年末に格闘技イベント「RIZIN」が開催されます。同イベントの中心選手といえば、シュートボクシングから出場するRENAとキックボクサー・那須川天心の2人の名前が多くの人から挙がるはず。


そして、エキレビでも以前、キックボクシングイベント「KNOCK OUT」での天心選手の試合をリポートしています。
ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
那須川天心vsアムナット・ルエンロン(2017年2月12日)

実はこの「KNOCK OUT」は、株式会社ブシロードと元キックボクサー・小野寺力が運営していた「NO KICK NO LIFE」が提携し設立された「株式会社キックスロード」が開催しているもの。要するに、あのブシロードが手がけるキックボクシングイベントです。
ブシロードの“トップ”といえば、木谷高明氏。10月に同社代表取締役を退任されましたが、まだまだブシロードの“顔”として多くの人から認識されているはずです。

この木谷氏主導のもとにブシロードは新日本プロレスを買収しましたが、もちろんそれは木谷氏の嗜好によるところが大きい。何せ、この人は生粋のプロレスファンなので。
それでいて、前述のようにブシロードは立ち技へも着手! 同社は、この“事業”にどういう意図や思いを込めているのでしょう?

その辺りのところ、じっくり探りましょう。元ブシロードで現在はキックスロード代表取締役社長を務める花澤勇佑さんに、お話をじっくりと伺ってきましたよ!
ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
花澤社長が取っているのは、天心選手でおなじみの「KOポーズだ」

ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
天心選手による「KOポーズ」。片手で「K」、もう一方の手で「O」を表している

ブシロードは、なぜ新日本プロレスを買収したのか?


──そもそもからお伺いしたいんですが、木谷さんが新日本プロレスを買い取った経緯を教えてください。
花澤 その頃、自分はブシロードにいなかったんですが「ビジネス半分、ロマン半分」ということだと思います。
──ちゃんと、ビジネスの観点からも「新日は買いだ」というご判断はあったんですね。
花澤 もちろん、もちろん。新日を買収したのは2012年なんですね。
その頃、新日本のリングってすっごい面白いんですよ。
──2012年っていうと、どういう時代でしたっけ……。中邑真輔は、もうIWGPを奪ってますか?
花澤 奪ってます。で、まだオカダ選手はいない。棚橋選手と中邑選手の2大エースがいて、後藤洋央紀選手が帰ってきて……
──ああ、あの頃おもしろいですよね!
花澤 はい。で、G・B・Hの真壁選手が2009年にG1奪っているんで、リング上は盛り上がっているんですよね。
──駒揃ってますよね。ああ、あの時はまだユークスでしたか!
花澤 ユークスさんです。で、外国人には今WWEにいるプリンス・デヴィット選手がいるし、ジャイアント・バーナード選手もいましたし。めちゃめちゃおもしろかったです。で、ブシロードは協賛してたので、会場に来てその状況がわかってたんです。コンテンツがいいのは明らかだったので「これは宣伝すれば一気に行くんじゃないか」と考えました。
みんな、キャラクターとして確立されていたので。
──そこにブシロードさんのノウハウがあれば……ということですよね。
花澤 ウチは宣伝大好きだし、大きく見せるのは大得意なので。その可能性がありつつ、あとの50%はロマンだと言っていました。
──木谷さんのその熱は、ファンにも伝わっていると思います。逆に、ビジネス的な勝算があっての買収という事実が意外でした。
花澤 いえいえ、もちろんです。
──と同時に、「木谷さんは格闘技もお好きなんだろうなあ」というイメージもファンの中にはあります。こんな質問が許されるかどうかわからないんですが、木谷さんはプロレスと総合はどちらがお好きだと思います?
花澤 う~ん……、同じくらいじゃないですかね。
──それは、新日の親会社の社長としては大胆な嗜好ですよね。
花澤 プロレスに関しては、ご本人が学生の頃に本当に大好きだったので。一方、総合に関しては何回も観に行ってるくらいPRIDEが好きだったんです。


ブシロードが立ち技に進出した理由


──木谷さんが総合をお好きだということはファンも承知の事実だと思います。そんな木谷さんが立ち技のイベント「KNOCK OUT」に携わった経緯をお伺いしたいんですが。
花澤 2015年の夏前、2人で話していたんです。新日のことから、僕がスポーツビジネスに興味があったのでスポーツコンテンツのことなどを。で、東京オリンピックを控えていて、尚且つ色々な配信等によって「コンテンツとしてスポーツの価値が上がってきていますよね」と話していて、そこでやっぱり格闘技の話題になったんです。その時、木谷は「総合をやることはない!」と断言したんです。
──それは、UFCがあるからですか?
花澤 そうです。「あそこを目指すのが夢になってしまっているから」と。一方、立ち技はどうなのか? 「今、立ち技の世界的トップってどうなんだろう。ないよね、別に? ちょっと調べてみてくれない?」っていうところから始まったんです。
──消去法みたいな形でしょうか?
花澤 プロレスは芽があるけど、総合にはない。で、昔、K-1さんがあれだけ流行っていたものの、今の立ち技はどうなのか?
──90年代はオランダが本場と言われていて、それをK-1がまとめ上げ、そのK-1に色々あった……という流れがあります。
花澤 そうですね。
そこで、木谷から「ちょっと調べてみてくれないか」と言われたところから始まったんです。僕はその時、新日本にいたんですけど、いながらチョコチョコと調べていたんです。で、その2週間後だったと思います。あの人、スイッチ入ると早いので。いきなり休みの日に電話がかかってきて「花澤、この日空いてるか? 紹介したい人がいるから」と言われ、僕行ったんですよ。五反田の事務所だったと思うんですけど。そこに、小野寺さんがいたんです。あとは僕がいて、木谷がいて、小野寺さんを紹介していただいた人の4人がいて。その時、僕と小野寺さんは何も知らないんです。
──えーっ、小野寺さんも!?
花澤 小野寺さんも何も聞いてないんです。で、木谷がいきなり「キックやろうと思ってるんだよねー」って(笑)。
──ハハハハハ!
花澤 「あっ、そうなんだ」と思って(笑)。
その時、小野寺さんも「NO KICK NO LIFE」をお一人で手がけていらっしゃったんですが、本人曰く「この先、どうしようかと考えていた」と。小野寺さん、年一回で一人で大田区総合体育館で興行を打っていたんで。
──凄いな!
花澤 「花澤と小野寺さんとでできるかどうか現実的に探ってみてよ」っていうところから始まったんです。

頓挫しかけていた「KNOCK OUT」旗揚げプラン


──ただ、旗揚げまでには色々あったともお伺いしています。
花澤 プロレスと格闘技は似て非なるものです。プロレスは完全に興行ビジネスじゃないですか? 年間に130試合あって、130日キャッシュが入ってくる。いわゆるサーカス団的なビジネスモデルです。格闘技は、選手のことを考えると2ヶ月に1回くらいのペースでしか試合ができません。だとすると、興行で収益を得るは難しい。「これって本当に事業化できるのか?」という話があって。
それで、2015年の時点で「難しいだろうな」と、一度は旗揚げの計画が立ち消えになっているんです。で、年が明けた2016年。
小野寺さんとずーっと話してる内に「上に了解取らずに勝手に手を出しちゃおう」と、NO KICK NO LIFEのウェブサイトを一人で全部作り直したんです。小野寺さんには「SNSのアカウントは全部自分に回してください」と言って。当時、自分はプロモーション部門にいて興行の経験がなく、できることはそっちだったんです。加えて「過去の試合映像はすべてYouTubeに上げよう」と。NO KICK NO LIFE開催の3月に向けてどんどんプロモーションをやっていこうと。
その時も普通に仕事してたんで、勤務が終わった後の夜中とかにリリースを打ってました。それで、なんとか2016年の3月に大田区でNO KICK NO LIFEが開催されて、約3000人のお客さんが入りました。で、僕もやって面白かったですし。あと、その時に試合に出ていた選手たちの中には那須川天心選手がいましたし、梅野源治選手もいましたし。
ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
おなじみ、“神童”那須川天心

──おーっ、その2人が!
花澤 あと、森井洋介選手と町田光選手もいました。
ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
森井洋介選手を中央に、向かって左隣にいるのはなんと藤原敏男! そして右隣にいるのは“野良犬”小林聡

今、KNOCK OUTに出ている選手が、その時のNO KICK NO LIFEには出ていたんです。なので、「なんだ!」って思ったんです。「思ったより全然面白いじゃん!」「やっぱりトップクラスはみんなキャラクターあるじゃん」って。色気もあるし。特に、僕は天心選手と梅野選手に関してはすごく感じたので。
──過去のゴン格のインタビューで、花澤さんは「選手の入場シーンをすごく重視している」と仰ってましたけど、そういう部分も含めてということですか。
花澤 そうですね。プロレス的な見方なんですが、入場してきてワクワクするか。「あの曲が鳴ったらあの選手が出てくる」みたいな。
ブシロードがキックボクシング進出の理由。那須川天心参戦の「KNOCK OUT」トップが明かした
入場時の町田光選手

特に、天心君と梅野選手に関しては色気が別格だなと。
──対象的なキャラクターですけど、両輪として存在していますよね。
花澤 ええ。梅野選手のラスボス感たるや。そして、天心選手のイケイケ感だるや! 今、天心君はRIZINさんやメディアに出ていますけど、あの頃は「この人たちはもっと売れていいだろう」って感じたんです。他のスポーツコンテンツに負けてないし、もっと多くの人に見てもらっていいんじゃないかと。で、実はそのNO KICK NO LIFEのイベントを手がけるちょっと前辺りに、ブシロードを辞める旨はチラッと伝えていたんです
──えっ、そうなんですか!?
花澤 はい。新日本にいたんですけど、団体には45年の歴史があるし、中枢のポジションでやれることがあまりない。年齢にしても、私は下から数えたほうが全然早いんですよね。あと、「キング オブ プロレスリング」というカードゲームも担当していたんですけど、そのサービスの終了が告知された頃でもあったので「もう、いいかな」という心境でした。元々、自分は独立してた人間だったので「もう一回、独立しようかな?」と思ってたんです。で、NO KICK NO LIFEが終わった後に、木谷に「辞めようと思ってます」と話をしました。
──そうなると、KNOCK OUTのプランは頓挫してしまいますね。
花澤 事実、立ち消えの話が出ていました。キックはやりたいんだけど、ちょっと難しいかな……という空気だったんです。で、木谷にその意志を伝えたら「辞めて何やるんだ?」と聞かれたので「キックをやろうと思ってます」って答えて。その話をしたら、木谷は「キック!? キックはなくなっただろ?」っていうリアクションで、僕は「別でやろうと思ってます」と話をして。リスクに関しても収益についても見えない部分が多かったので、ブシロードでできるのかが疑問だった。だから、一人でやろうと思ったんです。木谷は「そうかあ」という反応だったんですけど。でも、次の日に呼ばれていきなり「キックやろう!」って。
──おぉ……。シビれますねぇ!
花澤 シビれました。その言葉を聞いて、一瞬、意味がわからないくらいでした(笑)。「キックやろう。もう、ブシロードでやろう。子会社作ろう。やって。社長ね」って。
──カッコいい! 『島耕作』みたいですね(笑)。
花澤 アハハハハ! 「えっ、でも色々な問題がありますよ?」「いや、やるって言ったらやる! おまえ、やりたいんだろ?」「はい」「じゃあ、精一杯やれ」って。
──じゃあ、立ち消えになったものの、改めて小野寺さんと「ブシロードでまたやりましょう」という流れになったんですね。
花澤 そうですね。そこからは、今に至るまで物凄いスピードでしたね。KNOCK OUTの旗揚げ記者会見をしたのが2016年9月だから、「やろう!」から半年弱ですか。
──凄いですね、一度は立ち消えになったのに。
花澤 で、木谷に「2016年のうちに大会やって」って言われて。「会場押さえろ」って。でも、押さえられないじゃないですか?
──特に、年末なんか難しいですよね(笑)。
花澤 全然押さえられなくて「どうしよう」って色んなところを当たってたら、旗揚げ会場になったTDC(TOKYO DOME CITY HALL)がなんとか空いて。平日の月曜でしたがすぐ取って。でも、その時の僕はチケットどうやって売るのかさえわからなくて(笑)。
──ああ、そうか。新日のときはそういう業務をされてなかったんですもんね。
花澤 そう、だから教えてもらいながら。図面なんかも全然わかんないですし。一人だったんで(笑)。
──いわゆる、リング上のことは小野寺さんがやって、そこに至るまでは花澤さんが一人で全部担当するということですか。おわぁ……。
花澤 渋谷のO-EASTで会見をやったんですけど、リングはRIKIXさんが一生懸命組み立ててて、配信周りとかは僕の方で色々お願いしたりして。他にも「グッズってどうするんだ?」みたいな(笑)。
──そんな感じだったんですか! それ、もう修羅場ですね(笑)。でも、その苦労が旗揚げ興行の天心選手(那須川天心がルンピニー王者にバックスピンキックで1RKO勝利)につながったのなら、報われましたね!
花澤 それはありましたね(笑)。
(寺西ジャジューカ)

後編へ

那須川天心参戦! 東京・大田区総合体育館「KNOCK OUT FIRST IMPACT」
■日時
2018年2月12日(月)
開場16:00 開始17:00
■チケット販売場所
チケットぴあ

KNOCKOUT公式サイトはこちら
編集部おすすめ