これはニコニコ動画史上ダントツ1位の早さだ。
けれどもほとんどの視聴者は、傑作とは言わず、口をそろえて「クソアニメ」と答えるはずだ。

前代未聞の24分、様々な元ネタを持つパロディ満載
大川ぶくぶ原作の『ポプテピピック』は、ポプ子とピピ美という2人のキャラが織りなす、不条理マンガ。
と言っても吉田戦車や榎本俊二や吾妻ひでおなどと異なり、アニメ・ゲームのパロディが非常に多く、かつ2ちゃんねる的なオタク・サブカル文化への明確な煽りも含んでいる。
ナンセンスを目指しきっているわけではない、独特な構造だ。
出版元の竹書房公式で「クソマンガ」と呼称。たくさんのファンに、愛をもってけなされ続けてきた。
アニメ序盤はこの「クソマンガ」っぽいギャグを、パロディ混じりでいい具合に見せる構成。
ただし、事前告知で報じられていた声優が出てこない。
本来はポプ子役が小松未可子、ピピ美役が上坂すみれ。
蓋を開けてみるとポプ子が江原正士、ピピ美が大塚芳忠という、ダンディすぎる声優に。
ここは原作者が希望していたネタなので、ファンも納得のサプライズだった。
一番の問題は中盤から。
30分枠(アニメ自体は24分弱)のアニメであるにもかかわらず、半分の時点でエンディングが流れ始める。
そのあと、二周目が始まった。
声優は、ポプ子が三ツ矢雄二、ピピ美が日高のり子(高ははしご高)という、『タッチ』のコンビ。
アニメはというと、一周目完全にそのまま。
30分枠で同じアニメを二回放送したのだ。ファンいわく「声優リセマラ」。
動画やSNSの感想による「バズらせ」特化の試み
さすがにこれには、ネット各所で賛否両論。
確かに斬新ではある。
けれども「アニメ作品としてプラスなのか」と言われると、悩ましい。少なくとも傑作とは言いがたい。映像技術における実験的作品、というわけでもない。
公的に言われ続けてきた「クソマンガ」に対しての「クソアニメ」という褒め言葉には、ぴったりだ。
これによって『ポプテピピック』はWebで、今期トップレベルで話題になることに成功した。
賢い作品だ。
ナンセンスじゃない。ネットでバズらせるための仕組みがあちこちに練り込まれ、よく計算されている。
アニメ本編がどんなに面白かろうと、吹き替えがどれだけ巧みだろうと、強制的に二周目を見せられたら、さすがに同じくらいの感動は起きない。
この体験を、誰かに言いたくなってしまう。フラストレーションは、SNSやニコニコ動画のコメントに吐き出される。
「なんでだよ」「ふざけるな」「クソアニメ」と言いたくて仕方なくなる。
褒め言葉も文句も、ネットにあがればその時点で立派な宣伝。
何より「一回目でこんなひどい(褒めとけなし半々)ことをしたからには、二回目どうするんだろう」という引きができている。
加えて、エンディングテーマをかつて発表していた人ではなく、赤羽根健治と武内駿輔が歌う、という飛び道具を撃ってきた。
これにはアイマスファンは、度肝を抜かれた。
赤羽根健治は『アイドルマスター』のプロデューサー役。武内駿輔は『アイドルマスターシンデレラガールズ』のプロデューサー役。
こんなところで初共演させられてしまったのだ。これには赤羽根健治本人も驚いたとTwitterで言っている。
作中のワンコーナーを「SUSHI食べたい」のMVでおなじみのAC部が作るという、これまたネットユーザーのツボを突くネタをぶっこんできた。
AC部の絵柄とアニメーションは、極端にクセが強い。
AC部が作った時点で『ポプテピピック』じゃなくて「AC部」なのだ。
作品を作る上では、かなりずるい。
しかしこれも、ニコニコのコメントでは激しく賛否出ており、狙いは大成功している。
WEB配信にもものすごく力を入れており、あらゆる配信サイトを網羅しているのはもちろん、ニコニコ動画、AbemaTVなどSNS形式のところではきっちり地上波同時配信している。
これなら、日本中の人間がネタバレどうこう言わずに済む。
「クソアニメ」という褒め言葉
本作を『ウゴウゴルーガ』と比較する声も見られた。
雰囲気は似ているが、計算して整理された作りは、『ウゴウゴルーガ』の鬼才が集まってバブリーに好き勝手やった実験的なノリとはちょっと違う。
『おそ松さん』のナンセンスさと比べる声もあがっていた。
しかし『おそ松さん』本編が持つ、「人間うまくいかないことばっかりでやりきれけど、これでいいのだ」という赤塚不二夫ブルースのような頑丈な軸は、今のところ『ポプテピピック』にはない。
むしろ人生論は意識的に排除している。
おそらく2話こそが本番だろう。
原作が持つ狂気的なスピード感を、今後どういう手法で再現するか。
どこまでネットにバズらせる仕掛けを用意するか。
「がんばるぞい」は使えるのか。
ある程度しっかりした理念がないと、作るのがめちゃくちゃに難しい作品なのだ。
「クソアニメ」という保身に走ることなく、「全力のクソアニメ」と褒められる作品になってほしい。
(たまごまご)