家を出ないようにして、パンとか家に残っているのものだけを食べて過ごしました。2日間がすごく長かったですね。
ぱほりん(YOU):電話も着信拒否だし、もうピンポン鳴っても「いません」みたいな。
ユキコ:そうですね。
ぱほりん:すごい、でもいいですね。そうしたら、1億円「当せんセッ○ス」するっていう。
ねほりん(山里亮太):(笑)
ぱほりん:ご夫婦でね。
ユキコ:その余裕はもうないんです。
ねほりん:ほらYOUさん、宝くじは神聖なものだからね。

高額当せん者には銀行から「【その日】から読む本」という冊子が渡されるという。「興奮状態にあるという自覚を」「一人でも話せば噂が広まるのは覚悟しよう」など、当せん後の行動をマニュアル化しているのだ。
それだけ突然の幸運に舞い上がってしまうということだろう。

さて気になるのは1億円の使い道。ユキコさんは1億円を夫と折半し、預金通帳も二つ作った(明細には「宝くじ当せん金」の文字)まずはマンションのローンを返済し、自分用に300万円の車を購入。もちろんキャッシュである。

ねほりん:1億円当せんはご主人に伝えたということでしたが、それ以外に誰か伝えた人っているんですか?
ユキコ:直接言ったのは妹と弟だけです。基本はもう身内だけで。ただ、息子がいるんですけど、息子には伝えておりません。
ぱほりん:いいと思います。うちも息子いるんですけども、そんなことがわかったら彼らは働きません。

1億円は「天からのプレゼント」と捉え、大事に使いたいとユキコさんは言う。妹を旅行や食事に連れて行くなどしているそう。こういうちゃんとした人に当たると嬉しいねぇ、とホッコリするモグラたち。
お2人もチャレンジしてみては? と水を向けられるが、「いやいやいや」と否定する。

ぱほりん:うちらみたいな行いの人には当たらないんですよ、やっぱり。深酒が過ぎる、とかも神様は見てるので。
ねほりん:そうなんです。本当にそうです。逆に我々は怖いんですよ。そういうラッキーに当たることで、仕事運なんかが持って行かれちゃうんじゃないかと。
ユキコ:あー、なるほど。
ぱほりん:番組が終わった後のビンゴ大会なんかでも、心のどっかで当たんないように願ってますからね。

宝くじ当せんをひたすら追い求めるユキコさんと、明日が不確かな芸能界で生き抜くYOU&山里。両者の価値観の違いが垣間見えるやりとりだった。

鉄の意志を持っているという人ほど「危ない」


ユキコさんの体験談を読むと、よーし今から売り場に並ぶかと腕まくりのひとつでもしたくなる。だが、ユキコさんが言わば「宝くじのプロ」であることは、『宝くじで1億円当たった人の末路』を読むと分かるのだ。
高額当せんをした人は、そんなに平穏に暮らせないらしい。
宝くじ当選者 その後の人生はどうなる?使い道、買い方、当たるコツを聞く
『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社)。23の末路のなかには「電車で「中ほど」まで進まない人の末路」「「グロい漫画」が好きな人の末路」など、何の専門家に何を聞いたのかパッと想像できないものも。

『宝くじで〜』では、表題のほか「事故物件に住んだ人の末路」「キラキラネームの人の末路」など23の事例について専門家に取材し、その「末路」を探っている。宝くじの回で質問に答えるのは、マネーフォワード取締役の瀧俊夫氏。「宝くじに当たっても、ろくなことにならない」と真っ向否定の構えである。

「(悲劇となるパターンで)まずポピュラーなのは、家族・親族内トラブルだと聞きます。例えば、宝くじを当てると家族はもちろん、それまで縁遠かった親族までが直接・間接的に”おすそわけ”を要求してくる。家族の間でも、お金以外の話題が会話に出なくなる」

たとえ自分で高額当せんをカミングアウトしなくても、浪費が止まらず生活が派手になってバレることもあるそう。いやいや自分は鉄の意志を持っているからそんなことにならない、という人ほど「危ない」と瀧氏は言う。

「企業側も『急に資産を築いた人』の財布を開くためのマーケティングは研究し尽くしています。ただでさえ、人は『不慣れな金額の取引』は金銭感覚が麻痺して失敗しやすいものなんです」

例えば、普段800円のランチを食べている人が、別の店で1150円のメニューを前にすると注文をためらってしまう。しかし、5000万円で家を買ったとき、70万円のオプションは「安い」と思って付けてしまう。ランチで迷ったときの2000倍の金額にもかかわらず、だ。


麻痺した金銭感覚でVIPな生活に浸り、1億円が底を突いても生活水準が下がらない……こうなると危険だ。同様のケースで、米プロバスケットボール・NBAを引退した人の60%は5年以内に破産しているというデータもあるそう。

じゃぁ1億円当たったらどうすればいいの……という結論は本書に譲ろう。こうなると、妹と弟に当せんを打ち明け、少しずつお金を使いながら平穏無事にいるユキコさんの方がレアケースなのだ。元々宝くじが趣味で、過去に1000万円が当たるなどしているので「耐性」ができているのかもしれない。

「当事者」でズームイン、「専門家」でズームアウト


『ねほりんぱほりん』では、他に「元薬物中毒者」「痴漢えん罪被害者」「地下アイドル」など、当事者たちから生の声を聞き、事実を掘り返していく。

『宝くじで1億円当たった人の末路』では、他に「自分を探し続けた人」「賃貸派」「友達ゼロの人」などについて、その道の専門家たちに見解を聞いている。

どちらが正しい、ということはない。個人の生々しい経験談はその人独自のものかもしれないし、専門家の見解は現場の声に沿っていないかもしれない。ミクロかマクロかの違いなのだ。まるでスマホで地図をズームイン・ズームアウトするように。両者を読み比べれば、世界が広くなると同時に、解像度も細かくなっていく。



さて、せっかくなので最後にユキコさん直伝の「宝くじに当たるコツ」を。小さな親切など「日ごろの行いが一番大事」と前置きしたうえで……

ユキコ:みなさんジンクスがあると思うんですけど、私の場合は自分を信じるということですね。必ず当たるという強い気持ちで、買いに行かなければなりません。場の雰囲気に負けないようにな気合でいつも望んでいますね。

そのためにはメンタルを強くする必要があり、メンタルを鍛えるために筋力も鍛えているそう。「明日当たるかもしれないし、1年後かもしれない。モチベーションを常に一定にしていなければいけない」という……。

ねほりん(山里亮太)も「なんかオリンピックのメダル獲った人にインタビューしているみたい」というリアクション。1億円、そう簡単には手に入らないみたいです。

(井上マサキ)
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